第7話 魔法使いの厨房
ゴーシュさんの館の
一つの木箱だけ蓋が閉まっていて、中を見て見ると、そこにはお肉やお魚が入っている。そして、その木箱だけは中が妙にひんやりと冷えている!これなら悪くなりやすいであろう肉やお魚でも長持ちしそうだ。
(……でも、どうしてこんなにひんやりしてるんだろう…。これも魔法なのかな?)
そんな風に気になって箱の中を観察していると、箱の底に小さな青いクリスタルのようなものが落ちているのを見つけた。そっと触れてみると、凄く冷たい!!
『コラ!!!!』
「わっ…!?」
クリスタルに触れた瞬間、誰かに叱られるような声がすぐ近くで聞こえて、私は慌ててクリスタルから手を離した。
びっくりして尻もちをついてしまいながら、周囲をきょろきょろと見回すけれど誰も居ない。
「あ、あれ…?」
この館にはゴーシュさん一人しかいないと聞いているし、他の誰かなんているはずはない。
でも、聞こえてきた声は明らかにゴーシュさんのものではなかった。
『悪戯は駄目よ!!』
再び聞こえてきた声の方向を探ると、それは先ほどまで見ていた木箱の方だ!
慌てて視線を其方に戻すと、誰もいなかったはずのそこに…、正確に言うなら冷たいクリスタルの入っていた木箱の真上に、何かがふわふわと浮いている!
『いきなり人の家に入り込んできて厨房の食材を漁るなんて、いけない女の子ね!』
「え、えぇ…!?」
ぷんぷんと怒った様子で私を見下ろしながら指さしているその人は…、いや、女の子?は、まるでお人形くらいのサイズで、背中に羽根が生えている!その周囲にはキラキラと輝く鱗粉のようなものが煌めいて居て、凄く綺麗!!
「よ、妖精!?」
そう、その姿は絵本や物語の中でだけ見たことがある妖精のような姿だった。
私はビックリして、その子が何やら私に向かってきゃんきゃんと言って居る言葉すら聞こえず、目をぱちくりとして彼女?を見つめ続けてしまう。
まさか魔法使いだけじゃなくて、本物の妖精さんまでをこの目で見ることが出来るなんて…!!!!!!
『な、なによ…。文句でも———…』
「…凄い!!…きれい…!!!まさか本物の妖精さんを見られるなんて!私、なんて幸運なのかしら…!」
『!?』
「…あ、ごめんなさい!初めまして、私メーデルって言います!貴女のお名前はなんて言うんですか?」
『え?え?』
「私、魔法使いさんの———ゴーシュさんのお嫁さんに来たんです。だからここにも悪戯をしにに来た訳ではなくって、彼と一緒に食べる食事を作るためにきたんです。驚かせてしまってごめんなさい」
『え、えぇ!!?』
妖精さんは私の言葉に目を丸くして、とても驚いた声を上げた。
それは私が嫁に来たのだと言う説明を始めて聞いた時のゴーシュさんの反応に似ていて、私はつい「あ、デジャヴュ!」なんて、少しだけ面白く思ってしまったりもした。
『ちょ、ちょっと馴れ馴れしい子ね!!あのゴーシュが結婚なんて聞いてないし、見たところ貴女、良いところのお嬢さんじゃない。料理なんて本当に出来るの!?』
痛いところを突かれてしまった。確かにその件については先ほどの自己考察の結果、あまり出来そうではないと判明したところだったのだから…。
「…そ、その、少しずつ出来るようになる予定…です!」
『ハァーーーー!!!!』
思わず口籠った私に、妖精さんは呆れ顔でわざとらしく大きなため息をついた。
『ナニソレ!それじゃあ、今は全然出来ないってことと同じでしょ?ゴーシュと変わりないじゃない!』
「え、でもゴーシュさんは、昨日のお夕食を作ってくれて…」
『あんなの私たちが手伝ってあげてようやく作ったに決まってるじゃない…!』
「そ、そうだったんですか…!」
『そうよ!あの子、本当にずぼらで、放っておくとお風呂だってご飯だってすぐサボるんだから…!貴女が本当にゴーシュのお嫁さんになるっていうのなら、その辺りちゃんとしつけてあげられなきゃ、お嫁さんとして認められませんね!!!』
「…お、お
『誰がお母さまよ!』
『ハァ…。仕方ないわね。私の名前はルルフェル。この館に住み着いてる精霊の一人よ』
「一人…ってことは…」
『そうよ。私の他にも何人か精霊がいるの。昨日からゴーシュ以外の人間の気配がしたから、みんなで姿を隠していたけどね…』
「そうだったんですね…」
『ゴーシュは私たちの事あなたに話してなかったのね!全く薄情な子なんだから!!』
「そ、そんなに責めないであげて下さい…。私が結構強引に押し切っちゃったから、彼も説明するタイミングがなかっただけだと思いますし、きっと本当はちゃんと紹介してくれるつもりだったんだと思いますよ」
『本当にそうかしら…!』
いつの間にか私はぷんぷんしている精霊ルルフェルさんのご機嫌を宥めることになってしまっていた。
まさかゴーシュさんにこんな同居人?がいたなんて…!
頭の中でほわほわと精霊さんたちに囲まれて暮らすゴーシュさんの姿を想像したら、何だかちょっと和んでしまった…!あのもじゃもじゃ頭で休憩するのは鳥ではなくて精霊だったのかも知れない。
……なんて冗談はさておき。
彼が精霊さんにお世話をされて暮らしてるなんて聞いてしまったら、少し微笑ましいけれど、なるほどその役目は私がしっかりやらせて頂きたいという使命感も湧いてくる。
だから私は、このまるで
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