第2話 惨め

「……なぁ」


 放課後。俺は遠慮がちながらも、ミサキに話しかけた。ミサキは放課後も律儀に俺と一緒に帰るのである。


「何?」


「その……朝、起こしに来るの、やめにしないか?」


 俺がそう言うとミサキは立ち止まって、俺のことをジッと見る。


「なんで?」


「え? なんで、って……いや、だって……ミサキだって、面倒だろう? 俺を起こしに来るの?」


「別に。面倒じゃないよ。家近いし」


「いや、でも――」


 俺がそれ以上先を言う前に、ミサキが俺の方に近づいてくる。綺麗な顔がすぐ近くまで寄ってきて、思わず戸惑う。


「何? 私が来るの嫌なわけ?」


「い、嫌ってわけじゃないけど……。俺は、ミサキに悪いと思っているだけで……」


「だから、その私が別に面倒じゃないって言っているわけでしょ? だったら、このままでいいじゃん」


 ミサキは俺のことをジッと見ている。俺は思わず視線を反らしてしまった。


「じゃあ、君はどうしてほしいわけ?」


「え……。俺?」


 俺がそう聞き返すと、ミサキは小さく頷く。


「君がどうしても私が朝起こしに来るのが、嫌で嫌で仕方ないっていうなら、私もやめるよ」


 そう言われてしまうと……嫌だと言えるわけもなかった。自分でもズルいと思ったが、俺としては……ずっとミサキに起こしに来てほしいのだ。


 ただ、ミサキに悪いかなと思っているだけで、本心では起こしに来てほしいのである。


「……いや、俺は……このままでいいよ」


 俺がそう言うとミサキは俺のことをジロジロと見た後で、少しずつ俺から離れていった。俺は一安心してしまった。


「大体さ。君、私が起こしに行かなかったら、起きられないでしょ?」


 そう言われて俺はまたしても何も言えなくなってしまった。


 なんだか、自分が酷く情けない……。だが、実際それが事実なので、否定できないのだ。


「……ごめん」


 俺が思わずそう言うとミサキは小さくため息をつく。


「別に、君に謝って欲しいわけじゃないんだけどな」


 それだけ言うとミサキは歩き出す。酷く惨めな気分を抱えたままで、俺はミサキの少し後を歩いていったのだった。

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