8-4

***


「良くやった」


「お前は悪くない」


「貴君は最善を尽くした」


「彼女も覚悟の上だった」


「こうなる事は必然だった」


「皆立派だった」


「……右腕、貰っていくね。これできっと、寂しくないから」


***


「うるせえ!!!!」

「ヴィゼル?」

「……」


 目の前には花とミューリが居た。ここは? ああ、そうだ、崖の手前……か。


「……すまん」


 知らず知らずの内に出てきた言葉がそれだった。

 何に対して? 自分でも分からなかった。

 だが花は、彼女なりにその言葉を受け止め、そして立ち上がり、笑顔で言った。


「二人共ありがとう。楽しかった」


 そうして振り返り、森に入って行く花の背中を、俺は何もせずに……



***



ここまでだ。


第一、会ってから三日も経ってねぇ。生意気で、世間知らずで、我が儘で、世の中の道理ってのをまるで分かってねぇ。貧相な体で全然魅力ねぇし、こいつより不幸な奴なんて腐るほど見てきた。


それがどうした?


勝ち目が無いとか、最初から関わらなきゃ良かったとか、やれるだけやったとか


それが何だ!?


そうじゃねぇだろ!!


彼女が示してくれた道はじゃねえだろ!!!



***



「可能性はある!!」

「……どの位?」


 立ち上がった俺の呼びかけに振り返らず足だけを止めて、花が訊ねる。


「極わずか、だ。丁度お前の胸の膨らみぐらいだな」


 振り返った花は俺に向かって全速で走り出し、勢いを乗せた右拳を俺の脇腹に捻じり込んだ。


「そういう事はとっとと言いなさい! 出し惜しみしてる場合じゃないでしょ!!」

「ゴホッ! わ、わりぃわり……オ、エエエ〜」

「ちょ、きたなっ! こっちにかけないでよ!」

「お゛め゛ぇな゛ぁ〜〜」




 そうだ、だから俺は此処にいる。


 もう二度と、"向かうべき道"を間違えない為に。






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