第13話 クランシティ



【現在貢献度:4,840,930FAME】


 塔を倒壊させての大討伐。

 それによって作られた数百匹の死骸を回収した。


 更に一月ほど地下都市跡の探索を行った。

 俺の貢献度は五百万近く溜まっていた。

 これは、借金を全て返済しての額だ。


 装備も逐一アップデートしている。

 消耗品も使った分は買い溜めている。

 にも関わらず、これだけのポイントが余っていた。


「って訳で、そろそろ空間を広げたいんだが」


『よろしいかと。

 宿場が一軒のみ。

 と、随分殺風景な光景でしたから。

 街の風景や背景の要望も受け付けます。

 ただ、改築する際は別途料金を頂きますので金額的に考えれば悩まれて作成した方が良いかと』


「まぁ、基本的な構造はお前に任せる。

 別にここに俺が他の人間を連れて来ても問題無いんだよな?」


『えぇ、アリバには当機の現在地を教えていません。

 他の人間が来たとしても私の意の中。

 わたくしに不利益を生じさせるのは不可能です』


「そんな事はしねぇよ」


『可能性が無いという事が重要なのです。

 それでどうしてその様な質問を?』


「俺はクランを作りたいんだ」


『クラン……?』


「仲間と共に世界の真実へ至る。

 そんな目的の為の集団だ。

 その拠点をここにしたい」


大猪鬼帝オークロードを討伐した際の仲間を招くと?』


「それだけじゃないし、必ずしもそうじゃない。

 もし、あいつ等が弱いなら要らない。

 それにあいつら以外にも仲間は欲しい」


 俺の目標は人類最強の集団だ。

 それは親父を越えるって事だ。


 モルジアナやアナスタシア。

 ラーンであっても。

 弱いのなら、着いてこれないのなら、無理に共にする必要は無い。


 まぁ、あいつ等に限ってあのままなんて事はないとは思ってるが。


 あいつ等は強かった。

 実力以上にその意志が。

 弱さをそのまま残しておくなんて所は想像できない。


「ここは利便性も最高だ。

 転送門があれば全世界を調査できる。

 建造物も環境も自由自在。

 羽を伸ばすにも最適だ。

 それに、なによりも」


 雪の様に白い姿の彼女レイシアがジッと俺を見ている。

 今日は白いチャイナ服だ。


 見定める様に。

 見据える様に。

 俺の意思を問う様に。


「ここにはお前が居るからな」


『……』


「お前は優秀だ。

 この一月でそれは十分理解した」


 圧倒的な演算能力。

 作戦内容を理解し改善案を出す分析眼。

 戦術に見合った装備の選択と開発。


 それは、拠点の主として最適な性能だ。


「俺はお前が欲しい。

 できれば、クランに入って欲しい」


『それは私に配下になれと、そういう申し出でしょうか?』


「あぁ、その通りだ」


 俺の言葉に、レイシアは首を横に振った。


『現時点で貴方にその価値はありません。

 神操術使いである。

 だけなら地上には多くの適性者が居ます。

 その中で貴方を選ぶ合理的な理由は無いかと』


「……そりゃ、確かにそうだ」


『ですが私は船の機能の一つでしかなく、船には船長が必要です。

 私はそれを「資質」と「適正」と「能力」で選びます。

 もしも、他の全ての可能性を出し抜き、貴方が最適な人材であると私が判断した暁には、こちらの方から仕えさせて欲しいと懇願致します』


「あぁ、今はそれで構わない。

 どちらにせよ最強は俺が獲る」


『楽しみにしております。

 しかし、誤解が一つあるようですね』


「誤解?」


 俺がそう呟いた瞬間だった。


 大地が響く。

 天が割れる。

 世界が崩壊を始め。


 同時に、創造が開始された。


『私の能力を一月で把握した?

 貴方に施した加護など、当機の機能の数パーセントでしかありません。

 その程度だと思って貰っては困ります』


 怒り。

 なんて感情をこいつは保有していない。


 こいつはただ勘違いを指摘しているだけ。

 一月もあれば、性格も何となく理解できるようになった。


 レイシアの正義とは、きっと正確さという意味なのだ。


 ガリガリとFAMEが消費されていく。

 同時に虚数空間が拡張されていく。

 それは街だ……


 凄まじい速度で形成されていく。


『これが貴方の有する世界。

 貴方の夢を叶える為の世界です』


 天に彗星が走る。

 左の空は赤く輝き、右の空は青く染まる。


 道を切り開き、天を進むその姿。

 銀河の狭間を走る一条の光は、宇宙船レイシアを例えた物なのだろうか。


 転送門が集中した発着場トラベルポート

 それは大理石とクォーツで造られた神殿だ。


 更に、その発着所を中心に建造物と道が囲う形で都市を形成していく。


 六つの巨大な塔……ビルと呼ばれる建造物がトラベルポートを囲う様に並ぶ。


 そのビルを起点に、円形の道と川が形成される。

 更に道と川の脇に建物が追加されていく。


 六つのビルが表すのは、商業区、生産区、居住区、訓練区、情報区、宗教区。

 冒険者の冒険を助ける施設の設置。

 そしてそれが一目で分かる街の構造。


 更に各ビルには転送門が設置されており、ビルからビルへの転移によって移動時間を大幅に削減する事ができる。


 建築様式も文化も疎ら。

 木材の家もあればレンガや石造、鉄とガラスの家もある。


 しかしその全てが同じルールに従い幾何学的に並び、だからこそ町全体に統一感が感じられた。


『完全な円形で直径は2km。

 面積は約3100k㎡。

 如何でしょうか?

 これが当機の性能です』


「はは、凄すぎるな……

 俄然お前が欲しくなった。

 必ず認めさせて手に入れてやるよ」


『しかし、街を広げ機能を増やせば当然ながら維持費も増します。

 まずは、その維持費を稼げる能力、所謂甲斐性がある事を証明して頂きましょうか』


「あぁ、幾らでも稼いでやるさ」


 こんな物を見せられて昂らない訳が無い。

 資材回収。

 本腰を入れてやってやる。




 ◆




 一月という時間を経て、俺は地底都市の全体像を把握していた。


 正直、魔物との戦闘は退屈だった。

 だが、それは遊んでいた訳ではない。


 俺の神操術や身体能力の把握。

 地形や出現する魔物の情報収集。


 より安全に、より確実に、確実慎重に。

 けれど、明確な目標を持って行動する。

 それが俺のやり方だ。


「キャウゥゥン」


 襲って来たロックウルフを撃ち抜く。

 こいつ等が分布的に最も多い魔物だ。


 強敵を見つけると遠吠えを上げ、周囲の魔物を呼び寄せる習性を持つ。


 だが俺も戦い慣れた事で処理する速度が上がり、呼ばれる速度よりも速い速度で討伐できるようになった。


 モノクルのお陰で奇襲も無い。

 最早こいつ等は脅威では無い。


 死体を回収しながら目的地に向けて歩いていく。


 俺が倒壊された塔の様に、この街にはある程度の腐敗防止の機能がついた建造物が幾つか存在する。


 その内の一つ。

 強力な魔物が住み着いている場所がある。

 それが、今回の俺の目的地だ。


『図書館跡地ですね』


「しかし、なんでそんな場所に強い魔物が集まるんだ?」


『歴史的な物品の倉庫として使われていた部屋があります。

 ミスリルやヒヒイロカネの様な多数の超希少金属が保管されており、それが彼等にとって自己強化に適した物質であるのでしょう』


「ミスリルにヒヒイロカネなんて伝説上の金属じゃねぇか。

 実在するのか……?」


『存在します。

 わたくしのパーツとしても幾つか使われていますから。

 しかし、数が多ければ私の機能のバージョンアップに使えます。

 是非とも欲しい物質ですね』


「因みに還元率は?」


『1グラム100FAMEで如何でしょう?』


 キロで10万かよ。


「乗った」


 大型図書館。

 ドワーフの歴史書も保管されてるとか。

 レイシアが持っていた記録によれば地下室もあり、そこが歴史的な発見物や重要な記録の保管庫になっていたらしい。


 もしかすれば、ナイアセラムについての記述もあるかもしれない。

 あれが人間とは思えないし、長寿種族の可能性は十分ある。


 しかもあれほど強大な存在だ。

 伝承に残っていても不思議はない。


 その二つが今回の目的だ。

 そして、それを果たすためには図書館の制圧が必要であると。


「ピォォォォォンン!!」


 魔角鹿マナライトディア

 角がマナライトと呼ばれる特殊鉱物で形成された鹿科の魔物だ。


 ロックウルフと同じく、体の一部である角が希少鉱物であるマナライトクリスタルで形成されておりかなり金になる。


「ピォォォンンン!!」


 魔角鹿マナライトディアの青いクリスタルの様な角が光る。

 その瞬間、角から魔力の礫の様な物が5つ放出される。

 それは俺に向かって迫って来る。


 だが、その動きは非常い緩やかだ。

 回避は容易いだろう。

 しかしそれこそは魔角鹿マナライトディアの罠。


 この魔法、魔力球マナバブルは持続性と誘導性に特化している。

 つまり、回避しても消える訳じゃない。

 ターンして俺に返って来る。

 そして、その間にもこの鹿は魔法を増やしていく。


 つまり、避ければ避ける程俺は不利になって行く。


「が、それが分かってんなら脅威じゃねぇな」


 解法は二つ。

 まず障害物で魔法を消す事。


「っし!」


 耀魔で斬ってやっても消滅させる事ができる。


 邪魔な幾つかの魔法を斬り飛ばしながら、鹿へ向けて接近していく。


「ピォォォンンン!!」


 最中、さらに追加で魔法が発射。

 存在する魔法の数は7発。


 鹿の目前、魔法が俺の身体に接触する寸前で俺は停止する。

 そして、鹿の周囲を回る様に移動した。


 すると、それに魔法が付いて来る。


 解法。二つ目。


 鹿の背に触れ、その体を飛び越える。

 当然魔法はまだ俺を追っている。


 俺と魔法の間に居る魔角鹿マナライトディア自身の体を――貫通してでも。


「ピィィィィンンン……!」


 悲痛な叫び。

 痛みに喘ぐ咆哮を上げ、魔角鹿マナライトディアの絶命と共に魔法が消失する。


「訓練はできたか。

 レイシア、スコアアタックを始めるぞ」


『了解しました。

 予想される必要数は52発です』


「オーケー」


 モノクルの魔力感知を起動。

 周囲の魔物の位置が表示される。

 アップデートした事で魔力量と波形から、マップ上の魔物の種族まで表示できるようになっている。


 その中から一番近いロックウルフの元へ向かう。


「キャ――」


 吠えるより早く、前足を撃ち抜く。

 同時に接近、後ろ足を二度斬りつけた。

 一歩下がる。


 咆哮の種類が変わる。

 周りの魔物を呼ぶ悲鳴。


 救援要請を吠えるのを待ってから頭を打ち抜いた。

 ロックウルフはCランク以上の魔石を使う事で、その装甲を貫通させる威力を出す事ができる。


 しかし、ロックウルフから採取できる魔石のランクもCなので三発以上撃つと赤字だ。


 魔物が集まって来るまでの数秒の休憩時間を利用し、インベントリから魔石を取り出し銃弾を補充。


 そうすると狙い通り魔物に囲まれた。

 魔物の種類は三種類。

 ロックウルフ、魔角鹿マナライトディア、アイアンゴーレム。


 ロックウルフはもう必要ない。

 アイアンゴーレムもだ。

 見つけ次第シヴァで撃ち抜いていく。


 2.5メートル程の人型魔物であるアイアンゴーレムは顔に核があり、それを破壊する事で倒す事ができる。

 全身が鉄を含んでいる為、素材としての価値は高い。


 が、今はの狙いはこいつじゃない。


 狙いは魔角鹿マナライトディアだ。

 こいつ等だけを敢えて残す。

 すると、奴等は十八番の魔法を使い始める。


「それでいい、着いて来い!」


 魔法と魔角鹿マナライトディア達に追われながら走る。

 向かう先は当然大図書館。

 事前に調査はしてある。


 その結果、門番が居る事が分かった。


 黒い巨体を持つ人型の魔物。

 体を黒鉄で覆うゴーレムの上位種。

 黒鉄の巨兵ブラックゴーレムだ。


 全長は5mを優に超え、その腕の太さはオークロードやゴブリンファイターの比ではない。


 大木の様に巨大な腕の薙ぎ払いは、一撃で即死級の威力を持つ。


 だが俺にとって問題だったのはその皮膚の硬さだ。

 黒鉄の耐久力は金属素材の中でも群を抜いている。


 俺には攻撃系のスキルが無い。

 爆薬も試したが通用しなかった。

 亀裂が少しでも入れば効きそうではあったが、そもそも亀裂を作る攻撃手段が俺には無かった。


 黒鉄の巨兵ブラックゴーレムは門の前から動かない。

 侵入者が領域に入ると動き、攻撃される。

 かなり機械的な動作に近い。


 図書館跡への大通り。

 電動の馬車の様な物が通る道として設計されていたため、かなり横幅がある。

 俺は止まる事無く、魔法と鹿を引き連れて疾走する。


 同時に前方へ見える黒い巨体に銃撃を与えると。


「ウォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオ!」


「起動した」


『リアルタイムで演算を開始します。

 速度を維持して下さい』


 黒鉄の巨兵ブラックゴーレムも俺を認識する。

 膝を付く姿勢だった巨体が立ち上がり、俺を向かって疾走を開始。


 俺と奴の距離が近づいていく。


「魔法弾の数は?」


『41発、まだ足りません』


「ッチ」


 もっと気合入れろよ鹿共。


「止めは俺が差す。

 このまま行くぞ」


『了解しました。

 カウントを開始します。

 ……スリー』


 黒鉄の巨兵ブラックゴーレムが大きく拳を振りかぶる。

 巨体が一歩踏み出す度に地面が揺れる。

 しかし恐怖は無い。


『ツー』


 振りかぶった拳が、勢いよく俺へ迫る。

 1トンを越える大質量。

 叩きつけられれば俺など即死。


 けれど、俺はレイシアを信じている。


『ワン』


 神操術によって会得するスキルは、使い、鍛え、学ぶ事で進化していく。


 転門印ゲート

 それは記録した場所に対して転移する門を開くスキル。

 記録地点は現在、宇宙船にある俺用の虚数空間に設定している。


 けれど今は、スキルの効果が少し違う。

 この一月で、俺が記録できる転移場所の数は二つへ増えた。


『ゼロ』


「【二門転印ダブルゲート】!」


 予めセットして置いた地点。

 それは黒鉄の巨兵ブラックゴーレムが今居る場所の。


 一歩分、奥。


 虚空を潜り抜け、俺は黒鉄の巨兵ブラックゴーレムの巨体を通り抜ける。



 ドンドンドンドンドンドンドンドン。


 ギシギシギシギシギシギシギシギシ。


 バキバキバキバキバキバキバキバキ。



 後ろからそんな音が連続して聞こえた。

 振り返れば、前面に数多の魔法弾を受ける黒鉄の巨兵ブラックゴーレムの姿があった。


 魔法を受け続けている事で行動は停止。

 隙だらけの背面が俺に殴ってくれと叫んでいる様な気さえする。


 シヴァを取り出し、乱射しながら接近。

 近づいてからは剣で削り、亀裂を作る。

 前方の魔法。後方の俺。

 サンドイッチで削り取る。


「来い」


 銃をインベントリに仕舞う。

 代わりに接着爆弾を出現させる。


 それを背中に5つ程張り付けた頃、魔法の連撃が終わる。


 ひび割れ状態の満身創痍。

 そんな姿で黒い鉄の塊が俺に振り向く。


 顔にある赤い核が、今までより強く光っている様なそんな気がする。


いかってるのか?」


「ウォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 一番の絶叫を上げ、俺に向けて腕を振るう。

 しかし、それが振り抜かれる前に俺は爆弾のスイッチを押した。


 爆炎がその内部に入り込み、運動エネルギーが内側からゴーレムの体を砕いていく。


 爆破を背負うその巨体が膝を付く。

 首を垂れ、丁度いい高さまで顔の核が降りて来た。


「グ――」


 耀魔を振るい、核を叩き割ると同時に絶命した。


「これでやっとここの調査ができる」


 呟きながら黒鉄の巨兵ブラックゴーレムの骸をインベントリへ回収する。


 そうして漸く、俺は図書館への侵入を成功させた。


『強力な魔力反応が幾つか存在しています。

 お気を付けください』


「あぁ、分かってる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る