第12話 地底都市
荒廃した世界には確かに文明の跡がある。
錆びた鉄の街とでも呼ぶべきその場所に空は無い。
天を覆うは岩石の塊。
地下に存在する大空洞。
元は鉄とガラスの摩天楼の集まりだったその場所は、今や魔物の巣窟だ。
しかし、資源の採取場所としてこれほど効率的な場所は無い。
何せ、ほんの百年前まで文明があった場所だ。
建造物の材料も再利用可能。
倉庫には保存状態の良い品がそのまま残って居る事もあるらしい。
「問題は魔物がうろついてるって事だけだな」
危険な場所をドワーフたちは探索しない。
だからこそ多くの宝が眠ってるって訳だ。
「グルルルルルルルルゥゥゥゥゥ!!」
ロックウルフ。
鋼鉄の繊維を毛皮として纏う四足獣。
機動力が高く、防御力も高い。
それに尖った金属の毛皮は、タックルされると文字通り針の筵だ。
単体での脅威度はオーク以上。
しかし、毛皮その物が鉄の塊であり素材としての価値は高い。
主食が鉄分だから、ここには多く生息している。
レイシアより改造され強化された銃。
魔石式魔導銃「シヴァ」。
その形状はリボルバーだ。
シリンダーには6発の銃弾が装填できる訳だが、ここに魔石を近づける事で魔石内の魔力を自動吸収し銃弾が勝手に生成される。
更に銃弾の威力と属性は込めた魔石の魔力量や特性、つまり元となった魔物の強さに影響される。
「試してみるか」
シヴァを左手に。
右手には黒い刀身の直剣。
「
「グルルルルッ!!」
獰猛な狼が大口を開け飛び掛かる。
その牙は銀色に光っていた。
ロックウルフの牙は、幼少期に摂取した金属を混ぜ合わせた最も硬度の高い合金が生えてくる。
運が良ければ、そこにはレアメタルが含まれるため回収しておきたい。
レアメタルはレイシアに高値で売れる。
「つうか、岩が食いてぇのに俺を襲って来るんじゃねぇよ」
恐らく狙いは持ってる武器だろう。
摂取した事のない希少な金属ほど狙う習性があるからな。
照準を合わせる。
ガチンと音が響き、ハンマーが叩かれる。
発射された弾丸の属性は土。
ストーンバレットは着弾と同時に質量を増大させる効果を持っている。
「キャン!」
「やられる時は随分可愛げのある声だな」
銃弾に腹を打たれ、弾き飛ばされ床を転がったロックウルフに追い打ちをかける。
疾走と共に直剣を振り抜いた。
ラーンの槍にも使われていた黒鉄を、宇宙船ニーズヘッグの科学力で更に強化して作られた物だ。
硬度。切味。耐久力。防腐性。
全ての面で通常の鉄剣を越えている。
首に腹から刺さった耀魔で、引き抜く様に首を斬り裂く。
石を食う魔物でも血は通っているらしい。
赤い血を流し、ロックウルフは絶命した。
その死骸に近づき呟く。
「インベントリ」
唱えた瞬間肩の紋章が光り、そこへロックウルフの死骸が吸い込まれる様に消えて行った。
ゴブリンやオークと戦っていた時は、死体を持ち帰るというのは現実的では無かったために最も金になる魔石だけを持ち帰っていた。
だが、インベントリスキルがあれば魔物の素材を全て回収する事が出来る。
手間も無い。
解体はレイシアに任せればいいしな。
インベントリには収納条件がある。
それは意思を持たない物であること。
虚数空間とは意志と情報の世界だ。
そして、俺の使っている空間はレイシアの船内とは違い、管理されていない虚数領域である。
物質は情報化できる。
しかし意識は情報化できない。
それが、インベントリの誓約だ。
「ま、素材集めに使えればそれでいい」
それに、自身にロックウルフを一撃で倒せる程の身体能力がある事も確認できた。
体は軽く一撃の重さも前日の比ではない。
明確に強くなっている事が自覚する。
そのまま定期的に現れる魔物と戦闘を繰り返し、敵の数が多ければ閃光弾で逃げながら地底世界の探索を続けていく。
街という構造にはかなり助けられた。
形が残っている建造物も多い。
身を隠す物が充実している。
索敵と逃走の判断さえ間違えなければ死ぬ心配は無さそうだな。
それに、いざとなれば俺にはもう一つのスキルもある事だし余裕がある。
「ロックウルフ24匹。
その他10種22匹の計46匹か。
結構狩れたな」
インベントリの中は直感的に把握できる。
回収した資源の確認をしていると、辺りから大きな咆哮が幾つも響いた。
「グルルルル!!」
「ガルルルルル!!」
「キャォォォォォン!」
数多の魔物が集まって来ている。
どうやら俺を脅威と認識したらしい。
遠吠えの質が変わった。
これは威嚇では無く仲間への救難信号だ。
四方八方。
ゾロゾロと大量に集まって来た。
目視できるだけで50匹以上。
遠くからもっと集まってきているのも見える。
しかも別種で徒党まで組んで。
そんなに新参者が憎いのか?
「今はまだ無理そうだな……
憶えてろよ犬っころども。
嘗められたままじゃ終わらねぇぞ」
独白を置き、スキルを小さく呟く。
「
虚空への扉が開き、距離という概念から隔離された空間を経由して物理的には不可能な長距離跳躍を実現する。
レイシアの宇宙船も、これと同じ方法で空の星々を航海するつもりらしい。
もしもこの世の真実を突き止めた暁には、俺もその航海に同行させて欲しい物だな。
◆
『お帰りなさいませ』
メイド服でレイシアが出迎える。
何で毎回服が違うんだ。
『飽きさせない様にと思いまして』
「……勝手にしろ。
すぐにもう一度向かう。
準備を頼む」
死体が出された傍からレイシアに吸い込まれていく。
【現在貢献度:28,920FAME】
視界に写るそれは、船内の通貨の様な物だ。
消費する事でレイシアと取引する事ができる。
「色々用立てて欲しい物がある。
正直、お前が何を実現可能か分からないから、俺の欲しい物を説明してお前ができると思った物を作ってくれ」
『畏まりました。
オーダーをどうぞ』
「まず索敵能力が必要だ。
フィールドの構造が入り組んでる。
物陰からの奇襲を予見できる兵装が欲しい」
ばったり魔物と出くわして、出合い頭に致命傷。
何てことは洒落にもならない。
当然ケアするべき事故だ。
『サーモグラフと魔力感知の機能を搭載した装置があります。
モノクル型で用立てましょう』
「次に戦力分析がしたい。
俺がもっと強くなる為には戦術や戦闘環境、敵戦力等を総合的に判断する分析官が必要だ。
その役目をお前に頼みたいが、俺の戦闘をリアルタイムでお前に伝えるような技術はあるか?」
『映像通信機ですね。
畏まりました。スーツに内臓しておきます。
分析は
「それと魔物の数が多すぎる。
逃げたままは我慢ならん。
一網打尽にしたい。
作戦はあるが、遠隔の爆薬が要る。
それにお前の計算能力も必要だ。
作戦を実行可能な様に調整してくれ」
『爆薬は威力と個数で値段が変わります。
宇宙船ニーズヘッグ。
統合管理人工知能・レイシア。
俺はレイシア自身に人工知能という物に関する説明を受けた。
その結果、俺が納得した考え方は『レイシアは計算機である』という物だ。
レイシアはあらゆる計算を行える。
それは人間の感情すら読み解く程だ。
驚異的で全く理解の及ばない技術だが、非常に有用で貴重な能力だ。使わない手は無い。
物理学や幾何学、メタル大陸由来の機械学も師匠に教わり触り程度は理解している。
その知識を総動員し要求を思案した。
俺が強くなるにはレイシアの力を上限まで引き出す必要がある。
「作戦だが…………」
『了解しました。
演算を開始。
必要な爆薬数を算出しました』
それと同時に俺の視界にホログラムで要望に対する値段が表示されていく。
スーツ内蔵音声通信機。
スーツ内蔵映像通信機。
MC4×12。
マジックサーマルスコープ・タイプモノクル。
計424,000FAME。
「思ったより安いな」
『そこまで高度な技術は使われていませんから。
しかし、本日稼がれた金額では全く足りませんね』
「因みにこの作戦、お前は成功すると思うか?」
『アリバの力量次第でしょうね』
「そいつも込みで、お前の予想は?」
『成功して欲しい。
と言った所でしょうか。
少し嫌な予感がしますが、これはどの様な意図のご質問でしょうか?』
「レイシア、俺に投資しろ。
10倍にして返してやる」
◆
宇宙船ニーズヘッグから地底都市付近の洞窟へは転送門が繋がっている。
洞窟内は基本安全であり、魔物が侵入しない様頑丈な扉の設けられている。
「H2R1K4G5M1」
パスワードを音声入力する事で、扉を開く事無く先まで転移できる。
洞窟を抜ければすぐに地底都市だ。
開けた世界の天上を見上げれば、岩盤に届きそうな程巨大な塔がある。
レイシア曰く、まだ都市が機能していた時にシンボルとして建てられた物らしい。
モノクル型の新装備には、周囲の魔力と温度を感知する機能がある。
それを使い、魔物との戦闘を避けて進む。
向かうは塔の根本だ。
『モノクルを通して設置場所を指示します』
「あぁ、頼む」
右耳のインカムからレイシアの声が鳴る。
音声を通信できるなんて、俺がオークとの戦いで持たされていた通信機を大きく越える装置だ。
これがあれば俺の作戦は実行できる。
レイシアは俺の要望全てに答えた。
ならば、次は俺が結果を示すべきだろう。
塔内部。
指示された場所に爆薬を設置していく。
全て設置するのに12分ほど掛かった。
室内にも魔物は居たが、モノクルのお陰で出会わず作業が行えた。
『モノクルに
青が現在地、赤が敵の位置です。
黄色のマーカーが目的地です』
青の矢印を中心に円形のホログラムが表示された。
そこに、聴こえた通り赤と黄のマークが表示される。
「了解した」
俺は俺の人生の目標を決めた。
だが、その達成の為にどうしても通過しなければならない中間目標がある。
『親父』だ。
大樹の様な父親だった。
誰であってもその英雄に寄り掛かる。
人類の希望だと。
唯一の救いだと。
その光景を今でも憶えている。
誰もに縋られ、誰もに期待され、誰にも弱音を吐かなかった。
あんたの姿を憶えている。
今なら分かる。
あんたの言葉は、全部が嘘って訳じゃ無かった。
神操術の発芽にはルールがあった。
俺が努力不足ってのは、そのルールを発見できなかったという意味では正しい。
だが、親父の言葉が全て正しいって訳でもない。
あんただって普通の人間だ。
多くの事を間違える人間だ。
俺は最強を目指すと決めた。
それは、親父を越えるという事だ。
世界最強のクラン。
その夢は皆で親父を越えるって意味じゃない。
あんたを越えるのは、俺だ。
「「グルルルル!!」」
「「ガルルルルル!!」」
「「キャォォォォン!!」」
足を止めれば魔物が集まって来る。
適当に閃光弾を投げて時間を稼ぐ。
集まれば集まるほど、集まりが良くなった。
俺を殺せと至る場所で魔物の遠吠えが響いている。
状況を見れば絶望的な光景だ。
それでも。
どれだけ強くても。
どれだけ大きくても。
どれだけ正しくとも。
どれだけの人間に期待され、信じられているのだとしてもだ。
――いつか必ず。
手に持ったスイッチを押す。
その瞬間、塔の階下に仕掛けた爆弾が爆発した。
同時に俺は最後の閃光弾を投げる。
魔物たちの目が眩む中、俺だけが迫りくる巨影を眺められていた。
「――テメェも倒す」
巨大な塔が。
都市のシンボルが。
崩壊する。
倒壊する。
こちらへ向かって姿を迫る。
ずっと、テメェはよく頑張った。
もう休んでいいぞ。
後の始末は俺がしてやる。
「
最強へ至る第一歩を、俺は
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