第9話 独占
俺はその日、家に帰ってからもずっとぼんやりしていた。
食事もまともに食べていないし、なんというか……自分が世界に存在しているのかどうかもよくわからないくらいにフワフワとしていた。
きっと、このままでも本当にミサキは幼馴染でいてくれるのだろう。
だけど……なんだかそれは嫌なのだ。
自分でもすごくわがままだということはわかっている。ミサキの気持ちを何も考えていないということも。
それでも、俺の中ではとても嫌な気持ちが大きくなっていった。
そして、それはちょうど23時を回った頃だった。おもむろに俺は立ち上がる。そして、玄関を出て、そのまま近くのミサキの家まで向かった。
チャイムを押す。ほどなくして、ミサキが玄関から顔を出した。
「……こんな遅くにどうしたの?」
いつものように怒っているわけでもないという感じの表情でミサキは俺を見ている。
「……言いたいことがある」
「へぇ。私は別に君と話したいこと、ないかな」
ミサキはそう言って、扉を閉めようとする。俺は何も言い返せなかった。
しかし、ミサキは扉をしめるのをやめたかと思うと、俺に向けて大きく扉を開く。
「ほら。今日、両親、仕事で家にいないから。早く入って」
「え……。あ、あぁ……」
言われるままに、俺は家の中に入った。よく考えてみれば、ミサキの家の中に入るのは、小さい頃以来な気がする。
「で、話って何?」
リビングに通され、机を挟んで俺とミサキは向かい合う。
「……嫌だった」
「へ? 何?」
「……ミサキが、俺以外の男子と楽しそうに話しているの、すごく嫌だった」
俺は正直な気持ちをミサキに言った。ミサキは唖然としていたが、しばらくすると、フッと面白そうに微笑んだ。
「へぇ。嫌だったんだ? なんで?」
「え……。それは……ミサキは、俺の……」
「俺の?」
「……幼馴染だし」
少し迷ったが、俺はそう言った。ミサキはいつものように品定めするように俺のことを見ている。
俺も今回は視線をそらさず、ミサキのことを見ていた。
「……それで?」
「え? そ、それで?」
「うん。確かに、私は君の幼馴染。だけど、だからって、私が君以外の男子と話しちゃいけないってことないよね? 例え君がどんなにそれが不快だとしても」
「そ、それは……」
「君はいつもそうだよね。自分の気持ちを誤魔化すからややこしいことになるんだよ。ほら、はっきり言ってよ。私に、どうしてほしいの?」
ミサキはなぜか嬉しそうに頬杖を付きながら俺のことを見ている。俺はゴクリと唾を飲み込んでから先を続ける。
「……俺以外の男子とは、話さないでほしい」
少し緊張気味に、俺がそう言うと、ミサキはしばらくそのままだったが、なぜか小さく頷いた。
「わかった。君がそこまで言うのならそうするよ」
「え……。い、いいの?」
「うん。それとも何? 今の言葉、嘘なの?」
俺は思わず首を横にふる。と、ミサキは立ち上がって、俺のことを見下ろす。
「じゃあ、私からも1つ、お願いしていい?」
「え? な、何?」
と、いきなりミサキは俺の耳元に口元を近づけた。
「私以外の女子と話さないで」
短い言葉だったが、なぜか俺の頭には何度も強く響いた。俺は驚いた顔でミサキを見る。
「わかった?」
「……あ、あぁ。まぁ、俺、そもそもミサキ以外の女子と話す機会、ないし……」
「そうだね。でも、万が一ってこと、あるから」
ミサキはそう言った。その言葉には強い「圧」があった。
「よし。これで解決、かな? 君も今日はゆっくり眠れるね」
「ま、まぁ……。そうだね」
「あ。せっかくだし、今日は泊まっていく? 一緒に寝てあげようか?」
「は、はぁ!? い、いや……もう帰るから!」
俺は慌ててミサキの家から飛び出した。玄関からは満足したようにニンマリと微笑むミサキが俺のことを手を振って見送っていた。
何が解決したわけではないが……俺の中ではなぜか納得した結果になったのであった。
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