10-1
これまで幾度となく生命の危機、命を賭ける意味、自分がどれだけ鳥籠の中で安穏と暮らしていけたかを諭されてきた。
だが実際に流された血、それも自分ではなく、自分の為に尽力している者が傷付き、流れている血を見て、恐怖よりも暗い感情が血流の様に全身を巡った。
――絶望。最早何をしても最悪の事態しか起こり得ないという確信。全身から生きる気力を奪う猛毒。
「我らが守護たる『狐姫様』よ。どうか我らをお救い下さい!」
「『狐姫様』万歳!」
「『狐姫様』! 我らに祝福を!」
「『狐姫様』! 偉大なる我らの守護神よ!」
「!? え? 何!?」
気付けば周囲を大きく円陣を組むかのように、村人達が集まって口々に小公子を讃える言葉を叫んでいた。村人に手を汚させ、自分は高みの見物かと一瞬思ったけど、直ぐにそうじゃないと気付いた。
その掛け声に呼応し、小公子が更に大きく力強くなっていく。自身の力を誇示し、更に信仰の力を手に入れようとしているんだ!
「いつでも殺せたが、どうせなら見せしめに使おうと思ってな。この時を待っていた」
「…後悔するぞ」
「ヴィゼル! 喋らないで!」
無駄と知りつつも、足の出血を抑えようと手を押しつける。当然それで血が止まるはずもなく、青い草むらがどんどん赤くなっていく。だけどヴィゼルはそんなのお構いなしに私に訴えかける。
「ハナ、今だ。今しか無い。呼べ!」
「何?」
「でも! いくら呼んでも蛇神様は…」
「死ぬ気で呼べ! もうすぐ最後の【
言い終わるかどうかの内にヴィゼルが再び仰け反って、顔を苦痛に歪め、完全に地面に仰向けに倒れ伏す。小公子が細く薄い石を蹴り飛ばしたのがヴィゼルの脇に刺さったのだ。
「ひっ!」
心配よりも恐怖が勝ってしまい、思わず後ずさる。倒れ伏す二人を見て、次が自分だと嫌でも分からされる。股からはいつの間にか生暖かい感触がしていて、涙でまともに見えない。体はさっきから震えっぱなしだし、足は力が入らず立っているのも辛い。
***
嫌だ!
もう嫌だ!
誰か助けて!
蛇神様!
お母様!!
ヴィゼル、ミューリ、やっぱり私じゃ無理だった、巻き込んでごめんなさい!
***
「蛇神が今更来てどうなる? 姿が見えた瞬間喰ろうてやるわ。もっとも今の蛇神に"信仰を向ける"奴などそこの小娘だけだ。喰っても大した力にならんがな、クックックク」
「……え?」
信仰心を、"向ける"?
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