6-1


 朝起きて目の前に誰かの顔がある。それがこんなにも安心できるのかと、その事実に驚かされた。


 昨晩は、どちらが『ミューリ布団』で寝るかという話題が上がった。

 ヴィゼルは譲ろうとしたが、ここまで世話になっていて、この先も大変だろうと私は拒否し続けた。


「二人包むくらいなら問題ありませんが?」


 ミューリが(余計な)一言を言ったせいで、くっついて寝る羽目になってしまったのだ。


「変なとこ触んないでよ!」

「報酬は私とか言ってた気がするんだが…」

「まだ何にもしてないでしょ! 報酬っていうのは仕事を終わらせた人に払うものよ!」

「俺の仕事はもう終わったよ。後は協力者を探すだけだ」

「え、そうなの? それって誰?」

「……」

「マスターは寝付きが良いのです」


 布団、もといミューリが教えてくれた。


「……ミューリは何か聞いてる?」

「いえ、ですが今話さないという事は、今話すべきではないという事でしょう」

「…信頼してるんだね。ヴィゼルの事」


 私にもそういう人が居た。あれから無事に逃げられたんだろうか……?


「どの道、私はマスターの一部ですから、マスターが死ねば私も永遠に機能を失います」

「そうなんだ。まるで死が二人を別つまでって感じだね。でも、その割には態度が冷たいと思うんだけど…」

「私は只の道具です。道具と結婚する人は居ないでしょう?」

「……」


 まあ、が納得してるなら良いけど。

 口出しできる立場でもないし、自分の事で精一杯、というか私の問題に二人が解決の為に尽力してくれているんだ。無報酬で。

 なのに私は枝を投げつけたり、張り手で叩いたり……何をやってるんだろ。


「それにしても……こんなにいきいきしているマスターを見るのは初めてです。とても楽しそうです」


 誰かが耳元で何かを囁いてきたような気がしたけれど、その時には私は既に眠りに落ちていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る