第20話:巨大角兎、帰還

 第20話:巨大角兎、帰還


「追ってこないでえええええええええええええええええ!」


 ドスドスと大きな音を立てて、ジャイアントホーンラビットが追いかけてくる。

 怖い怖い怖い!

 さすがにこの大きさはモフモフしてても怖いよおおおおおおお!


『エリアボスからは逃げられないのだ!』


「そんなああああああああああああ! あいたっ!」


 一直線に逃げ続けていたら、何か壁のようなものにぶつかった。


『エリアボスはこの半球状の限定エリアから逃げられないようになってるのだ! あっちに逃げるのだ!』


「ひえええええええええええええ!」


『ギュアアアアアアアアアア!』


「あ、ダメだこれ」


 ナビさんが指す方に逃げようとしたら、ジャイアントホーンラビットが目の前に。

 めちゃくちゃ見下されてるううううううううううううう!

 もう終わりだああああああああああああああ!


『……ギュア』


「え?」


 絶望に天を仰いでいたら、何故かジャイアントホーンラビットは襲ってこない。

 それどころか、頭を下げてるような……?



 ----


 :なんだなんだ何が起こってる!

 :まさか?

 :まさかなのか?

 :え? え? 何が起こってるんですか?

 :これは……

 :あらーん♪



 ----


 何が起こってるのか理解ができないまま、ジャイアントホーンラビットを見つめる。

 それから下げていた頭を上げると、周りにウサギさんが集まってきた。


『ギュッ!』


『『『『キュッ!』』』』


「えー……っと? どうしたらいいの?」


『いや、我にもわからないのだ……』


「にゃー(なにごとなのー)」


『ギューーーーーーッ!』


 ジャイアントホーンラビットが大きく1鳴きすると、周りに居たウサギさんが動き出す。

 ワラワラと散っていくと、巨大なウサギさんがドスッと腰を下ろした。

 そして、ちょいちょいと手招きされた。


「えっと、近付けばいいのかな?」


『だと……思うのだ』


 そろそろと近付いていくと、巨大なウサギさんにヒョイッと持ち上げられた。

 うわわわわわわ……。

 どうしようとキョロキョロしていると、足の間にすっぽりと収められた。

 わっすっごいモフモフ! なにこれ!


「はわー♪ モフモフパラダイス♪」


『こんな挙動聞いたことないのだ』


『ギュー』


 この素晴らしいモッフモッフに感動していると、何故か頭を撫でられた。


「わわわ、ウサギさんの肉球も素敵なのですー♪」


『口調がおかしくなってるのだ』


「幸せなのですー♪ はわーん♪」



 ----


 :はわーん♪

 :はわーん♪

 :はわーん♪

 :羨ましいわーん♪

 :逆モフwww

 :モフられる側になるだなんて!

 :だがそこがいい!

 :モフられたい!



 ----


 しばらくお互いをモフモフしていると、散っていったウサギさんたちが戻ってきた。

 その口々には、様々な植物や果物が咥えられている。

 ウサギさんはあたしの前に、まるで供物のようにそれらを置いていった。


『ギュッ』


「え? くれるの?」


『ギュー』


 うんうんと何度も頷いて、置かれた物の前にあたしを移動させてくれる。

 心なしか、巨大なウサギさんが笑顔になっているような気がする。


「にゃんにゃにゃーにゃーご(コレうけとってってーもらってってー)」


「え? 言ってることわかるの?」


「んにゃー、にゃーごにゃー(わかるなのー、さっきはいかないでーっていってたなのー)」


「あ、怒って追ってきたんじゃなくて、逃げないでほしかっただけなのね」


『あんな怖い顔で追われたら誰でも逃げるのだ……』



 ----


 :たしかにwww

 :アレは逃げるwww

 :さすがに怖いよなwww

 :可愛い奴めwww

 :まさかだったwww

 :てかエリアボスからの貢物ってwww

 :ホーンラビットにヒールしたお礼かな?

 :いや傷付けたのもマタタビちゃんだしwww



 ----


「じゃ、じゃあありがたくいただきますね?」


『ギュア♪』


『『『『キュキュー♪』』』』


 <称号:角兎ホーンラビットの友>

 <称号:草原蛇グラススネークの友>

 <称号:巨大角兎ジャイアントホーンラビットの友>

 <称号:プロロギア草原を癒やす者>


「新しい称号? ホーンラビットの友、グラススネークの友、ジャイアントホーンラビットの友、プロロギア草原を癒やす者……」



 ----


 :ふぁーwww

 :なんだその称号www

 :称号製造機じゃないですかやだー

 :明らかに癒やしまくってたもんなwww

 :まさかエリアボスまでwww

 :マタタビちゃん素敵よーん♪

 :さすが猫聖女様!

 :ネコを崇めよ!

 :ネコを崇めよ!

 :猫聖女教信者が沸いたぞ! 逃げろー!



 ----


『この称号は……友になった魔物や動物が友好的になって襲ってこなくなるのだ。 癒やす者は、そのエリアの魔物や動物に対して回復魔法の効果が高くなるのだ』


「なるほど? つまり?」


『マタタビはこのプロロギア草原で襲われることはないってことなのだ』


「他のプレイヤーは?」


『称号の対象はマタタビとパーティの仲間だけなのだ』


「そっか……他のプレイヤーは襲われちゃうし、プレイヤーに倒されちゃうんだ……」


『それはしょうがないのだ、元々そういうものなのだ。 こういう称号を持っても、本来は旅人に得はないのだ』


「素材を手に入れられないから……?」


『当然それもそうだし、ギルド依頼の討伐も達成できないのだ。 そうなるとお金は稼げないし、討伐ができなければ冒険者としても信用をなくすのだ』


「それってあたしにとってもマイナスなんじゃ?」


『はぁ……どうしたものなのだ……』


『ギュアー!』


「にゃー!(だいじょぶなのー!)」


「え?」


 <ジャイアントホーンラビットがテイムを望んでいます。 テイムしますか?>


「あ、はい」


 <ジャイアントホーンラビットをテイムしました>


 頭に言葉が響いたと同時に、巨大なウサギさんが光り輝きだした。

 徐々に体の大きさが小さくなっていき、ホーンラビットより一回り大きいくらいになる。


 <ジャイアントホーンラビットはボーパルラビットに進化しました>


「ボーパルラビット……?」


『ボーパルラビット! ホーンラビットが進化すると稀になれる上位種なのだ!』


「キュッ!(はぐれはボクが倒すのだ!)」


「あはは、なんてこったい」



 ----


 :なんてこったい

 :なんてこったいw

 :なんてこったい

 :どうしてこうなったwww

 :あらまーんwww

 :進化www

 :首刈りウサギwww



 ----


「キュキュッ! キュー!(マタタビは癒やしを! ボクは死をー!)」


「あらまあ、とっても物騒♪」


『あらまあなのだ』


「にゃー(あらまあなのー)」


「ま、まあ何にしても仲間になったってことだよね?」


『そ、そうなのだ。 仲間になったのだ』


「ならいっか♪ 頼もしい仲間ができたね♪」


「キューッ♪(まかせろー♪)」


「仲間になったんだし、名前をつけないとね! うーん、そうだなー」


『どんな名前にするのだ?』


「じゃあ、おもち! 君はおもちだ!」


「キュキュー!(ボクはおもちだー!)」


「よろしくね、おもちくん♪」



 ----


 :おもちくんwww

 :おもちくんよろしくね!

 :おもちくん頼もしいなwww

 :強い仲間ができたわねん♪

 :おもちくーん!

 :もちもちおもちくん!



 ----


 おもちくんがニコニコ笑顔で飛びついてきた。

 手を広げて受け止めると、あたしの胸に頭をスリスリしてきた。

 まったく可愛い子め♪ よしよーし♪ おーモッフモフー♪

 ユキさんも飛びついてきて、モフモフ天国になった♪


「それじゃあ、みんな一緒に街に帰ろっか♪」


『そうするのだ、色々あってなんだか疲れたのだ』


「にゃー(かえるのー)」


「キュー(おー)」


 ゆっくりと街へと向かって歩いて行く。

 途中おもちくんが【はぐれ】と呼ぶ動物たちが襲ってきたけど、おもちくんが倒していく。

 あたしは癒そうとしたけど、おもちくん曰く……。


「はぐれはボスに従わず反逆してくる奴ら、倒しても誰も困らない。 だから倒して有効活用した方がいい」


 とのことらしい。

 あたしが癒やすのは、襲ってこない子たちだけでいいんだってさ。

 おもちくんがそう言うなら、そうした方がいいのかも。


「ありがとうね、おもちくん♪」


「キュッキュ!(マタタビはボクが守る!)」


『戦闘要員ができて我は安心なのだ』


 そんな話しをしながら、無事東門をくぐって街に戻るのでした。

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