第8話 役目
ミサキと一緒に出かけて、その後、特にミサキに大きな変化はなかった。
いつものように俺を起こしに来るし、一緒に登校している。
ただ、なんというか……明らかにそれが本当に義務的になってしまった。
いや、元々、ミサキは義務でやっていたのかもしれないが……明らかにそれが惰性であり、義務でやっていることを表面的に出すようになったのである。
俺としても、それについて特に何も言えなかった。だから、俺とミサキの会話はどんどん減っていった。
……いや、でもこれで良かったのかもしれない。早くミサキは、俺という楔から開放されるべきなのだから……そんなことを思っていたある日だった。
放課後、いつものようにすぐに帰ろうとする。いつもならば、どこからともなくミサキがやってきて、黙ってついてくるのだが……その時は着いてこなかった。
俺は教室や廊下を見回す。と……ミサキは廊下にいた。
ミサキは男子と話していた。見覚えのある男子だった。
男子はミサキにしきりに話しかけている。ミサキは少し困ったかのような、しかし、嬉しそうな顔だった。
それから、しばらく会話が続いたかと思うと、男子の方がミサキに別れを告げる。ミサキも俺と同じように周囲を見回し、俺を発見した。
と、ミサキはなぜか嬉しそうにニンマリとした。俺は……戸惑ってしまった。
「ごめん。待った?」
久しぶりにミサキの方から話しかけてきた。
「いや……。待ってない」
「そっか。じゃあ、帰ろう」
ミサキは上機嫌だった。なんだ? なんでミサキは上機嫌なんだ? 俺の中でなにか……言い表せない感情が湧いてくる。
校舎を出て、いつもの道を二人で歩く。俺は……自分の気持ちを抑えられなかった。
「さっき話してたのって……誰だ?」
俺がそう言うとミサキはまた、ニンマリと嬉しそうに微笑んだ。あまり、ミサキがしない表情なので俺はまたしても戸惑ってしまう。
「え? なんで?」
「なんで、って……いや、何話していたのかな、って……」
「……別になんでもいいでしょ? 君に関係ある?」
そう言われてしまうとそうなのだが……その時はそのまま引き下がれなかった。
「いや……。あんまりあの男子とミサキが話しているところ見たこと無いし……珍しいなぁ、って」
「そう? 私、結構いろんな人から話しかけられるから気にしたことなかったな」
「……それで、何を話してたんだ?」
俺がそう言うとミサキは俺のことをジッと見る。それからまたニンマリと目を細める。
「君は……知らない方がいいこと、かな?」
「……は? な、なんだそれ……」
「そのままの意味だよ。別になんでもいいでしょ? なんでそんな気になるの?」
「いや、それは……」
また、俺は理由が言えなかった。ミサキはというと、まるでしどろもどろの俺のことを楽しんで見ているようだった。
「君にとって、私って、別にただの幼馴染でしょ? だったら、別にいいでしょ。私が誰とどんな話をしていても」
「そ、それは――」
俺が先を言おうとすると、ミサキは俺のことをジッと見つめて、そのさきを続ける。
「大丈夫だよ。君の幼馴染っていう私の役目は、どんな状況でも、とりあえず続けてあげるからさ」
ミサキは勝ち誇ったような表情でそう言うと、そのまま歩いて行ってしまった。
俺は呆然としながらも、自分にとって何か大きなものがなくなったことを理解したのだった。
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