10-4

「な…!?」


 さっきから大合唱のように鳴り響いていた村の皆の歓声は、今もまだ響き渡っている。洗脳が解けている感じも無い。

 ただ、いつの間にか声の大きさや態度や雰囲気を一切変えずに、一部の言葉だけが


「我らが守護たる『白大蛇様』よ。どうか我らをお救い下さい!」

「『白大蛇様』万歳!」

「『白大蛇様』! 我らに祝福を!」

「『白大蛇様』! 偉大なる我らの守護神よ!」


「俺の能力ちからを知っていながら、こうする事を予想していなかったのか? 馬鹿め」

「くっ! こんなもの! 長く維持できるはずがない! すぐに戻って喰ろうてやるわ!」


 まだ戦意を失っていない狐に対し、わざとらしく呆れたように大きなため息をついてからヴィゼルは言った。


「まあ確かに持って三十秒ってとこだがな。ただ、お前さんこそ忘れたのか?」

「な、何?」

「元々此処には蛇神が居たんだぞ? それをお前が横から奪ったんだ。で、だ。今までお前に注がれていた力を俺が今、蛇神に戻した。どうなると思う?」


ガサガサガサガサ!!


「……あ」

「蛇神を食えたわけじゃねぇんだろ? もし既に食ってたら蛇巫女に拘る必要ねぇもんな」


バキバキバキバキ!!


「俺が蛇神の立場なら、近くに潜んでじっと反撃の機会を伺うね。ただ確証が無かったし、効果時間も短いだろうから、出来れば蛇神に直接会って事前に合図とかの打ち合わせをしたかったんだよ」

「あ、あぁ……」


ズザーーーー!!!!


「ま、結果オーライだな。期待通り近くで様子を窺ってたみたいだし」

「あ、ああああああーーーー!!!!」


バクッ! ボギィ!! ゴリッ!! ボリボリ……


「…………しろだいじゃさま。ほんとに、いたんだ…」


 ただただ圧倒されていた。一匹の狐が成す術もなく噛み付かれ、骨という骨を砕かれ、飲み込まれていく様を見つめながら、私はその場にへたり込んで、そんな間の抜けた台詞を言うので精一杯だった。


 さっきまでの巨大な妖狐なんて比較にならない程の大きさ、両腕を伸ばしても直径にもならない太さ、頭だけで私の体全部を丸呑みできそうで、何よりその長さ。尻尾の先が森の向こうに続いていて見えないのだ。こんなのに狙われ追われれば、最早逃げるという考えすら浮かばないだろう。


「ええと、こういう時こっちじゃ何て言うんだ? …ま、地元の言い回しで勘弁してくれ」


 ヴィゼルは左手で空中に十字を切りながら、既に半分白大蛇様に飲み込まれている白狐に言い放った。


「アーメン」


ゴクリ





小公子:信仰を糧とする白妖狐 → 存在完全消滅

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