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 宵闇で視界の先が黒一色に染まっていると、そこにミューリが居るような気がしてくる。そして、いつも傍に居るあの人も。


「お嬢様。御加減は如何ですか?」

「お帰りなさい、白大蛇様…で良いのかな?」

「儀式の最中以外はどうか今まで通りシャロとお呼び下さい。お嬢様」


 そう言う本人も、きっと元の関係には戻れない事は分かっているだろう。


「手首の傷は残るかと思われます。元はと言えば私の力不足です。申し訳ございません」


 私は手首を撫でた。そこにははっきりと溝の感触がある。


「良いの。きっと、これを見る度今日の事を思い出すだろうから。父様は?」

「お休み中です。村の者も妖狐に使役され、かなり疲弊しています。今しばらくは休養が必要かと」


 村の皆んなへの現状説明、今後の指示、やる事は山ほどあった筈だし、これからも多いだろう。


「シャロは疲れてない?」

「大丈夫です。私なら一週間休まずとも平気です」


 言われてみればシャロが寝ている姿を見た事が無い。同時に寝起きしてるだけだと思ってた。

 今私にできる事は殆ど無いし、実際に疲れていたので、湯浴みと食事と睡眠の後は、こうして離れの窓からこの三日間の出来事を振り返っていた。


「ずっと昔からヤマナシに居たんだね。全然気付かなかった」

「…初代の蛇巫女となった女性と拓いたのがこの地でした。その方との約束です。蛇巫女と共にこの地を守り続ける、と」

「その人の事、好きだった?」

「……はい。お嬢様にとても良く似ています」


 そうやって私を見つめる眼は、きっと私を見てはいないのだろう。今までも、そしてこれからも。


「ねぇ、教えて。あなたがここに来てからの事」

「…とても長い話になります」

「大丈夫。知りたい、ううん、知らなくちゃ駄目だと思うの」

「畏まりました。では、私があなたのご先祖様と会った日から……」



***



 そうして、東の空が赤くなっていく頃、私は立ち上がって言った。


「シャロ」

「何でしょうか?」

「今までありがとう」

「それは……」

「支度を手伝って。私一人じゃ無理だから」

「……仰せのままに」

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