第8話 王の御前
「天竜の咆哮は、瞬光に姿を代え、敵を穿つ【ライトニング】」
アナスタシアの静かな詠唱が完了した瞬間、オークの群れの側面に魔法が放たれる。
その魔法の数はアナスタシアの放つ一発だけでは無い。
300名中、魔法を使えたのは30人。
その全員による開幕の一撃。
そして同時に、俺とラーンを含めた200以上の軍は魔法を背負い走る。
雷が。炎が。風が。氷が。水が。岩が。
放たれた奇跡に頭上から見下ろされながら、追い抜いていく魔法に追走する。
「赤鬼の魔槍」
ラーンの槍が赤く輝き、誰よりも速い一番の疾走でオークの群れに突撃していく。
出し惜しみは無しだ。
腰に携えたのは新調した剣の仕舞われた鞘の他に、銃を入れたホルスター。
魔石を入れたカートリッジがセットされた銃をホルスターから取り出し、引き金を連続で引く。
ラーンに近づこうとするオーク共の頭を打ち抜きながら、俺も他を率いて突き進む。
相手は10万。
こちらは300。
その情報は遊撃部隊を委縮させていた。
その緊張を解すために必要なのは『希望』なのだ。
一筋でも、弱々しい光でも。
一条の勝機さえあれば、人間は思いの外持ち堪えられる。
魔法の嵐がオークを焼いた。
一騎当千の神操術使いがこっちには居る。
現実を書き換えろ。
この一瞬、この場面だけでいい。
圧倒しろ。
それが、俺が他の三人に出した指示。
「ブモォォォォォ!!」
「ブオォォォォォ!!」
オークの悲鳴が戦場に響く。
ドン、バン、バコンと、大地が破裂する。
アナスタシアたちの魔法と、モルジアナの爆裂の属性矢。
俺も、持ち得る魔石を銃弾にしてオークへ放ち続ける。
密集していたオークに対し、これ等の及ぼす効果は大きい。
一矢が、一魔が、一弾が。
数体のオークの肉を引き裂いていく。
されどそれはリソースを吐いているだけ。
後に成ればツケは必ず回って来る。
だが、それでも今なのだ。
今だけが、弱腰の味方に俺達の背を見せる最初で最後のチャンスなのだ。
「嘘だろ、俺達が押してる……」
「やれる……のか……?」
「すげぇ、これってマジで勝てるんじゃ!」
お前達が機能してくれなきゃ、俺たちは最奥へ進めない。
勝機を感じろ。
勝てると思い込め。
自分と仲間の勝利を信じろ。
もしも、その上でお前たちが全滅しても、必ず俺たちが大将を討ち取ってやる。
「俺達も行くぞお前ら!」
「勝てる、勝てるぞ!」
「やってやる、俺だって」
「そ、そうだ。
こんな所で死んでたまるか!」
部隊の動きが活性化していく。
前に進みたくない。
数秒前まで、誰もがそんな思いで走っていた。
けれど、開幕はどう見てもこっちの大勝利。
相手の被害は既に数十体に及んでいる。
「グォオオオオオオオオ」
「アリバ、上位種だ」
やはり、進行方向を指示する為に等間隔に上位種が配置されてる。
これは、報告通りだ。
だか、この一匹を倒せば次の上位種がやって来るまで時間が稼げる。
そして、この上位種を倒す事で味方の士気は最大に達するだろう。
「2分で倒す!」
「あぁ!」
新調した黒い槍は、スキルの効果も相まって赤黒く光る。
その光を前に、浴びせる様に襲い掛かる。
通常のオーク以上に巨漢。
鎧と剣、盾による完全武装。
上位種の武人としての動き。
全てが普通のオークよりも強い。
だが、俺達は既に金策の段階で上位種を討ち取っている。
周りには数多のオークが居る。
それだけがその時とは違う状況。
しかし、周りに味方が居るのは俺達も同じだ。
「上位種は俺たちが引き受ける。
お前等は、雑魚共を寄せ付けないようにしろ」
周りに居た赤い長剣を持った同期へそう言った。
そいつは俺の言葉に頷く。
すると自分のチームメンバーに指示を始めた。
他の奴等もそいつに習う様に動き始める。
同期。新人にしては上出来だ。
「アリバ、ラーン、来たわよ」
「やっと追い付きました」
魔法と爆発矢を粗方に撃ったモルジアナとアナスタシアが合流する。
これで俺達は揃った。
「ピカリン作戦で行くぞ」
命名はアナスタシアだ。
アナスタシアが肝な作戦だから仕方ない。
「了解しました!
輝き、眩き、世を照らせ【フラッシュ】」
杖の魔石から色が抜ける。
既にアナスタシアは魔法を撃ち尽くしている様だ。
杖に装填された魔法は2回分。
これで、アナスタシアが使える魔法は残り1回。
目を閉じた俺達とは逆に、俺達を凝視していたオークの眼前に光の爆発が起こる。
目を潰す。
ただそれだけの魔法。
しかし、その刹那は俺達にとって絶好の機会。
銃弾をオークの左膝に叩き込む。
オークのバランスが崩れた。
倒れそうになったオークは左手を地面に付ける。
しかし、即座にモルジアナの矢が左肘を射抜いた。
「はぁ!」
赤黒い槍が突き進む。
俺たちが目指す先。
その最初の障害。
ハイオーク。
は、予定より25秒早く絶命した。
「よし。モルジアナ、予定通り進むぞ」
「えぇ、もう準備はできてる」
俺たちは各々鞄から白いローブを取り出し羽織る。
微弱ながら消臭の効果が付与されたローブ。
同時にモルジアナは矢を上空に発射する。
角度を降ろして行きながら、二射、三射、四射と続く。
白煙の矢。
矢が落ちた場所は白い煙幕が広がり残留するアイテムだ。
武器以外にも様々な消耗品や防具も潤沢に揃えてある。
煙が俺たちが進む道を作り、敵から隠す。
白煙とローブでオークの索敵から逃げられるのは検証済みだ。
「一気に走り抜けるぞ」
上位種を打倒し歓声が上がる味方達を置き去りに、俺たちは移動を始める。
「おい、お前等どこ行くんだよ?」
赤い剣を持っているさっきの男がそう言った。
疑問は最も。
だが、細かく答えている時間は無い。
「お前たちは軍を横に通り抜けろ。
休憩を入れながらそれを定期的に繰り返すんだ。
オークの連携は大した事無い。
できるだけ敵を殺せ」
「ちょ、全然答えになってないって」
「俺たちは上位種を狩りに行く」
それが『王』である事は伏せる。
要らぬ情報だ。
「上位種を……?」
「あぁ、この戦いに俺たちは勝つ。
だからお前等も全力でやれ」
「わ、分かった。
あんたを信じますよ、アリバさん」
「なんで名前……いや、頼んだ」
俺の名前を知らない同期の方が少ないか。
今まで同期には避けられてきた。
だが、今の彼等の目は何か違う。
こいつだけじゃない。
他の奴等も俺に視線を向け、無言で言っている。
それは「行け、頼む」と。
白煙の中を走る。
戦場を走る。
司令官の氷の一撃。
俺たち遊撃部隊の奮闘。
オークたちは困惑し、浮き足立っている。
それが、空気で伝わった。
「アナスタシア、最後の一発を使え」
「良いんですか?」
煙の中でそう指示を出す。
アナスタシアの残りの魔法回数は1回。
俺の指示に従えば、アナスタシアは殆ど戦力外になる。
「大丈夫だよアナスタシア。
さっきの上位種を倒した時、僕の紋章が光ったんだ」
神操術のレベルアップ。
神操術は研鑚する事で強化されていく。
その最もな方法は魔物を倒す事だ。
ラーンが覚醒して一週間弱。
毎日が魔物との戦いだった。
数多の戦闘を経て、ラーンは二つ目のスキルを見出した。
内容の鑑定は既に済ませ、ラーンに伝えてある。
「分かりました。
天竜の咆哮は瞬光に姿を代え、敵を穿つ!
【ライトニング】!」
詠唱と共に放たれた青雷は、白煙の中を突き進みオークを貫通していく。
同時にラーンもスキルの名を呟いた。
「青鬼の魔矢」
ラーンの掌から透明な硝子の様な矢が生成され、近くのオークに突き刺さる。
その瞬間、矢は青い光を蓄積させ始めた。
矢を受けたオークが膝を付く。
ラーンは通りざま矢を抜き裂きながら回収した。
透明だった矢には青が溜まっている。
それは『魔力』だ。
赤鬼の魔槍が相手の体力を自分や仲間の物として吸収する力だとすれば、青鬼の魔矢は相手の魔力を自分や仲間の物として吸収させる力。
「アナスタシア、口を開けて」
「え? は、はい……」
矢を反転させると尻の部分から雫が滴り落ちる。
それを口に含んだアナスタシアの魔力は、これで回復した筈だ。
ラーンの力は継戦能力に特化している。
それは永劫の闘争を求める鬼みたいに。
だが、これで大きく勝利へ近づいたのは確か。
「ラーン、アナスタシアを担げ」
「あぁ、分かった」
「え、えぇ!?
死ぬ程恥ずかしんですけど!」
ラーンは槍を背に
「アナスタシア!
撃ちまくれ!」
俺の指示を聞いたアナスタシアは赤面しながら詠唱を始めた。
俺も『インドラ』を前方に乱射する。
「天竜の咆哮は瞬光に姿を代え敵を穿つ。
【ライトニング】!」
そのままアナスタシアのライトニングと俺の銃弾を追い、定期的に魔力を回復させながら俺たちは白煙の中を突き進んだ。
そして数十分後、俺たちはオークの群れの最後尾まで到達する。
「今更だけど、僕の新しい力があれば遊撃部隊を率いて魔法を撃ってるだけで良かったんじゃ無いのかい?」
「いいや、どうせこいつは倒す必要がある。
遊撃部隊がどう足掻こうが、問題は本体同士のぶつかり合いで勝てるかだ。
10万対1万じゃ、やっぱり押し潰される可能性の方が高い。
ユキノ・マクスウェルが居ようがな。
だから、こいつは今ここで殺す」
【ブモォ……】
唸る声の質が、他のオークとは違う。
より低くより驚異的により魔力の籠る声。
黒い体毛と皮膚を持ち、赤い眼光でこちらを射抜く。
オークの最上位種。
異次元の迫力を持つそれは、俺達を見下ろしている。
同時にモルジアナは白煙の矢を周囲に射る。
放たれた数は5本。
周囲が完全に白煙に包まれる。
「アリバ、これで25本使い尽くしたわよ。
白煙が持つ時間は5分。
その間にこいつを倒せないと、周囲のオークに袋叩きにされるわ」
「あぁ、速攻で仕留めて逃げるぞ」
見据える黒い巨体が動く。
背負う巨大な鉈の様な武器に手を掛けた。
周囲の通常種たちとは違い、その目はジッとこちらを凝視している。
やはり、通常種や上位種を越える嗅覚を持っているらしい。
ローブで白煙に紛れてもこちらの位置を把握されてる。
「俺が右、モルジアナは左、ラーンが正面。
アナスタシアはラーンの後ろで援護」
「「了解」」
「はい!」
フゥ……
息を吐く。
戦場の真っただ中。
であるにも関わらず、この一瞬だけは世界が停止した様な錯覚に陥る。
あちらもこちらも敵の動きを伺うターン。
リズムとタイミングを観測し。
「はぁ…………
行くぞ!」
合図と共に、世界の全てが動きを速める。
「はぁ!」
一番槍が疾走する。
合わせて弓兵が左側面に回り込む。
同じように銃士が右側面へ展開。
「輝き、眩き……」
魔術師は祈る様に詠唱を始める。
使わせて貰うぞ、ユキノ・マクスウェル。
アンタから譲り受けた、こいつを。
拳銃のカートリッジに魔石を押し付ける。
本来、このサイズの魔石を使う構造じゃ無いんだ。
だから真面に装填できない。
だが、密着させてれば魔力は勝手に装填され、発射される。
「世を照らせ、【フラッシュ】!」
光りが世界を照らす。
パン!
シュン!
同時に、白氷と雷の混ざった弾丸と二本の燃ゆる矢が
「赤鬼の魔槍!」
赤黒いラーンの槍が、
右腕は凍り付き、肩の部分から切断して地面に落ちた。
左側面は火傷で爛れている。
何より腹には風穴が空いている。
「勝った……?」
アナスタシアがそう呟いた。
「アリバ、なんだこれ……
死んだ筈の肉が痙攣してる……!」
は?
肉が蠢き、その身体を修復していく。
落ちた腕が生えて来る。
焼けた皮膚が剥がれ落ち、再生していく。
穴が塞がって行く。
そして、王は不遜を叱咤する様な口調で俺達に宣言した。
【人よ。
保有する全ての食料、土地を献上せよ。
さすれば降伏を許し、隷属を認めよう】
人語を操るだと……?
だが違う。
俺が真に驚愕しているのは、そんなどうでもいい事じゃない。
今の攻撃で奴の衣服が剥がれ、上体が露わになった。
俺の角度からはその背中が見える。
「【再生】……」
その背に書かれた紋章の中央を、俺は無意識に読み上げた。
どうしてオークが。
俺の魔物学の知識にそんな物は無いぞ。
魔物系亜人種が神操術の紋章を宿してるなんて……
ラーンとは違うピンク色の紋章を読む。
覚醒しているスキルは一種のみ。
【超速再生】
……身体の7割以上を同時に失わない限り、傷を即座に再生させる。
「くっ、赤鬼のま……!」
【退け】
「ガッ!」
巨腕が目の前のラーンを殴りつける。
身体能力が大きく強化されているハズのラーンの体が、簡単に吹き飛んだ。
「っ……! ラーンさん!
天竜の咆哮は瞬光に姿を代え敵を穿つ!
【ライトニング】!」
チッ。
俺もモルジアナも矢と弾丸を撃ち続ける。
豚の王は何もしない。
ただ佇むのみ。
与えた傷は即時に修復される。
魔法も銃も属性矢も効かない。
ラーンの槍でも攻撃力が足りていない。
3m以上ある巨漢を一撃で7割以上消し飛ばす威力何てのは、並みの神操術使いでも簡単な事じゃない。
親父を含めた一部の英雄でやっとの領域。
覚醒して一週間足らずのラーンにできる芸当じゃない。
「僕はまだ負けてない!」
赤の槍から体力を吸収回復させ、吹き飛ばされたラーンが再度突撃する。
ガラスの矢を召喚し、その飛来と追走する。
「神秘の光よ」
その突撃が無駄な事を俺は知っている。
ラーンには俺が呟いた奴の能力情報は届いていない。
どう見ても頭に血が上ってる。
「僕が必ず、皆を護る」
その意志は尊敬してる。
仲間として誇らしく思う。
しかし。
【勇者よ。貴公にあるのは勇気だけだ】
鉈が振り下ろされる。
「あ……?」
ラーンの左肩が斬り落とされた。
もうラーンの槍に赤は残っていない。
【それが貴公の限界だ】
蹴りが見舞われ、またもやラーンの身体は吹き飛ばされる。
「癒しの陽光となり、其の者に再起の灯火を【ヒーリング】」
腕の傷を止血する。
俺の魔法じゃそれが限界だ。
「モルジアナ……逃げろ。
あれをやる」
敵の大将を討ち取る。
簡単じゃない事は分かっていた。
だから当然、勝てないという可能性も考えていた。
「アリバ、待ちなさい。
まだ分からないでしょ」
「いいや、分かる。
お前にも分かってる筈だ。
俺たちじゃこいつは倒せない」
「待ってお願いだからまだ……」
震える言葉を遮る様に、俺は叫ぶ。
「モルジアナ!
お前は、俺の言う事を何でも聞くって。
奴隷にでもなるって言っただろうが!」
「アリバ……聞いて!」
「なぁ、頼むよ……」
笑みを浮かべ、安心させる様にモルジアナへ語り掛ける。
そうすれば彼女は言う事を聞いてくれると、何故か分かっていた。
「…………分かったわよ」
モルジアナがラーンを抱きかかえたアナスタシアと合流するのを横目に、俺は
「オークの王よ、頼みがある」
【申すが良い】
「我が名はアリバ・ルクサス・ドーラット。
人の国では次期公爵の位を持つ者だ。
貴殿の強さと勇敢さを見込み、一騎打ちを申し込みたい」
ハッタリ八割。
どう転んでも、俺がトーラット家を継ぐ事なんかねぇ。
それでも貴族ってのは本当の話だ。
【それは、その者達を逃がす為か?】
「いや、貴殿を殺すためだ」
【ブモッホッホッホ……良かろう。
我が名はオークの覇王『ゲプカ』。
貴公の挑戦、受けて立とう】
獰猛に、闘争に狂いながら。
「待てよアリバ……!」
先の無い肩を俺に伸ばし、ラーンは悲痛な表情を浮かべた。
モルジアナに視線を送り、ラーンとアナスタシアを連れて行かせる。
「悪いなラーン、お別れだ。
次のリーダーはお前に任せる。
モルジアナ、行け!」
逃走用のルートは最初から考えていた。
豚が進行してきた方角に抜け、回り込んで基地に帰還する。
モルジアナならやってくれるだろう。
「ふざけるな!
放せよモルジアナ! アナスタシア!
僕はまだ戦える! 戦えるんだ!!」
「駄目よ。それが彼の命令なのだから」
「ラーンさん、ごめんなさい……」
ラーンの叫び声が遠退いていく。
煙幕が晴れる前に逃がせて良かった。
モルジアナたちがかなり距離を取った辺りで煙は晴れ、俺は百体以上のオークに囲まれていた。
しかも王を護る親衛隊らしく、その殆どが上位種だ。
今にも飛び掛かって来そうに俺を睨んでいる。
【ブモモモォォォォォ】
されど、王の咆哮によって彼等の動きは止まる。
【安心せよ。
一騎打ちに水は差させぬ。
貴殿は我が手で葬ろう】
「感謝しよう、オークの王」
銃を仕舞い、剣を抜く。
前の剣を売り新調した武器。
ドーラット家の家紋入りの宝剣。
親父が俺にくれた貴重な物だった。
それでもあいつ等の命程の価値は無い。
代わりに購入したこれは魔剣。
ラーンの槍に次ぐ値段がした高級品。
それでも、俺が売り払った剣に比べれば売値の半額だ。
魔剣とは、魔法の込められた剣を指す。
この剣にもある魔法が込められている。
準備は居るわ、詠唱は長いわ、使い捨てだわ、使い辛い事この上無いが、それでも切り札と呼ぶに相応しい効果を持っている。
こいつが俺の――正真正銘最後の切り札。
「行くぞ」
【来い】
「
――分かっているさ。俺如きじゃこんな怪物には勝てない。それに俺は一度だって神操術使いに勝った事はないのだから。
剣を振り上げ疾走する。
「それが愚行と知っていても、我等は蝋の翼を携えて蛮勇果敢に挑むだろう」
――俺はこんな性格じゃ無かった筈なんだ。こんな誰かの為に自分の命を犠牲にできるような人間じゃ無かった筈なんだ。
――所詮俺のノブレスオブリージュは、偽善に満ちた親父の借り物だったのに。
オークの最上位種。しかも神操術使い。
身体能力は圧倒的だ。
けれど、その攻撃はさっき見た。
軌道とタイミングが分かれば、見えない速度で振り下ろされようが回避は可能。
【で、避けてどうする?】
「その後に堕天が待つと知っていても、我等は挑まずには居られない」
魔剣を
横腹からその体内に侵入し、腹を裂く。
それを見て、豚は嗤う。
【無駄だ。
策でも魔法でも、あるのなら好きに使うが良い。
貴殿の全てを打ち砕いてやろう】
肉が蠢き、傷が再生を始め、俺の剣を咥え込んだ。
そうだ。お前は受けてくれると思った。
お前のバトルスタイルは、再生能力を過信した相打ちでもダメージを与えて行くという物だ。
狙い通り事が運んだ。
――勝てなくても、俺にはリーダーとして仲間を護る義務がある。あいつ等は俺のチンケなプライドを氷解させてくれた恩人なんだ。
「愚かと笑え、それでもこの跳躍は止まらない」
――あぁそうか。今、やっと分かったよ。
――俺は神操術が欲しかった訳でも、強さが欲しかった訳でも、親父に認められたかった訳でもなかった。
――ただ俺は、独りが辛かっただけだった。
「共に旅をしようか、
俺の目的は最初からずっと、お前を群れから引き剥がす事だった」
【何を……!?】
――モルジアナ。アナスタシア。そして、ラーン。
――ありがとう。
「テレポート」
【貴様……っ!】
――俺は、お前等と出会えて満足だ。
俺は
あぁでも、もう一度、皆で酒を飲みたかったな。
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