第4話.死
近くの木の側に辿り着いた遠夏海は、走り飛んでくる巨体を目にし、その余りにも現実とかけ離れた光景に恐怖を感じていた。
(速や)
決して大男が太っている訳ではない、だがアスリートの様に限界まで絞り上げられた身体というよりは、脂肪も含んだ肉付きの良い身体なのだ。
その巨体が俊敏と言って違いない速度で進み、距離を離せずとも保てると思っていた遠夏海の予想は外れ、一瞬にして眼の前まで迫っていた。
「死ねぇ゙ッ」
大振りの右フックを捉えた遠夏海が、相手の甲に自身の手の平を重ね狙った方向に受け流そうとするも、手と身体を捻り避けていた。
空を切った大男の右拳が背後の木を穿ち、激しい衝撃音と共に吹き飛ばされる様にへし折られていた。
(マジの化け物じゃねぇか)
徹夜の眠気など軽々と吹き飛ばされた遠夏海は、意識の全て大男に向け、生死を分ける戦いにその身に投じていた。
「すぅぅぅ(折れろ)ッ!」
大きく。そして右拳を空きとなった大男の右側面狙い流しながら、素早く息を吸い込み。取り込んだ空気が身体中を巡り放った遠夏海の蹴りが、撓る様にして大男の右脇腹を強打していた。
「がぁ”ッ―――ぁああ”ッ」
血反吐を吐き身体を丸めた大男が、苦悶の表情を浮かべながら後ろで握り拳を作った左手を振り下ろし反撃していた。
「はっ」
木を吹き飛ばした大男の身体能力を観た遠夏海は、耐えられる事を想定していたものの、実際に起こったその光景は余りにも理解し難いものだった。
振り下ろされる拳よりも先に蹴った反動で遠夏海の身体は動き、身体が退いた場所を拳が穿ったと同時に大きく跳躍し距離を取り直していた。
(熊の方が楽って何だよコイツ)
「あんた流石に頑丈過ぎねぇか?こっちは殺す気で蹴ったんだぞ」
「ふざけんじゃッねぇッ!ガキがァ゙ア”ッ」
(吐血したんだから、流石に内部には効いてるか。にしても叫べる程には元気って…元の世界じゃ間違い無く、世界トップレベルじゃねぇかよ)
「ゔぇぇッ」
叫び散らしていた大男が再度血反吐を出し、心臓に手を当て咳き込んでいた。
「何だ、効いてるのか…」
声色が変わった遠夏海が呟くもその声は届かず、片手を膝に置いた大男は下を向いていた。
(それなら再度本気で)
遠夏海は大男目掛けて駆けていた。
俯向いていた大男が僅かに遅れて顔を上げ、駆けてくる遠夏海に向かって膝に置いていた腕を力強く振り払うも、跳ねた身体は既に太い腕の上を舞っていた。
「
宙を舞った遠夏海が上半身を主軸に両足を広げ、強く撓らせた右足を振り上げた瞬間、大男は口角を上げ笑っていた。
「バカがァ゙ッ”‼」
身体に当てていた手には金属質のアクセサリーがいつの間にか握られて、大男はそれを遠夏海に突き出す形で向けていた。
丸みを帯びた長方形の薄く小さなプレートが白く輝き始め、瞬く間にその光は遠夏海が自然と目を覆う程の光量に達し、振り払った太い腕を大男が構え直したが、直後に加わった衝撃によりその太い腕は不自然な形で折れ、
「これで終わりだ。二」
腕をへし折った回転のままに、再度空中で身体を捻った遠夏海が逆足で大男の頭部を蹴りつけ。連続して聞こえた骨の音を最後に、その頭部は身体と付いているもののぐったりと倒れていた。
「ぁぁ――――」
「いてっ」
ろくな受け身を取らず地面に落ちた遠夏海が声を出し、ぶつけた箇所を気にしながらゆっくりと起き上がるも、視線だけは横たわる大男に依然と向けられ続けていた。
(本当に死んでるよな?これで生きてます何て言われたらもう、俺にはどうしようもないぞ。それこそ化け物だし、インチキだ)
警戒しつつ一歩、また一歩と距離を保っていた時だった。
≪経験値を獲得しました≫
≪Lvが4から13に上がりました≫
≪ステータスをご確認下さい≫
また聞こえてきたその音声に耳を傾けていた。
(確実に死んだみたいだな。にしても流石と言うべきか、大男の経験値は最初に倒した奴よりも遥かに多いな。てかステータスって何だよ)
自身のLvが急激に上がっている事を自覚しつつ、悩み始めた事で、遠夏海の前には半透明の広いボードが宙に浮き、一回り小さなボードと二重で現れていた。
【波平 遠夏海】Lv13
【職業=未定】
魔力強度・1
魔力操作・1
魔力放出・1
魔力変化・1
火・0
緑・0
氷・0
水・0
毒・0
雷・0
[]・0
[]・0
『魔力ポイント残=13』
『属性ポイント残=13』
各消費ポイント数は、上げる順番に対し上がっていきます。
一つ目の魔力項目であれば1から2にする為には1ポイント消費し、
三つ目の魔力項目であれば1から2にする為には3ポイント消費します。
これらはレベル2以降も半永続的に適用されます。
魔力項目とは別の区分とし属性値もそれに準じます。
一つ目の属性であれば1から2にする為の消費ポイントは1ですが、
四つ目の属性の場合は1から2にする為に4ポイントを必要とします。
これらはレベル2以降も半永続的に適用されますのでご注意下さい。
(紛れもなくゲームだ…)
ゲーム狂人が異世界転移に気づいたのは、斧を人に投げてからだった。 松井 ヨミ @MatuiYomi
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