第10話 旦那様のお仕事覗き見ツアー!?

 それは、私がゴーシュさんと精霊さんたちの関係を知って、いつか私も彼らのように素敵な家族になれたらいいな…なんて改めて思ってから数日が経った日のこと。

 あれから私が料理をしようと厨房キッチンに向かうと、ルルフェルさんは何だかんだ出て来てくれて、私の料理を手伝ってくれた。

 包丁はものは駄目だ、火を使っちゃ駄目だと言って居た実家のメイドたちとは違ってルルフェルさんの指導は実戦的で、私も怒られたり呆れられたりしながらちょっとずつレパートリーを増やしている…!と、思う…。

 そんな風にちょっとずつ出来ることが増えて、何となくお料理も様になって来た気がして、私はほんの少し浮かれていた。

 けれど、ここ数日はすっかりお料理の特訓に夢中になって、大事なことを忘れていたことを思い出したのだ…!


「ねぇ、ルルフェルさん」


 私は、ジャガイモの皮を悪戦苦闘しつつ剝きながら、野菜かごの上に座って私を眺めているルルフェルさんに話しかけた。


『ちゃんと集中しなさいよ、貴女そそっかしいんだから…』


 ルルフェルさんはちょっとつれない…!

 けれど、私は気にしないで言葉を続ける。


「ゴーシュさんって普段は何をなさってるんですか?」


『…………』


私の質問に、ルルフェルさんは何処かきょとんとした顔をする。


『普段って』


「え、ほら…お仕事とか……ご趣味とか……」


「そんなこと自分で聞きなさいよ」


 一応夫婦なんでしょ?とルルフェルさんが痛いところを突いてくる。それは当然自分でも思ったし、何なら聞いてみたのだ…!


「ゴーシュさんはどんなお仕事をなさっているんですか?…もし良かったら、私にも何かお仕事のお手伝いをさせて貰えませんか?」


 そんな風に声をかけたのだけれど、ゴーシュさんは、わたわたと慌てた様子で「いえ!そんな大したことはしてませんから大丈夫です!」とか「貴女は食事も作ってくれてますし、そんなことまでさせれないです!」とか「俺の仕事なんて気にしないで、のんびり暮らして下さい…!!」とか捲し立てて、逃げるようにどこかへ行ってしまうのだ…!!

 ご飯の時はちゃんと戻って来てくれるとは言え、そんなことが数度続けば、さすがに私もそれ以上言い難くなってしまう…!!!


(…でも、妻なのに旦那様が何をしてるか知らないなんて変だよね!?)


 私が聞いたことがある"魔法使い"のお話だと、魔法使いは人間を捕まえて悪魔との儀式をするとか、恐ろしい毒薬を作って人間を実験台にするとかそういう話ばかりで、でもそれってお仕事なの????となってしまうし、全然わからない…。

 そんな話をルルフェルさんにすると、少しばかり考え込むような表情をした後、何か思いついたのか、不意に彼女が悪戯っぽい顔でニヤっと笑った。


『それなら、良いやり方を教えてあげる』


「え?」


『ちょっと目を閉じて。じっとしていてね』


「?」


 言われるまま、私は目を閉じる。

 ルルフェルさんが、私の周りをぐるっと飛び回ったような気配がある。そして、何となくふわっと心地の良い風が吹いた気がした…!


『もういいわよ』


「はい」


 目を開ける。

 ルルフェルさんは何かをしたんだろうか?と思いつつ周囲を見ても特に変化はない。


「?」


 そう変化はない。

 変化が有ったのはだった…!!!


「…って、ええええええ…か、身体が透明になってる……!!!!!!?」


 そう、視線を下げれば視界に入るはずの私の身体も!足も!腕も!何もない…!何も見えない!!!

 私は確かにここに居るはずなのに!!!!


「わ、わぁっ…!!?な、なんですか!?これは…!!!?」


 びっくりして大慌ての私にルルフェルさんはどこか満足そうだ。


『貴女が普段ゴーシュが何をしてるのか知りたいって言ったんでしょ?だから、私たちの"姿隠しの魔法"を貴女にかけてあげたのよ。それでゴーシュをこっそり眺められるわ!』


 ルルフェルさんは、ふふん、と可愛らしくふんぞり返るポーズをなさる…。


「た、確かにこっそりならお仕事の邪魔をせず、気を遣わせず眺めることは出来ますけど、それって覗き見じゃないですか????」


 プライバシーとかそういうのの関係が…と、不安になる私にルルフェルさんは人差し指をびしっと向けてくる。


『おバカさんね!これは貴女だけの問題じゃないのよ、新米嫁!貴女がゴーシュの嫁に本当に相応しいか、ゴーシュ自身が本当に貴女と結婚した気でいるのか、私も確かめさせて貰うついでってやつだからね!』


「…!?…た、確かめるってどういうことですか…!?」


『それは勿論―――――………』


 ルルフェルさんの言葉が止まる。

 一体なにが"勿論"なんだろう…。


「………」ごくり…


『………』


 しばしの間。


『あ、貴女が魔法使いの日常に恐れを抱いて逃げ出さないかを確認する為よ!!!!』


「お、おお……」


 大分カッコよく決めてくれたけど、変な間が空いてたから「その間に台詞を考えました!!」みたいになっちゃったことには気がつかないふりをしよう!

 つまりこれはルルフェルさんが私の為にゴーシュさんを知る機会を作ってくれたってことに違いない…!!!

 さすがにプライバシーを無視するのは良くないことだから、見ちゃいけなさそうなところは見ないようにして……でも、ほんのちょっとだけ、お仕事に取組む姿を見せて貰おう…!

 そんな訳で私は、ルルフェルさんのご厚意に甘えて、こっそり旦那様の日常を覗き見させて貰うことにしたのだった…!!!ごめんなさい…、ゴーシュさん…!





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旦那様はもじゃもじゃ頭の天才魔法使い 夜摘 @kokiti-desuyo

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