第11話 〇〇は私の仲間になりたがっている。仲間にしますか?
やっとたどり着いた次の部屋。
そこにあった休憩場所で仮眠を取る私。
突然起こされ、そこには謎めいた浅黒い肌の少女が!?
ダークエルフかと思いきや、まさかのハイエルフ!
モーリと名乗るその魔導師は、敵か味方か!?
次回、『キミが導くダンジョンと私』!
〝〇〇は私の仲間になりたがっている。仲間にしますか?〟
→はい? いいえ? の巻!
なんて脳裏に浮かぶ、謎の予告編を振り払い、
私はモーリという名の、彷徨う探索者と対話した。
「モ、モーリさんも、女神の導きでここに?」
「女神? ううん、違う。気が付いたら、裸でここに居た」
「ほぼ一緒だ……」
少し彼女に事情を尋ねてみる。
女神の力で転移したかどうかは不明だけれど、彼女も私と同じ状況で目覚めたらしい。
さすがにいきなり導き手の話をしても、きっと警戒されるだろう。
私はあえてそのことに触れず、話を続ける。
すでに杖やローブを身に着けているのは、彼女が元々魔導士だったから。もう五匹ほどモンスターを倒したらしい。装備はそのとき手に入れたとのこと。
「えっ! もしかしてそれ、宝箱からですか!?」
「宝箱は運が良かったら出る。中身は開けた人が必要なモノしか出ない」
「や、やっぱり運ですか……でも必要なモノって――」
「ダンジョンの宝箱はそういうルール。だから取り合いになる。みんな欲しがるから」
なるほど。宝箱はモンスターから一応出るようだ。
それにしても、ダンジョンの宝箱には、そういうルールがあったのか。それよりも、たった五匹で宝箱からいくつも装備を手に入れられるって、モーリは運が良過ぎなのでは。
「ナナヨだって、そんなにいっぱい装備品を手に入れてる。すごい」
「えっ? あ、いや、これは……」
モーリはそう言いながら、私の装備品をチラチラと見ている。
まあ、宝箱からじゃなくて、私の寿命で買ったやつばかりなんですけどね。
「下着も?」
「えっ? あ、は、はい、一応……」
突然、モーリが下着の話題を振ってきた。
彼女の興味は私のレギンス風パンツのなかに。
女性として下着事情は、一番気になるところ。
ちょっと恥ずかしくなるも、正直に答える。
さすがの彼女も、下着はまだ手にしていないのか。
「いいな。私なんてまだローブだけ。ほら」
突然、何を思ったのか、おもむろにモーリが、自分のローブを胸までめくり上げた。
「わわっ! そ、そんな、見せなくっても大丈夫ですよお! こっちが恥ずかしくなりますっ!」
「え、なんで? 別に普通」
いきなり初対面であるモーリの、下はおろか、小さなおっぱいまでもがバッチリと見えてしまい、さすがの私も赤面のまま驚愕する。
一瞬で我に返り、あわててモーリのローブを直してあげるも、彼女は別段気にもせず、私の行為を不思議そうに見ているだけ。
「女の子がむやみやたらと、裸なんて見せたらダメですよ!」
「ああ。人族はそうなんだ」
「ひ、人族って……」
あれ、これって人間だけが恥ずかしがってるの?
他の種族やハイエルフは気にしないものなの?
そんなモーリの台詞は、私の価値観を狂わせる。
とにかく、人種どうこうではなく、ダメなモノはダメだと、彼女には十分言い聞かせた。
「実はこれ、あるお店で購入したモノなんです」
「店?」
「はい。ちょっとお値段は張りますが、宝箱のように、自分の好きなモノが買えるところでして――」
そこまで言いかけた瞬間、目を見張るモーリに激しく肩を掴まれた。
困惑する私の眼前には、それまでのぼうっとしたようすとは違う、彼女の別の顔が迫ってくる。
「それって、もしかして【白の道具屋】!? 行けるの!? あの場所に!?」
「ええっ!? あ、は、はいっ! な、何度か……」
「何度も!?」
「何度も……です」
私の言葉を受け、全身をわなわなと震わせながら、拳を握りしめるモーリ。
まさか、彼女が【白の道具屋】のことを、知っているとは思わなかった。
もしかして、有名な店なの?
「ナナヨ……」
ひとしきり感動に打ちのめされたようすのモーリが、突然私を真剣な眼差しで見つめる。
「な、なんでしょう……」
何か告白めいた予感を感じ、
思わず私も姿勢を正す。
「私、ナナヨについて行く」
「えっ!?」
「ナナヨの仲間にして」
「えっ! 仲間ですか!? ほんとに!?」
まだ会ったばかりのモーリから、突然の仲間入り宣言。
「いやーさがしましたよ」よりもすんなりと、仲間が増えたのは正直嬉しい。
それが例え【白の道具屋】が目的だとしても――、
「あぁーそ、それはありがたい申し出なんですけど、実はですね……」
「え、ダメ? ナナヨ、私のこと嫌い?」
「極端過ぎるなあもう。違いますって、実はですね。私――!」
そこまで言いかけた私は、あることを思い出す。
そう、魔剣士になったことで、身体能力がこれまで以上に上がったことだ。
― 身体能力低下 ―
それは女神によって知らされた、異世界転移による影響の後遺症。
ここぞというときに、正確な判断が不可能となり、めまいなどによって、行動不能となる
魔剣士になったことで、その症状はもう解消されたのでは?
前向きな考えが頭を巡る。
それならもう、導き手のチカラを借りなくとも、私は自由に行動できるはず。
だったら、モーリを仲間にしても、いちいち啓示を待つ時間に付き合わせることもなく、私自身が彼女の足手まといにもならない。
イケる! 私、これで自由だ!
と、そう判断した瞬間だった。
「む」
「えっ?」
突然、私とモーリのあいだに、光りが生まれる。
それはこれまでに何度も遭遇した光――、
「「導きの光版」」
ふたりの声が重なったと同時に、私たちはお互いを凝視する。
「「えっ?」」
その疑問の答えを、互いに導き出す時間もなく、
私たちの前にそれは現れた。
【導きその五】
運命を共にせし可能性と遭遇した神武七夜は、その者と歩むことを是とするか。それとも否か。
1 魔導士モーリが仲間になりたがっている。神武七夜は仲間にしますか? 【はい】
2 魔導士モーリが仲間になりたがっている。神武七夜は仲間にしますか? 【いいえ】
3 魔導士モーリが仲間になりたがっているが、神武七夜はそれを断り、その詫びとしてコートを彼女に与える。モーリはひとり、【白の道具屋】へと向かった。これにより神武七夜は、永遠に【白の道具屋】への扉を開ける術を失った。
以上、三つの運命を提示、導き手の指示を待つ。
「そ、そんなあ……身体……強化したのにぃ……」
デジャヴのような現象を前に、激しく憔悴する私。
そこにはさっき過った、謎の予告編通りの導きがあった。
絶望と困惑が私を襲う。
魔剣士として強くなったにもかかわらず、再び目の前には、女神の導きが現れてしまった。しかもここにきて、モーリの意思に関係なく、導き手の判断で仲間にするか否かと迫ってきた。
「あ、あの……」
申し訳ない気持ちで、モーリと視線を合わせる。
相対する彼女は、私と、消えかけている導きの光版を、交互に見つめていた。
「神による古の秘術……」
「えっ?」
完全にその姿を消した光版から目を逸らし、
俯きつつ、何かを確信したかのように呟くモーリ。
神の秘術とは、あの導きの光版のことだろう。
私のあずかり知らぬ、様々なことに精通しているような彼女の表情。
そして、そこから決意の表情へと様変わりする、赤いハイエルフの瞳が私と交わった。
「ナナヨ。大丈夫。私、導き手に従うから」
「モ、モーリさん」
その目に、モーリの強い意志を感じ取れた。
彼女がどこまでこの状況を理解し、なおかつ私に力強い言葉を投げかけてくれる理由はまだ定かではない。
下手をすれば、ハイエルフという種族に騙される可能性だってある。
だとしても、これからどうなるかは、導き手次第。
そんななか、ただひとつ言えるのは、
そこに、モーリを仲間にしたいと強く願う、
私がいたことだった。
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