5-2

「?…何? いきなり」

「お前は今三日何も食べていない。もう数時間で餓死する状況で、ふらふらと歩いていたら、兎が寝ていた。どうする?」

「……」

「出す結論は同じだ。そこに罪悪感があるかどうかの違いはあるがな」

「だからって諦めて食べられろって言うの?」

「そうじゃない。今この場で善悪の議論は無意味って言ってるんだ。奴は生きる為にそうした。良いも悪いも無い。だったらこっちとしても生きる為に……?」

「奴を、殺して良い。いや……殺さなきゃ殺される。そういう事ね」


 そこでようやくヴィゼルの表情が柔らかくなる。出来の悪い弟子がやっと一人で問題を解けた時、きっと彼はこういう顔をするんだろう。


「逃げたくないなら、腹を括れ。狩るか、狩られるか。"向かうべき道"は今二つしか無い。そして、一方の道の先にあるのは……『崖』だ」

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