第24話:サンドイッチ、スコッチエッグ

 第24話:サンドイッチ、スコッチエッグ


「作業場も無事確保できたし、さっそく作っちゃおうかな」


『うむ、我らはゆっくり見てるのだ』


「うん、頑張るね♪」


 作業台に道具を並べて、パンや野菜、ハム、卵などなどを取り出していく。

 せっかくだからいろんな種類を作った方が、食べるのも楽しくなるよね!


「今日はサンドイッチを作るよ♪ まずはカツを揚げていこうかな」


『サンドイッチか、手軽に食べられるから良いのだ♪』


「ふふ♪ 色々作るから楽しみにしててね♪」


『うむ♪』


 フライパンに油を注いでいって、火にかける。

 その間に小麦粉、卵、パン粉を用意して、豚と鳥の塊肉を厚めに切っていく。


「あら、マタタビさんじゃありませんか。 今日は料理をする日なのかしら?」


「あ、ナターシャさん! そうなんです、街の外に出るようになったので手軽に食べられる物を用意しておこうかなと思いまして」


「そうなのですね、食事は大事ですからとても素晴らしいですわ」


「ありがとうございます!」


「材料を見るに、サンドイッチを作るのかしら?」


「そうです、種類が色々あると楽しいかなと思って、材料いっぱい用意しちゃいました♪」


「ふふふ♪ とても楽しそうでいいわね♪ では、ワタクシも見学させてもらいますね?」


「はい♪」


 思わぬ再会にビックリしたけど、ナターシャさんなら大歓迎だよ。

 ナターシャさんは椅子に寝そべっていたユキさんを持ち上げて、膝に乗せて椅子に座った。

 ユキさんは気にする様子もなく、そのまま丸まってにゃーとあくび。

 あはは、その呑気さも可愛くて大好きだよ♪


「よし、これくらい切ればいいかな? 油も良さそうだね」


 油に菜箸を入れてプツプツと泡が出るのを確認して、温度は良しとする。

 今切った豚肉と鶏肉に加えて、ハムにも衣を付けていく。

 トンカツにチキンカツ、あとはハムカツを丁寧に揚げる。

 いい感じのきつね色に揚がって、つい笑顔になってしまう。


「次は茹玉子だね。 卵サンド美味しいから大好きなんだよな~♪」


 鍋に水を張って卵を入れてから火にかける。

 こまめに卵一つ一つをクルクル回しながら、沸騰まで頑張る。

 沸騰したらそのまま放置して、ボウルに水と氷を入れて準備万端!

 だいたい10分くらい茹でたら、すぐに氷水に移してよく冷ます。


「マタタビさん、卵をクルクルしていたのは何か意味がありますの?」


「沸騰するまでクルクルしていると、黄身が真ん中に来やすくなるんですよ」


「そうでしたのね、料理人なのに知らなかったなんて恥ずかしいわ」


「お料理店によっては茹玉子を使わない場合もあるんじゃないですか?」


「そうですわね、ワタクシのお店では茹玉子は使わないですし、普段も作りませんわ。 それでも料理人を名乗っているのに知らなかったのが恥ずかしかったのですわ」


「なるほど……ちなみに茹でた後にすぐ氷水に移してよく冷やすと、ツルンと剥けやすくなるんですよ」


「まあ! ワ、ワタクシにも剥かせてもらえないかしら? その、ツルンを体験してみたくて……」


「いいですよ♪ 一緒にやりましょう♪」


「ありがとう存じますわ♪」


 茹玉子が十分冷えてたのを確認して、二人で殻を剥いていく。

 コンコン、ツルリ……コンコン、ツルリ。


「すごいですわ! こんなに綺麗に簡単に剥けるだなんて!」


「初めてだとビックリしますよね? あたしもお母さんに教えてもらった時に同じ反応しましたよ」


「ちょっと癖になりそうですわね?」


「ですね♪」


「「ふふふ♪」」


 茹玉子に塩とかマヨネーズを付けて食べるのも好きだから、少し残しておこっと。

 剥き終わった茹玉子を包丁でトントン刻んで、ボウルに移しておく。

 そこにマヨネーズをたっぷり入れて、混ぜながら塩コショウで軽く味を整えていく。


「素晴らしいですわね、サラダに乗せて出しても喜ばれそうですわ」


「そうですね、高級店だとちょっと寂しい見た目かもですけど……」


「ワタクシのお店は古いだけで高級店じゃありませんわ? 素材を厳選しているのでちょっとお高いイメージはありますが、本当の高級店と比べたらだいぶ庶民寄りですわよ?」


「なるほど……でしたら、スコッチエッグを出すと喜ばれるかもしれないですね♪」


「スコッチ……エッグ? それはどのようなお料理ですの?」


「えっとですね……」


 1.卵を予め冷凍しておいて、使う時に殻を剥く

 2.ひき肉に味を付けて、凍った卵を包む

 3.小麦粉、卵、パン粉の順に付けて、油に入れる

 4.1つ7~8分ほど揚げる


「ひき肉の味付けは、この街の人達の好みもあると思うので色々試してみてください。 味を付けないと、だいぶそっけない味になると思いますので」


「ふむふむ、なるほどですわ」


「それからソースですね。 ひき肉の味がしっかりしてたら何も付けなくていいんですが、トマトを使ったソースが卵と合ってとっても美味しいと思います!」


「トマトのソースですわね、確かに合いそうですわ♪」


「7~8分と言いましたが、この時間だと黄身がとろっとした状態になるんです。 黄身までしっかり固めたい場合は、時間を伸ばしてあげてください」


「まあ! 油で揚げるのに黄身がトロトロですの? ……なるほど、凍らせた卵だからそうなるんですのね!?」


「そうみたいです。 まあこのレシピはお母さんから教えてもらったので、あたしはまだ自分で作ったことないんですけどね? 作ってるのを隣で見て、完成品を食べただけなので」


 料理大好きなお母さんが、こんな料理もあるのよー? と教えてくれたもの。

 黄身がトロトロなのを見て驚いてたら、珍しく胸を張ってドヤ顔してたっけな。

 今教えたのは実際に食べたやつだけど、トマトソース以外にも試してくれたらいいな♪


「素材は比較的どこでも手に入りますし、原価もだいぶ抑えられますわね」


「そうですね! 油は使いますが簡単に作れますし、こういうお値段の料理もありますよーって知ってもらえれば、もっとお客さん増えるかもしれないですね♪」


「ふふふ♪ ワタクシもまだまだ勉強不足でしたわ……そうですわ、すぐ試さないとですわ! 今日はこれで失礼しますわね!」


「あ、気をつけて!」


「ありがとう存じますわ! 完成したら試食お願いいたしますわああああああああああ!」


 綺麗な見た目に反してすごい勢いで走って作業場を出ていってしまった……。

 ちょっとお転婆な一面があるのかな?

 なんだか前より親しみが持てて、それはそれで嬉しいかも♪


「さて、サンドイッチの続き作っちゃいましょう! レタスとトマトと……」


 それからサンドイッチを作り続けて、数種類のサンドイッチを完成させるのでした。



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 :老舗の料理長に料理教えるとかwww

 :俺らには普通の料理だけど、そうじゃなかったんだろうな

 :本当に目からウロコって顔してたもんなwww

 :いや俺スコッチエッグ食べたことないし、普通の料理なのか?

 :まあ卵の天ぷら出すウドン屋もあるし、馴染みある奴は馴染みあるって感じじゃね?

 :油使うし家で作るってのもなかなかないだろ

 :正式にメニューに載ったら食べにいかないとねん♪

 :絶対行くわ、コラボ料理ってことになるしな

 :あー今から楽しみなんじゃー



 ----


「料理長おかえりなさい……ってどうしたんですか? そんなに息を切らせて」


「い、今から新作料理の試作をしますわ!」


「え……ええええ! は、はい! わかりました!」


「氷魔法を使える者は卵を10個ほど凍らせなさい! ひき肉はあったわね? 今回はシンプルに塩コショウだけしてタネを作りなさい! それから小麦粉と卵とパン粉を用意なさい! そこの貴女は油を鍋に張って熱しておきなさい!」


「「「「はい!」」」」


「いったい何を作るんですか? だいぶシンプルな材料のような気がしますが……」


「あの方から教わった料理ですわ、もし教わった通りに作れたら……革命ですわ!」


「あの方……? 革命とまで言わせる料理とはいったい……」


「作り方を聞いているだけで、口のなかが唾液でいっぱいになりましたの。 まずは試作、そこからお店に相応しい味の研究ですわ! ただしお値段抑えめにできるようにしますわ!」


 夜用の下拵えを終えた料理人達に指示を飛ばすと、一気に活気が出てくる。

 ナターシャは指示を出した後にレタスをちぎり、添え物として用意していく。

 ソースはどうしようか? まずはそのままか? トマトソースを作るべきか?

 そんな事を考えながら、教えてもらったレシピを反芻して確認していった。


 …………

 ……


「料理長……」


「完成しましたわね、これを試作1号としましょう。 まずはワタクシから……切りますわよ……」


 ゴクリと喉を鳴らして、少し震える手でスコッチエッグへナイフを伸ばす。

 その異様な緊張が伝播したのか、見守る料理人まで喉を鳴らした。

 フォークで押さえながら、ナイフを入れると……。


「「「「おおおおおおおおお!」」」」


「あはは……本当に、本当にトロトロですわ! あ、味はの方は!」


 恐る恐るといった様子で、スコッチエッグを口に運ぶ。

 サクッ、プルッ、トロッ。

 そんな音が聞こえてきそうな静寂。

 一瞬肩を震わせたナターシャ。


「お……美味しいですわ! 衣のサクサク感、ひき肉を噛み切った後の白身のプルプルが心地良いですわ! なにより濃厚な黄身のトロトロが幸せで……どこにでも売っている普通の卵の黄身が何故こんなにも濃厚に……? あの方は神様ですの……?」


「りょ、料理長! 私も!」


「ええ、みんな食べてみなさい! 塩コショウだけ、ソースも付けない、それだけでどれだけの味かしっかり噛み締めなさい!」


「「「「い、いただきます……」」」」


 実際にナイフを入れた時の感動。

 口にし、噛み締めた時の幸福感。

 皿に流れ出てしまった黄身を野菜に付けて食べた時の二撃目の幸福感。

 腰砕けまではいかずとも、かなりの衝撃が厨房を支配した。


「料理長……革命です、これは革命です!」


「ええ、そうですわね……最もシンプルな味付けしかしませんでしたわ……それでもこの味、恐ろしいですわね……」


「是非研究しましょう! 看板料理にもなり得る奇跡の料理です!」


「本当にその通りね……。 ひき肉にどんな味を付けるのか、そしてどんなソースを合わせるのか、一緒に合わせる野菜とドレッシングもですわね、それらの研究を今この瞬間より行いますわ! これは厨房全体の課題とします! 当然見習いも強制参加です! 以外なところから素晴らしい閃きが産まれるかもしれません、それを逃すなど料理人の恥だと知りなさい! この奇跡の料理、スコッチエッグの研究に関してのみ上下関係を完全撤廃としますので心得ておきなさい!」


「「「「「はい! ナターシャ料理長!」」」」」


「マタタビさん……いえ、マタタビ様はとんでもない人物ですわ。 もちろんお母様とお祖母様もですわ……もっと知りたい、あの御方の事もご家族の事も……あぁマタタビ様ぁ♪」


 ☆--☆--☆

 ・好感度

  妖精の光亭料理長 ナターシャ MAX+++

 ☆--☆--☆



 ----


 ・筆写のつぶやき


 この世界には卵料理があまりありません。

 目玉焼き、固茹玉子、オムレツ、スクランブルエッグくらい。

 オムライスも厚焼き玉子もないし、ハムエッグもありません。

 目玉焼きも目玉焼きとして食べるだけで、ハンバーグに乗せることもありません。


 茹玉子も目玉焼きも半熟という概念が存在しないので、当然温泉卵もありません。

 そんな中で突如として現れたスコッチエッグは、青天の霹靂ともいえる料理ですよね。

 そもそも卵料理以前に、材料を凍らせるなんてことは思い浮かぶべくもなく……。


 ひき肉の種類、味付け、そこに野菜を混ぜ込むのか、ソースはどんな味にするのか。

 それら以外に何か材料を追加するのか、付け合せの野菜とドレッシングはどうするか。

 現実のスコッチエッグの固定概念がないから、研究のし甲斐がありそうですよね?

 そう思って、面白そうだなと今回出してみました。

 これからナターシャとの関係がどうなるのか、とても楽しみです。


 ちなみに好感度MAXの隣の+、好感度ゲージが1本追加された事を意味します。

 そうです、MAXが限界値じゃないんです。

 これがボスのHPなら、ゲージ4本分ってけっこう厄介な相手ですねw

 おっと、なんだかナターシャの顔が見てはいけない感じになってきたので……したらなっ!

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