11
宵闇で視界の先が黒一色に染まっていると、そこにミューリが居るような気がしてくる。そして、いつも傍に居るあの人も。
「お嬢様。御加減は如何ですか?」
「お帰りなさい、白大蛇様…で良いのかな?」
「儀式の最中以外はどうか今まで通りシャロとお呼び下さい。お嬢様」
そう言う本人も、きっと元の関係には戻れない事は分かっているだろう。
「手首の傷は残るかと思われます。元はと言えば私の力不足です。申し訳ございません」
私は手首を撫でた。そこにははっきりと溝の感触がある。
「良いの。きっと、これを見る度今日の事を思い出すだろうから。父様は?」
「お休み中です。村の者も妖狐に使役され、かなり疲弊しています。今しばらくは休養が必要かと」
村の皆んなへの現状説明、今後の指示、やる事は山ほどあった筈だし、これからも多いだろう。
「シャロは疲れてない?」
「大丈夫です。私なら一週間休まずとも平気です」
言われてみればシャロが寝ている姿を見た事が無い。同時に寝起きしてるだけだと思ってた。
今私にできる事は殆ど無いし、実際に疲れていたので、湯浴みと食事と睡眠の後は、こうして離れの窓からこの三日間の出来事を振り返っていた。
「ずっと昔からヤマナシに居たんだね。全然気付かなかった」
「…初代の蛇巫女となった女性と拓いたのがこの地でした。その方との約束です。蛇巫女と共にこの地を守り続ける、と」
「その人の事、好きだった?」
「……はい。お嬢様にとても良く似ています」
そうやって私を見つめる眼は、きっと私を見てはいないのだろう。今までも、そしてこれからも。
「ねぇ、教えて。あなたがここに来てからの事」
「…とても長い話になります」
「大丈夫。知りたい、ううん、知らなくちゃ駄目だと思うの」
「畏まりました。では、私があなたのご先祖様と会った日から……」
***
そうして、東の空が赤くなっていく頃、私は立ち上がって言った。
「シャロ」
「何でしょうか?」
「今までありがとう」
「それは……」
「支度を手伝って。私一人じゃ無理だから」
「……仰せのままに」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます