第19話:遭遇、超遭遇

 第19話:遭遇、超遭遇


 ナビさんにブツブツ言われながら、草原を歩いている。

 だって攻撃できないんだからしょうがないじゃん……。

 なんとか攻撃できても、血が出ちゃうんだよ? 可哀想じゃん!


「あ、あそこにウサギさんが居る、あっちに行こう」


『避けて通ってたら意味ないのだ……散歩じゃないのだ……』


「……いいの!」


『はぁ……』


「んにゃーお(マタタビらしいのー)」


「だよねっ!」


「にゃー(ほめてないのー)」


「えー!」


 それからも避けながら草原をうろつき続けた。

 基本は戦闘にならないように避けて、襲ってきたら攻撃してヒール。

 ヒールをされたウサギさんはお土産を置いてどこかへと消えていく。

 これの繰り返し。


「色々貰っちゃったね」


『猫聖女としては正しいのだ。 でも旅人としては間違ってるのだ』


「もういいの! あたしはこのスタイルで行くの!」


『はぁ……わかったのだ、もう戦闘は強要しないのだ。 でも、避ける練習くらいはちゃんとするのだ。 いざと言うとき避けられないと、マタタビがやられてしまうのだ』


「わかった、ちゃんと避ける練習はするね。 ワガママ聞いてくれてありがとう♪」


『いいのだ、旅のしかたは人それぞれ、マタタビはマタタビが思うままに進むのだ』


「うん!」


 ナビさんは困ったように笑って、あたしの頬を撫でてくれた。

 ごめんね? でもやっぱり動物さんを傷付けるのは、あたしには無理だよ。

 そうやって和解? をした時に、何かが目の前を通り過ぎた。


「わわっ!」


『なんなのだ!』


『シャー!』


「ヘヘヘヘヘビさんだああああ!」


『シャー!』


 またあたしに向かってビョンっと飛んできた。


「ぎゃああああ! 【猫の手】!」


 咄嗟に猫の手を発動すると、両肩の少し上くらいに半透明な猫さんの手が出てきた。

 その右手がブンッと振り下ろされて、ヘビさんをバチン! と叩きつける。


『シャー……』


「あわわわわ、ごめんねヘビさん、【ヒール】」


『シャ?』


「大丈夫? 痛くない?」


『シャー』


「ひっ!」


『シャー……』


「ご、ごめんね? まだちょっと怖くて……」


『シャー』


 ヘビさんは何か納得したのか、頷くような動作をしてどこかへと消えていった。


「ふぅ……ビックリしたー」


『この草原のヘビは噛むだけじゃなくてジャンプして襲ってくるのだな』


「そうみたいだね、気を付けないと」


『言ってるそばからまたヘビなのだ』


「え!」


『シャー』


「ん? くれるの?」


 これはさっきのヘビさんなのかな?

 口に咥えているものをポトリと落として、またどこかへと行ってしまった。


『これは……花なのだ?』


「そうみたいだね、【鑑定】……ヒーリングフラワー?」


『おぉ! さっきの薬草と合わせるとポーションが作れるのだ!』


「そうなんだ! この小さな白いお花がポーションになるんだね」


『さっきの薬草だけでもポーションは作れるのだ。 でもとーっても苦いのだ……そのヒーリングフラワーを一緒に煮ると、ちょっと甘くなるのだ』


「なるほど、苦味をなくすのに必要なお花なんだね」



 ----


 :へー、それは知らなかった

 :これは新情報だな

 :誰も試さなかったのか?

 :そういうレシピだから、試す奴は居なかったんだろうな

 :でも錬金術がないと作れないからなー

 :そうなのよねん、誰でも作れるわけじゃないのよねん

 :ってか、苦いポーション作っても需要ないしな……

 :まあな……



 ----


「苦いポーション、何かに使えないかな」


『うーん、我には分からないのだ』


「……小さい子にいいんじゃない? 怪我をしたらこんなに苦ーいお薬飲まないといけないんだぞー? 飲みたくないなら怪我しちゃダメだぞー? ってさ」


『うむ、たしかにそういう使い方はできるのだ。 マタタビは賢いのだ』


「そうかな? 良薬口に苦しっていうし薬ってそういうものじゃない? 甘めのポーションより安く売れば買う人居ると思うよ?」



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 :あーそういう売り方はありか

 :苦くても安い方が良いっていう大地人も居るだろうしな

 :子供のしつけにってのは盲点だったな

 :でもみんな甘めのポーション知ってるし

 :うーん、時間かけて広めるしかないんじゃないか?

 :教会から広めてもらえばいいんじゃね?

 :うおーなんか、なんかすげー

 :さすが猫聖女様だ



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「試しにゴローニャさんに話してみよっか、良い案もらえるかもしれないし」


『うむ、そうするのだ!』


「よーし、もうちょっと散歩しよ♪」


「にゃー♪(さんぽなのー♪)」


『いや散歩じゃ……まぁいいのだ♪』


 ユキさんを抱き上げて、ナビさんを肩に乗せてルンルン気分で歩き出す。


『あ! またヘビなのだ!』


『シャー!』


「ぎゃあああああああああ!」


『安全な散歩はまだまだ無理なのだ……』


「いやああああ! 【猫の手】えええええ!」


 飛びついてきたヘビさんをバチンと叩き落とすと、ペシャリと地面に落ちた。


「ああああ……【ヒール】!」


『シャ?』


「森へお帰り……」


『何を言ってるのだ?』


「いや、一度言ってみたくて」


『シャー』


 もうお馴染みの行動だね、どこかに消えたと思ったら、また戻ってくる。

 その口には小さな白い花を咥えていた。


「ありがとう、ヘビさん」


『シャー♪』


 体? を持ち上げて左右にユラユラと揺れて嬉しそうだ。

 試しに触ってみよう……かな?

 そーっと指を伸ばしてみると、コテンと首をかしげた後にシュルシュルと近付いてくる。


『シャー……』


「触ってもいい……の?」


『シャッ!』


「ちょんっ……おお、なんか冷たい」


『シャー♪』


「なでなで……あ、すべすべで気持ち良いかも♪」


『もう怖くないのだ?』


「まだちょっと怖いけど、さっきよりは全然! すべすべなのが素敵♪」


「にゃー(ユキもー)」


「ユキさんもねー♪ なでなでー」


『シャー♪』


「ヘビさんも触らせてくれてありがとう♪」


『シャッ!』


「ばいばい♪」


 ヘビさんはまたユラユラと揺れると、どこかへと消えていった。

 爬虫類はちょっと見た目が怖いけど、大人しいと可愛いものなんだね♪

 これからは、ちょっとは見る目が変わるかも?


「もうちょっと歩いてみよっか」


『うむ』


「にゃん(いくなの)」


 周りに注意しながら、また歩き出す。

 安全な草原じゃないけど、ちょっと楽しくなってきたかも♪



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 :ヘビとも仲良くなってらwww

 :でも倒さないと素材手に入れられないんだよなぁ

 :どうすんだろう、マジで

 :薬草とか手に入れても、売れる額はたいしたことないしな

 :難儀なプレイスタイルになったもんだ

 :でもそこがいい!

 :それでこそマタタビちゃん!



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 それからしばらく草原をウロつき続ける。

 ウサギさんやヘビさんと遭遇する度に、攻撃してヒールを繰り返した。

 でもなんだろう? 襲ってくるウサギさんとヘビさんが減ってきたような?


『気を付けるのだ、あそこにエリアボスが居るのだ』


「え? どこどこ?」


『あの辺りなのだ、白い背中が見えるのだ?』


「あ、本当だ! でっかいウサギさん、かな?」


『そうなのだ。 ジャイアントホーンラビットといって、ホーンラビットの親玉みたいな奴なのだ』


「へー、あれだけ大きいとさすがに怖いね……避けて通らないと」


『うむ、このまま突っ込んだら間違いなく負けるのだ』


「うへー、あっち行こ、あっち」


 体を屈めて、こそこそとその場を離れようとする。

 でも、むこうからガサッと音がして視線を向けてみると……。


「ねぇ……すっごく見られてる気がするんだけど……」


「にゃにゃー……(ユキもそうおもうなの……)」


『ヤバいのだ……』


 すっごく視線を感じる……。

 これ……死んだかも?


『ギュアアアアアアアアア!』


「やっぱりいいいいいいい!」


『わああああああああああああああ!』


「にゃあああああああああ!」

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