第1章:準備は大事

第6話:軽い散策、初めてのクエスト

 第6話:軽い散策、初めてのクエスト


「そういえば、ナビさん喋り方違くないですか?」


 噴水広場前から市場の方に歩きながらナビさんに話しかける。


『ん? あぁそのことなら、威厳ある喋り方をしなさいと言われたからなのだ。 この喋り方が我の素なのだ』


「そうなんですね、こっちの方が親しみがあって好きですよ」


『そ、そうか? ふふん、我もそう思っていたのだ!』


「にゃー(ユキもなのー)」


「だよねー? そっか、そういう決まりみたいなのがあったんだね」


『うむ、チュートリアルナビも楽ではないのだ』


 決められてたなら仕方ないね、最初から今の感じでいてほしかったけど。

 そんな他愛もない話をしながら歩いていると、すぐに市場に到着した。



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 :すごい人だかりだな

 :現実の商店街もこんな感じだな、賑わってるところはだけど

 :野菜とか肉とか売ってるのか?

 :ちょっとしたアイテムも売ってるらしい

 :あとはプレイヤーの出店だな、今はまだ少ないみたいだけど

 :この短時間でもう出店やってる奴いるのか?

 :最初の草原でポーションの材料が取れるらしい

 :あーそれでか



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『ここで何か買うのだ?』


「まずは見て回ってみようかなって。 まずは旅を楽しみたいから観光!」


「んにゃー(おたたなあるなのー?)」


『なるほど、急ぐ旅でもないしゆっくり見てまわるのだ』


「そうだね! お魚あるかな? 料理術あるし、美味しいごはん作ってあげたいな」


「にゃにゃー(おにくでもいーけど、おたたのほうが好きなのー)」


「そっか、あったら買ってみようね」


「んにゃごろごろ(うれしいなのーごろごろ……)」


 三人でゆっくり見て回っていると、なんだか誰かに後を付けられてるような気が……。

 ナビさんも気付いたみたいで、チラチラと後ろを伺い始める。


「ナビさん……」


『あーいや、安心していいのだ。 悪意ある存在じゃないのだ……』


「そうなんですか?」


『うむ、普通に振り向いて大丈夫なのだ』


「はい……え!」


 ゆっくり後ろを振り返ると、10匹以上の猫さんが後ろを付いてきてた。

 えー! なんでー! 可愛いー!


「はーん! なんで付いてきたんですかー?」


 しゃがんで指をちょいちょいして、おいでおいでーとアピールする。

 すると、近くで隠れてた猫さんまで出てきてあたしに群がってきた。


『スキルの影響であるな、マタタビが持つ【神獣の好香】の効果なのだ』


「あーなるほど、よーしよしよし、君もよーしよしよし、わしゃわしゃー」


『街を歩いてるだけでコレだと、外に出た時が怖いのだ……』


「獣の好きな匂いを発してるんでしたっけ、あたし」


『そうなのだ。 獣類に限定されてるだけマシだが、狼とか猪とか鹿とか……』


「突進されたら死んじゃいそうですね……」



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 :そんなスキルがあるのか

 :獣ほいほいw

 :動物好きにはたまらないスキル

 :わたしはほしいなー

 :動物好きなテイマーなら喉から手が出るほど欲しいやつだ



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『撫でるのは構わないのだが、猫の調教師の効果で好感度が上がってるから、ほどほどにするのだ、ずっと付いてくるようになるのだ』


「はっ! 嬉しいような……ちょっと迷惑のような……」


『いくら好きでたまらなくても、つきまとわれるのは困るのだ』


「まるでハーメルンの笛吹き……いやマタタビの猫吸いになっちゃいますね」


『ぜんぜん上手くないし、字面が似てるからちょっとややこしいのだ』



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 :字面とかちょっとメタいこと言うなwww

 :マタタビの猫吸いwww

 :てかいつまで撫でくりまわしてるんだよwww

 :市場の中心で猫好きと叫ぶ!

 :全然進まねぇwww



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「んなーお(そろそろ行くなのー)」


「そうだね、ごめんねみんな……また見かけたら撫でてあげるからね?」


『そんな切ない声で言われると、なんだか我たちが悪者みたいではないか……』


「あ、ごめんなさい。 じゃあね、ばいばい」


『あっちに工房区画があるのだ、武器探しに丁度よさそうではないか?』


「そうだね、そっちに行ってみよう!」


 市場の端まで来たところで方向転換、鉄の匂いがただよう区画に足を踏み入れる。

 鍛冶屋さんが多めで、他には魔道具工房やポーション工房なんかもあるみたい。

 華やかさはないけど、クリエイター器質の人たちにはたまらない雰囲気かな?


「ハンマーの音が微かに響いてて、なんだか良い雰囲気ですね」


「んなお(ユキにはうるさいなの)」


『武器職人や防具職人がしのぎを削る区画なのだ。 市場には売ってない物も並んでるから、何か探す時にはこっちにも来ることをオススメするのだ』


「うん、わかった!」



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 :これは初心者に優しい良いガイド

 :工房区画ってこうなってたんだ、用なかったから初めて見た

 :この世界ってドワーフとか居るのか?

 :一応存在してることにはなってるけど、この街には居ないみたいだな

 :もしかして人族至上主義の街とか……

 :そういうわけでもないぞ? この子見ても誰も何も言わないだろ?

 :あれ、そういえば猫耳生えてるなwww

 :見るからに獣人なのに普通ってことは、そういうことだろ

 :今は出てきてないだけってことか?

 :わからんが、たぶんそう

 :てか、最初に獣人って選べたのか?

 :そういえばそうじゃん、ナチュラルにスルーしてた

 :缶の飯垣は機雷だよ

 :変換が迷子すぎてネタになってねぇからw



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「あれ? あそこに何か黒い塊が……」


「んなーお!(くさーいなの!)」


『近寄ってみるのだ?』


「うん! ……よく見たら猫さんだ!」


 小走りで近寄ってみると、その黒い塊が猫さんだと分かった。

 異臭を放っていて、油まみれになってるように見える。


 ☆--☆--☆

 ・ランダムクエスト

  汚れた猫を助けよう

 ・クリア条件

  一定以上汚れを落とす

 ・失敗条件

  猫に逃げられる

 ☆--☆--☆


『クエストが発生したのだ!』


「クエスト? これがそうなんですか?」


『うむ、ランダムクエストというのは場所を問わず運で発生するもので、一日中街を歩いてても発生しない場合も普通にあるが、こうして突発的に発生することがあるのだ!』


「そうなんですね。 可哀想なので助けてあげます! 受注!」


「いたいた! 君が保護してくれていたのかい?」


 受注を選択したら、路地の方から男性が走り寄ってきました。


「廃棄用の油壷に落っこちてしまってね、急いで救い出したんだけど暴れて逃げられてしまって……」


「そうだったんですね、あたし綺麗にしてあげられるので任せてください!」


「本当かい? それなら、この路地のむこうに井戸があるから自由に使ってくれ!」


「わかりました!」


『ふむふむ、本来はそこの井戸で一生懸命洗ってあげないといけないわけか……』


 油でベトベトな猫さんを持ち上げて、男性と一緒に井戸へ向かうと、開けた場所に出る。

 端に井戸があって、広い部分は子供が遊ぶためのスペースになっていた。

 ボールが落っこちてたりするから、たぶんそうなんだと思う。


『ではマタタビ、さっそくスキルを使って綺麗にしてあげよう!』


「はい! 【グルーミング】!」


 汚れた猫さんに手をかざしてスキル名を唱えると、猫さんの周りにアイテムが出現する。

 木桶、シャンプーボトル、ウォッシュブラシ、小型送風機。

 てっきりスキルの効果で勝手に綺麗になるものだと思ってました……。


『グルーミングには魔法も含まれているのだ! 木桶に向けて【お湯生成】と唱えるのだ』


「【お湯生成】! おお……底からお湯が湧き出てくるんですね」


『さあ、さっそく洗ってあげるのだ! ベトベトのままじゃ可哀想なのだ』


「そうですね! ほーら綺麗にしてあげるから、暴れないでねー?」


 汚れた猫さんを木桶に移してあげて、ひとまず簡単に油を落としてあげる。

 当然全部は落ちきらないから、お湯を一回捨てて、またお湯生成で木桶を満たしてあげる。

 汚れた猫さんは気持ちいいのか、暴れることもなくなされるがままになってくれる。


「はーい良い子ですね! よしよし、今からシャンプーしますね?」


「にゃー?(怖くない?)」


「はい、大丈夫ですよ? 優しく洗ってあげますから、安心してくださいね?」


「ん、んにゃお(わ、わかった)」


「ナビさん、このシャンプーは良いものなんですか?」


『良い質問なのだ! グルーミングに限らず、アイテムを召喚する系の職業ロールスキルはランク【普通マイナス】の物なのだ。 お店で買ったり、自分で作ったりしてより良い物にしていく必要があるのだ』


「そうなんですね、分かりました」


 普通ってことは良くも悪くもないけど、マイナスだから品質は低めなんだね。

 せっかくこうして猫さんと触れ合えるスキルなんだし、良い物に変えていきたいな。

 そう思いながら優しく洗ってあげると、だんだん薄茶色い毛が見えるようになってきた。


「一回流しますね? 落ちきれてないのでもう一回だけ洗いましょう」


「んにゃーお♪(気持ちいいなー♪)」


「ふふ、良かったです♪」



 ----


 :なんなんだこの優しい世界は……

 :心が浄化されていく……

 :てぇてぇ……てぇてぇよ……

 :俺もごしごししてほしいな……

 :男が言うとなんか気持ち悪いわよ

 :この尊い世界に汚物はいらぬ、天誅してくれるわ!

 :お奉行様ご勘弁を!

 :そういうのもいらねぇからwww

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