第7話 存在

 そして、その日一日は、ミサキが言った通りに、ずっと近所をぶらぶらすることになったわけである。


 俺とミサキは最寄り駅と商店街までやってきた。


「ここらへん、全然変わんないよね」


 ミサキは周囲を見ながらつまらなそうにそう言う。


「……まぁ、繁華街ってわけじゃないし、人口も少ないからね。新しい店はできないだろうし……。むしろ、店が減っていってるんじゃない?」


「ふーん……あれ? あの駄菓子屋……閉店しちゃったのかな?」


 そういって、少し驚いたような表情のミサキは少し先を指差す。ミサキの言う通り、そのさきにあったとされる駄菓子屋にはシャッターで閉まっていた。


「え……。たぶんそうだろうけど……お気に入りの店だったの?」


 俺がそう聞くと、ミサキは少し悲しそうな視線で俺を見る。


「……ううん。別に」


 そう言ってミサキはそのまま歩いていってしまう。俺は今一度シャッターでしまっている店舗を見てみる。


 ……そういえば、小さい頃はミサキと駄菓子屋なんかにも行ったかな。ミサキは10円くらいの一口チョコが好きで……あれ? そういえばその時行っていた駄菓子屋って――


 俺はそう思ったが、今更そのことをミサキに聞いても仕方ないと思い……そのまま駄菓子屋の前も通り過ぎてしまった。


 それからは本当にブラブラとしていた。俺たちが通っていた小学校の近くを通ったり、図書館の近くまで行ってみたり……本当になんの目的もなく、俺たちは歩き回った。


 そして、夕暮れ時、最後にたどり着いたのは……小さい頃よく遊んでいた公園だった。


「ここのことは、覚えているでしょ?」


 公園のベンチに二人で座ると、ミサキにそう聞かれ、俺は小さく頷く。


「まぁ……よく遊んでたしな」


「君、よくここで怪我してたよね?」


「え? そ、そうか? あ、いや、たしかに運動音痴だから、怪我してたかも……」


 俺がそう言うとミサキはフッと小さく微笑んだ。彼女の微笑んだ顔を見たのは……かなり久しぶりだった。


「ねぇ。なんで最近は一緒に遊ばなくなったのかな?」


「え? いや、だって……俺たち、そんな小さい頃みたいに遊ぶわけにはいかないでしょ」


「それはそうだけど……別に一緒に遊ぶとまではいかなくても、一緒にいることはできるでしょ?」


「……いや、でも、それはミサキが――」


 俺はそこまで言おうとして、ミサキがずっと俺のことを見ていることに気付く。


「私が……何?」


 ミサキが俺なんかと一緒にいたら、不利益を被るだろう? ……そう言ってしまいたかった。


 ミサキにとって俺は付き合っている時間が長いだけで、もはやその付き合いも惰性的なものになっているのではないか、と。


「……なぁ、ミサキ。今日は本当に良かったのか?」


「え? 何が?」


「だから……俺なんかと一緒にこんな……あんまり有益じゃない時間を過ごしていて――」


 俺がそこまで言うとミサキはいきなり立ち上がった。


「……なにそれ。私が君といる時間は……無駄だってこと?」


「いや、そういう意味じゃ……俺はただ、ミサキが……」


「だから、私が何!? 私が君のことを邪魔に思っているんじゃないかって言いたいの!?」


 普段のミサキからは想像できないほどに大きな声で彼女はそう言った。俺は否定することができなかった。


「……フフッ。そっか。わかった。はっきりして良かったよ。君にとって私は……そういう存在なんだね」


「え……。お、おい……。ミサキ……」


 俺が呼び止めようとするとミサキはこちらに振り返ってニヤリと微笑む。


「君がそういう考えなら、私もやり方を変えるね。とりあえず、今日はこれでお別れ。さよなら」


 そう言ってミサキは行ってしまった。


 ミサキが行ってしまってから、俺はふと思い出す。


 なぜ、ミサキが俺を誘って出かけたのか……。その理由をミサキに答えていなかったことを……。

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