第7話:美猫さん、ログアウト

 第7話:美猫さん、ログアウト


『完全に落ちきったみたいなのだ。 後は小型送風機で乾かしてあげれば完了なのだ』


「こういう便利なのもあるんですね」


『これもランク普通-だから、より良い物にすると乾く速度が早くなるのだ』


「なるほど、思った以上に細かく作られててビックリです」


 小型送風機は魔道具のようで、石の部分に触れると優しい風が出てくる。

 それを汚れていた猫さんに当てると、気持ちよさそうな顔でにゃーと鳴いた。


 ☆--☆--☆

 ・チェインクエスト

  長い毛をカットしてあげよう

 ・発生条件

  【汚れた猫を助けよう】クリア時に【トリミング】を所持している

 ・クリア条件

  カットを完了する

 ・失敗条件

  カットを失敗する

  猫に逃げられる

 ☆--☆--☆


「チェインクエストですか?」


『すごいのだ! クエストをクリアした時に、続きがある場合に発生するのだ。 このクエストは発生条件があるが、無条件で発生する場合もあるのだ』


「ふむふむ、今回の場合はお話に続きがあるタイプのクエストだったんですね、受注!」


「この猫は長毛種じゃなかったんだな。 このままだとゴミが毛に絡まって可哀想だから、綺麗にカットしてあげられないかい?」


「大丈夫です、あたしに任せてください!」


「頼りになる猫人様で良かった! それじゃあ頼むよ!」


「猫人様……?」


『マタタビのことなのだ。 この世界の原住民である【大地人だいちじん】は猫神様を信仰しているのだ。 だからマタタビのような猫耳の旅人を【猫人様】と呼んで、神様と使いとして大事にしているのだ』


「なんだか恥ずかしいですね……」


『まだマタタビしか居ないから、余計に恥ずかしいかもしれないのだ』


「そうなんですか!」


『我がテイムされる前までの情報だから、もしかしたら居るかもしれないのだ。 情報が古かったらごめんなのだ』


「いや、それは大丈夫なんですけど……」


『それよりもほら、カットしてあげるのだ!』


「そうでした! では……【トリミング】!」


 同じように両手をかざして唱えると、グルーミングの道具が消えて新しいのが出てきた。

 カット台、カット用ハサミ、スリッカーブラシ、爪切り、爪ヤスリ。

 これもグルーミングと同じようにランク普通-の道具たちだね。


「猫さん、今から伸びちゃってる毛のカットと、爪を切って綺麗にしましょうね」


「にゃごにゃーん(わかった、お願いしまーす)」


「ふふ、ちゃんと言う事聞いてくれる良い子ですねー♪」



 ----


 :俺も良い子って言われたい

 :あー幸せ空間最高

 :もはやコレ見てるだけでいい

 :マタタビちゃんと猫の間に挟まる奴は処刑だな

 :百合みたいに言うなと言いたい所だが、ほんソレ

 :私もマタタビちゃんにお手入れしてほしい

 :でもカットって大丈夫なのか? 素人ができることじゃないだろ?

 :たしかに、スキル補正とかあるのか?

 :剣術とかは補正あるみたいだな

 :失敗条件にカット失敗ってあるし、絶対的な補正ではなさそう



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 カット台に猫さんを乗せて、動かないでくださいねーとブラシを手に取る。

 まずは毛並みにそってスリッカーブラシを通して、抜け毛を処理していく。

 それからハサミをかまえると、突然視界に変化が訪れた。


「なんか毛の色が赤くなった!」


『それはスキルの補助機能なのだ! 赤い部分が不要な毛になるから、それに合わせて切ってあげれば大丈夫なのだ。 今回は普通に短くするだけだけど、要望があった場合は補助もそれに合わせてくれるから安心するのだ』


「へー、初心者でもちゃんとカットできるようにできてるんですね、安心しました」


『プロがこの世界に来ることの方が稀だと思えば、当然の対応なのだ』


「確かにそうかもしれないですね。 ではまずは首から下をやってしまいましょう!」


 初めてで緊張する……ゆっくりでもいいから、まずは失敗しないようにやっていく。

 チョキ、チョキ、チョキ。

 少しずつ緊張が薄れてきて、ハサミの音が軽快なリズムに変わっていくのが分かった。


「じゃあ次は手と足をやりますね? はい、お手々触りますよー」


「にゃー(はーい)」


「良い子ですねー。 先っぽは丸くなるように、チョキチョキっと。 次は足ですねー」


「にゃごにゃー(とっても気持ち良いー)」


「ふふっ、ありがとうございます♪ 次はお顔やりますね? ちゃんと傷付けないようにしますが、動かないでくださいよー?」


「にゃっにゃー(きっ緊張するー)」


「大丈夫ですよ、すぐ終わらせますから♪ そーっと……チョキ……チョキ……こっちも……っと」


 体全体を見回して赤い所がないかチェックしていく。

 うん、大丈夫そうだね!

 最後は爪を切って、ヤスリで引っ掛かりがないように整えてあげて完了です!


「はい、できました!」


「にゃーん!(ありがとー!)」


『よくやったのだ!』


「すごい、見間違えるようだ! さすが猫人様、猫の手入れはお手の物なんですね!」


「いやーそれほどでも、えへへへ♪」


 ☆--☆--☆

  クエストクリア!

 ・報酬

  猫玉 1個

 ☆--☆--☆


「あ、クリアになりました! 猫玉ってなんでしょう?」


『それは今はまだ何にも使えないアイテムなのだ。 ただ、何個か集めると良いことがあると言われているらしいのだ』


「なるほど、捨てずに集めればいいんですね、わかりました!」


「猫を助けてくれてありがとう! 俺の尻拭いをさせてしまって悪かったね……」


「いえいえ! 可愛い猫さんを助けられてよかったです!」


「そう言ってもらえると心が救われるようだよ。 俺はこの近くの工房で下働きをしてて、よく店番をしてるからよかったら今度店に来てくれ!」


「わかりました!」


「【ゴドロフの鍛冶工房】っていう場所だから! じゃあ!」


「お元気でー!」


『無事クリアできてよかったのだ。 まさか初めてのクエストがランダムクエストとは思わなかったのだ』


「そうですね、でも楽しかったので良いです♪」


「んにゃー(お疲れ様なのー)」


「ユキさんもありがとうございます♪ なでなで」


「ごろごろ」



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 :いやー良いもの見せてもらいましたわ

 :このチャンネルいいな、めちゃくちゃ癒される

 :気付いたらチャンネル登録してたぜ

 :私も

 :俺も

 :あたいも

 :拙者も

 :なんか色々混じってるな

 :なによ! お尻ぺんぺんしちゃうんだから!

 :お前が出てくるのかよwww

 :侍の方じゃないのかwww



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「ふぅ……今は一旦ゲーム終わろうかな。 お誕生会の途中だし、改めてお礼言いたいし」


『ふむ、そうか。 誕生日と発売日が同じとは、何か運命のようなものを感じるのだ』


「そうだね、このゲームと出会えてよかった。 まだ街の中しか見られないけど、いろんな場所を猫さんと見て回りたいな」


『もちろん我もサポートするのだ! 嫌と言っても付いていくのだ!』


「ふふふ、よろしくお願いしますね♪」


「んにゃー! にゃごにゃごー(ユキもー! マタタビから離れないのー)」


「ユキさんありがとう、これからもよろしくね」


『では、メニューを開いて【ログアウト】を選ぶのだ』


「うん! それじゃあ、また後でね!」


 はー楽しかった!

 こんなに楽しいことができるのは、お父さんのおかげ。

 本当に感謝してもしきれないなー。



 ----


 :あぁ終わってしまうのか

 :一旦って言ってたから、またやるだろ

 :今日誕生日なのか、おめでとうって伝えたかったな

 :本当にな、届かないかもだけどおめでとう!

 :誕生日おめでとう!

 :おめでとー!

 :おめでとっ! んちゅっ!

 :誕生日おめっ!

 :おめっとさーん!

 :おたおめー!



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 こうして初めてのログインは楽しいものとなり、無事ログアウトを果たすのであった。

 ゆっくりと視界が暗くなり、再び目を開けるとそこはリビングのソファの上だった。

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