第8話 魔法使いの食卓…その前に
ルルフェルさんは、私の不慣れな手つきや要領の悪さに呆れたり、それを茶化してきたりしたけれど、それでも面倒見良く助言をしてくれた。
そうして完成したのは、鶏肉とお野菜、それからお豆をたっぷり入れた具沢山のスープと簡単なサラダ、そしてパン。
ディナーと呼ぶには簡単なメニューかも知れないけれど、ルルフェルさんは「初心者にしたらこれでも上出来でしょ!」と褒めてくれた…!
ルルフェルさんは口は悪いけれど、何だかんだ言いつつも凄く優しい人(精霊さんだけど…)みたい!
私は彼女と少しだけ仲良くなれた気がして、嬉しくてほわほわしながらゴーシュさんを呼びに行った。
ルルフェルさんのこともだし、他にもいると言うまだ見ぬ精霊さんたちのこと…。お話したいことがまた沢山たくさん増えてしまったことが嬉しい。
彼女たちとどんな風に暮らしてきたのか、どんな風に出会ったのかetcetc…。聞きたいことはたくさんある。…出来るなら、彼が話していたお爺様やお婆様のことも…。
…とは言え…、いざ二人きりになるとなんだか妙に緊張してしまって、食堂に向かう道中、私たちはあんまりお喋りすることが出来なかった。
私は、なんとなく話題をどう切り出したら良いのかもじもじしてしまったし、いざ話すぞ!と気合を入れて話し出そうとしたら、たまたまゴーシュさんが何かを言おうとした瞬間とタイミングがかちあってしまい、お互い相手にどうぞどうぞしているうちにやっぱり二人して沈黙してしまったりと、そんな感じで…。
多分ゴーシュさんは人と話すことがあまり得意な方ではなくて、そして私はまだゴーシュさんのペースと言うものを理解できていないのだ…!
そんな風に考えていたらいつの間にか私とゴーシュさんは食堂の前に到着していた。私がゴーシュさんと一緒に食堂へと入ると、そこにはルルフェルさんが腕組みをした格好でふわふわと浮かんでいた。
それを見たゴーシュさんは酷く驚いた顔をする。
「ルル!?…なんでここにいるんだ…!」
『あら、これはご挨拶ね!お嫁さん見習いの小娘が料理が出来なくて困っているのを助けてあげた優しいルルフェルちゃんに対してそんな口を利いていいのかしら!』
「ええっ??!」
今度は私の方に向けられる視線。
「あ、そ、そうなんです!厨房にいらっしゃったルルフェルさんに手伝って貰って…!」
変な誤解をさせてしまっては良くないと、私は慌てて口を挟む。
するとゴーシュさんは、私の方へ向けた視線をそのままに、慌てた調子で口を開く。
「…メ、メーデルさん……。だ、大丈夫でしたか?…えっと、ルル…彼女、結構口が悪いし、失礼なこと言ってませんか?…─────あぁ、もう!ルル、人が来るときには出てこないって言ってたのに、なんで勝手に出てきたりしたんだよ。驚かせちゃうだろ!まさかへんなイタズラしたり、余計なこと言ったりしてないだろうな…?」
オロオロと心配そうな顔を私に向けたかと思えば、ルルさんに向かってまるで拗ねた小さな男の子みたいな調子で抗議をしている。
その様子が新鮮で、私はそれをぽかんとした顔でただただ眺めていた。
『あらあら、ムキになっちゃって!そんなに彼女に良いカッコしたいのかしら!』
「な、何言って…」
『国の使いなんて、怖い人が来たらどうしよう…って泣きべそかいてた癖にね!』
「泣いてたんですか??!」
「泣いてませんよ?!!」
小さくて可愛い妖精さんともじゃもじゃ頭の魔法使いさんが仲良くじゃれ合っている光景は、まるで絵本の中の光景みたいで何だか微笑ましくなってしまう。
私の前だとまだまだ緊張した様子のゴーシュさんも、ルルフェルさん相手にはすっかりリラックスしたような素直な調子に思えて、何だか可愛いなぁって思ってしまった。…それからちょっとだけ、ちょっとだけ羨ましいかも…なんて…。…でもちょっとだけ…!本当にちょっとだけどね!
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