第18話:街の外、草原での危機

 第18話:街の外、草原での危機


 教会を後にしたあたしたちは、街の外に出るために東門へと向かう。

 ずっと街の中に居たから、すっごくドキドキしてきた……。

 ちゃんと戦闘できるかな……。


『この東門を出ると、すぐに草原が広がってるのだ。 門から半径2mは何も出てこないが、そこを超えると敵が出てくるようになるから気を付けるのだ』


「わ、わかった」


『だいぶ緊張してるのだ……今のうちに深呼吸でもして落ち着いておくのだ』


「そ、そうだね! はぁ……ふぅ……はぁ……ふぅ……」


「にゃーん(なでるなのー)」


「ありがとう……あー落ち着くー♪」


『チョロいのだ(ボソッ)』



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 :チョロいwww

 :簡単でいいなwww

 :猫は癒されるのだー

 :猫さんふわふわで羨ましいです

 :このチョロさがいいんだろうが!

 :あたいはマタタビちゃんを撫でたいわん♪

 :私も!



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 ユキさんを撫でながら歩いていると、ついに東門へと辿り着いた。

 門兵さんっていうのかな? 鎧を着た人が二人、開いた門の前に立っている。


「おやお嬢ちゃん、街の外に出るのかな?」


「はい、今日街の外デビューなんです!」


「そうか、弱い敵しか居ないとはいえ、小さなお嬢ちゃんには危険な場所だ。 よく注意して草原に入るんだよ?」


「わっわかりました、気を付けます!」


「ははは、良い返事だ! 行ってらっしゃい!」


「行ってきます!」


 門兵さん二人に手を振って街の外へと飛び出す。

 前を向いて草原を見渡した時、爽やかな風が頬を撫でた。


「すごい……これが街の外……」


 とても広い草原。

 遠くに見える森。

 遥か遠くにそびえ立つ1本の巨木。

 広い空を悠々と飛ぶ鳥たち。


「世界ってとっても広いんだね……」


『まだほんの一部なのだ。 この世界はマタタビが思ってる以上に、もっともっともーっと広いのだ』


「そうなんだね、どんな景色が見れるのかすごく楽しみ!」


「にゃーん(ユキもなのー)」


「ふふふ、みんなで素敵な景色を見に行こうね♪」


『さて、さっそく草原を歩いてみるのだ。 敵との戦闘を経験しないとなのだ』


「ふぅ……うん! 行こう!」


 気合を入れて第一歩を踏み出す。

 まだ見ぬ広い世界を夢見て……。



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「大丈夫かねぇ、さっきの小さな猫人様は」


「なんだ心配なのか? あの子は大神官様が言ってた猫聖女様だろ?」


「そうなんだが、俺にも同じ頃の子供が居るからどうにもな」


「そういえばそうだったな。 まぁお供の猫も居るし大丈夫だろ」


「うーん……」


「……ずっと見てても、そんなすぐには帰って来ないぞ」


「はぁ……無事に帰ってきてくれよー」


「ははは! 俺も祈っておいてやるから、職務に戻れよ」


 心の底から心配そうに草原を見つめる男が1人。

 やはり7・8才のお子様に見られているマタタビなのであった。



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「きゃーーーー!」


『逃げてばかりじゃダメなのだ! 攻撃するのだ!』


「そんなのできないよーー!」


 草原に出て数分、敵と遭遇したのはいいんだけど……。


「こんなに可愛い子! 傷付けられなーーい!」


『相手は敵なのだ! 倒さないとダメなのだー!』


「ひいいいいぃぃぃぃん!」


 出てきたのは角を持ったウサギ、ホーンラビット。

 愛くるしくクリクリとした瞳で、捻れた角を向けて突っ込んでくる。

 こんな可愛い見た目の敵だなんて思ってなかんだよーー!


「ううううう! あぶなっ!」


『キューーー!』


『こうなる気はしてたが、まさか本当になるとは思ってなかったのだ』



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 :あははははwww

 :追いかけっこしてらwww

 :俺も最初は攻撃ためらったなー

 :気持ちはよく分かるわーん

 :私もこんな可愛い子攻撃できないかも

 :どうすんだこれwww



 ----


『キューーー!』


「うわっと! うううぅぅぅどうしよう! どうしたらいいのナビさん!」


『いや攻撃するしかないのだ……』


「んんんんんん! ごめんなさいウサギさん! えいっ!」


『キュキュッ!』


「あああああああ! ごめんなさーーい!」


『敵に謝ってどうするのだ……』


「だってえええええ! わっ!」


『キュー……キュッ!』


『もうすぐで倒せるのだ! 頑張るのだ!』


「ううぅぅ……えいっ!」


『キュッ! キュー……』


「あ! ウサギさん! 血が!」


『そういうものなのだ、しょうがないのだ』


「でも……うー……【ヒール】!」


『キュッ?』


『ちょっ! 治してどうするのだ!』



 ----


 :敵にヒールwww

 :どんだけ優しいんだよwww

 :でもそこが良い!

 :これじゃ無限ループだぞwww

 :無限ループって怖くね?

 :そんなところも素敵よーん♪



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「だって痛そうだったから……」


『回復してもまた攻撃されるだけなのだ!』


「だってー!」


『キュ……キュッ』


「あれ?」


『どっか行ってしまったのだ……』


「はぁ……よかった……」


『よくないのだ、これじゃ素材が手に入らないのだ』


「ウサギさんの素材……」


『倒せば角に毛皮、ウサギ肉とかが手に入るのだ。 これじゃ何も得られないのだ』


「うー……」


「にゃにゃー(マタタビはやさしすぎるのー)」


「だって……血が出て痛そうだったから……」


『マタタビには戦闘は無理そうなのだ……』


「あーん! どうしよう!」


『キュッ!』


「うわぁ!」


『別のホーンラビットが来たのだ!』


「またあああ! どうしよおおおお!」


『だから逃げちゃダメなのだーー!』


『キューーー!』


 ウサギさんが角を向けて突進してくる!

 やっぱり攻撃なんてできないよ!

 運営さん! なんでこんなに可愛く作ったんですかあああああああああ!


『キュキュキューーー!』


『ギュッ!』


「えええぇぇぇ!」


 攻撃をしかけてきたウサギさんを、別のウサギさんが体当たりで吹き飛ばした。

 どうして? 何が起きてるの?


『キュッ!』


『キュー……』


『キュッキュキュ!』


『キュッ』


「大丈夫? 血が出てるよ? えっと【ヒール】!」


『キュッ?』


『また回復してるのだ……はぁ……』


「だって血が出てたし……可哀想で……」


『『キュッ』』


 ナビさんに怒られてたら、ウサギさん二匹がジッとこっちを見てどこかに行ってしまう。


「よくないけど、あたしはこれでいいんだよ、きっと」


『素材はどうするのだ? このままじゃ本当に何も手に入らないのだ』


「それは……」


『『キュー』』


「ん、どうしたの? え? くれるの?」


『『キュー!』』


「あ、ありがとう! えっと撫でても大丈夫かな……」


『キュッ?』


 しゃがんで手を差し出すと、ウサギさんがピョコピョコ近付いてくる。

 指をチョイチョイと動かすと、顎を当てて気持ちよさそうな顔をした。


「はわー♪ 柔らかくて気持ち良い……可愛い♪」


『手懐けた……のだ? いやテイムにはなっていないのだ、どういうことなのだ?』


「よしよーし、良い子だねー♪」


 もう1匹も近付いて来たから、同じようにチョイチョイと撫でてあげる。

 あーやっぱり動物さんは倒すものじゃなくて愛でるものだよねー♪


「そういえば、この木の実と草をくれるの?」


『『キュッ!』』


「ありがとう、大事に使わせてもらうね♪」


『『キュー♪』』


「ふふふ、よしよし♪」


『うーん、これでいい……のだ? 我にはもう分からないのだ……』



 ----


 :ナビさんの憂鬱www

 :どうしてこうなったwww

 :テイムしなくてもこんなに懐くのか

 :でもいつかは誰かが倒すんだろ?

 :いやまあそうなんだけどさ、言うなよ

 :角はちょっと怖いけど、ウサギさん可愛いです!

 :小学校の時学校にウサギ居たなー

 :わかる、なんか懐かしいよな

 :ホーンラビット、ありだな



 ----


 しばらく撫でていると、二匹のウサギさんはまたどこかへと消えていった。


「はー堪能した」


『……それで何をもらったのだ?』


「えっと【鑑定】……木苺と薬草みたいだね。 木苺はお菓子に使えるし、薬草はポーションの材料の1つみたい」


『ふむふむ、まあ悪くないのだ。 ただ……攻撃できないのはやっぱり問題なのだ』


「うー……そんなこと言ったって……」


『はぁ……これからどうなることやら、なのだ……』

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