第4話 心配
そして、その日はなぜかしきりミサキが俺のことを見てきているような感じがした。
しかも、明らかに不機嫌そうな様子で俺を見てくるのである。それ以外は普通に友達と楽しそうに話していたが……やはり、俺がテストを教えてもらわなくて良いと言ったから、怒っているのだろうか?
……いやいや。ミサキとしてはめんどくさい事から開放されるのだ。嬉しいことはあっても怒ることはないんじゃないだろうか。
きっと、俺の思い過ごしだろう……そんなことを考えていると放課後になった。
俺が帰ろうとすると、無言でミサキが俺の近くに寄ってくる。考えてみると、ミサキにはたくさん友だちがいるのに……帰りが俺なんかと一緒で良いのだろうか?
会話もないままに、ミサキは俺の少しあとを着いてきていた。何か嫌な予感がする……。
「今日、ずっと、考えていたんだけどさ」
いきなり背後から声が聞こえてきて、俺は立ち止まる。それから、ゆっくりと振り返った。
ミサキも立ち止まって、俺のことをまっすぐに見ていた。
「……え? な、何を?」
「やっぱり、私が勉強、君に教えてあげたほうがいいと思うんだよね」
ミサキは無表情のままに、落ち着いた感じで俺にそう言った。
俺は何を言われたのかしばらくわからなかったが……少し経ってから我に返る。
「い、いや……。だからさ、今回は――」
「ずーっと、私が教えてきたのに、今回は必要ないって、それ、私に失礼じゃない?」
そう言われてしまうと、俺は何も言えなくなってしまう。しかし、かといって、ずっと黙っていては何も変わらない。
「……そうかもしれないけど、その……ミサキだって、面倒でしょ? 俺に勉強教えるのは――」
「私、面倒だって言った?」
最後まで俺が話し終わらないうちに、少し怒っているような調子でミサキは俺にそう言った。
「……言ってない、です」
ミサキは少しずつ俺に近づいてくる。俺は視線をまたしても視線を反らしてしまう。
「ねぇ。最近、大丈夫?」
予想外のことを聞かれて、俺はミサキの方を見る。ミサキは眉間に皺を寄せて、少し困っているように見える。
「大丈夫って……何が?」
「いや、なんか……君、私と一緒にいたくないの?」
「え……。いや、そんなことは……ないけど……」
むしろ、ミサキの方が俺といたくないのでは……? とは言えなかった。
ミサキは理解できないという感じで俺を見ている。
「とにかく、別に私は面倒だとか思ってないから。今回もいつも通りでいいよね?」
ミサキのその確認方法には、NOと言わせない感じがあった。
俺は……情けないながらも、小さくうなずいてしまった。
「……本当に、大丈夫?」
なんだか、ミサキから哀れみを受けているようで、俺は……ますます自分が惨めに思えてきてしまうのであった。
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