10-2

 ***



「お母様。蛇神様はどこにいるの?」

「白大蛇様、でしょ。いつも私達のそばに居てくださってるのよ」

「でも花は会ったこと無いもの。見えないものを信じろって言われてもなぁ」

「大丈夫。いつか分かる日が来るわ。白大蛇様はね、いつでも花のそばに居て、花を守ってくれてたんだって」


「それが人に物を頼む態度かってんだ」


「見返りってもんが要るんだ。正当な報酬と言っても良い。お前は頼み事に見合うだけのモノを今、ここで、俺に提示できるのか?」


「現地に行かないと出来ない事もある」


「"関心の向き"を俺に集中させている」


「俺からしたらどっちも信仰を糧に生きる妖怪だがな」


「貴女が呼び掛ければ、蛇神様はきっと応えてくれます」


「これはこれで使い道があるんだよ」


「死ぬ気で呼べ! もうすぐ最後の【盲人の道案内デスディレクション】が発動する!」


「今の蛇神に"信仰を向ける"奴などそこの小娘だけだ」



 ***



……そうか、手がかりは全て在ったんだ


全て教えてもらっていたんだ


『必ず死ぬ』と書いて『必死』


その意味が、ヴィゼルが伝えようとしている覚悟の意味が


今、やっと分かった!


後は私がその答えを出すだけだ!!



 ***



「ヴィゼル、ごめんね!」

「いでっ!」


 ヴィゼルに刺さっていた細く薄い石を右手に持ち、息を吸って、止めて、ためらっちゃだめ! 思いっきり左手首を切りつける!


「何ぃ!?」

「わっ!」


 血の吹き出す向きまで考えてなかった私は、まともに血を顔に浴びてしまう。

 直ぐに左手首から飛び出す鮮血を少しでも高く飛ばす為、立ち上がって左腕を天に掲げ、『必死』に叫んだ。


「白大蛇神様! どうかお越し下さい! 私の命と引き換えでも構いません! ヴィゼルを助けて! ミューリを助けて! 村を救って! お願い!!」

「……ちぃ。無駄な事を…」


 小公子は数秒ためらう様な仕草を見せたものの、直ぐにこっちに歩いてきた。血が勿体ないからさっさと食べてしまおうとでも思ったのか、私の事なんて一口で丸呑みにできそうな位口を大きく開けて、こっちに近づいてきた。


「もう、駄目!!」


 ぎゅっと目をつぶる。その時、今一番聞きたかった、この世の誰よりも頼もしい声が足元から聞こえてきた。


「そうでもねぇさ。ギリギリだが、間に合ったらしい」

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