第10話 安心

 そして、その日の朝。


 俺は自然と目が覚めた。視線の先には――


「おはよう」


 ……ミサキが微笑みを湛えながら俺のことを見ていた。


「……おはよう」


「なんだ。私が起こさなくても自分で起きれるじゃん」


「ミサキは……何してたんだ?」


「ん? ずっと見てたよ。君の寝顔」


 なぜか嬉しそうに俺のことを見ているミサキ。俺はゆっくりと身体を起こす。


「……あの、着替えるから出て言ってくれる?」


「あぁ。気にしないで」


「え……。いや、俺が気になるんだけど……」


 と、俺がそう言うとミサキは不思議そうな顔をする。


「なんで? 私達、幼馴染なのに?」


 「幼馴染」という言葉を強調するかのような話し方だった。俺はどうすればいいかわからなくなってしまう。


「……フフッ。わかったよ。外で待っているから」


 そう言ってミサキは部屋の外に出ていった。


 なにか……変わった気がする。いや、ミサキとの関係は変わっていない。ミサキがふっきれたように見えるのは……俺だけなんだろうか?


 それから朝食を素早く終え、玄関を出る。ミサキはスマホをいじっておらず、待ちかねていたと言わんばかりに俺のことを見ている。


「さぁ。行こう」


 そう言って俺とミサキはいつものように一緒に登校する。特にいつもと変わらず会話が多いわけではない。


「そうだ。この前の約束、覚えているよね?」


 ふいにミサキがそんなことを言ってきた。


「この前の約束……その、俺がミサキ以外の女子と喋るな、って言うヤツ?」


「うん。まぁ、私も君以外の男子と話さないようにするわけだけど。約束、忘れないでよ」


 無表情で俺のことを見てくるミサキ。俺は少し戸惑いながらも小さく頷いた。


「あぁ。もちろん、私に話しかけてくるのはいつでもOKだからね」


 そう言ってミサキは機嫌良さそうに歩いていく。俺もその後を歩いていった。


 そして、学校にいる間は特に大きな問題はなかった。ただ……いつにもましてミサキが俺のことを見つめている時間が長かったような気がする。


 昼休み、ふと廊下に出ると、ミサキがこの前の男子と話していた。ミサキとしばらく話していた彼は、その後、とても残念そうな顔で去っていった。


 ……その様子を見て、我ながら酷いとは思ったが、俺はなぜか安心してしまったのだった。

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