5-1
「何か分かった?」
二人は一度村を離れ、再び野営していた場所に戻って来ていた。
途中で捕まえた兎数匹と、村で分けてもらった余り物をミューリが包丁になって切り分け、火を起こし、手早く食事を済ませる頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
「ありゃ妖狐だな」
「ようこ?」
「信仰心を糧に生きる狐の妖怪だ。俺の持ってる知識と見聞きした情報を加味した憶測が前提だがな。人に化けたり、洗脳したり、憑依したりできる。そいつが地元を追い出されてヤマナシに迷い込んだ。助けてくれたお前の母親を食べて力を取り戻し、父親を
「そんな化け物が蛇神様の地を侵略するなんて…!」
花は持っていた枝木を折り、地面に叩きつける。ヴィゼルは〔こういう感情を直ぐ表面に出す所がガキなんだよなぁ〕、と思いながら
「俺から見ればどっちも信仰心を糧に生きる妖怪だがな……で? お前は具体的にどうして欲しいんだ?」
花はヴィゼルの問いにしばし逡巡した後、
「私の願いは…村が元に戻って欲しい」
「そりゃ無理だ」
花自身無理な事は分かりきっている筈だ。死人は戻らないし、小公子を殺した所でまた白大蛇信仰に戻る保障は無い。
感情だけが先んじていて、現実的な落とし所すら見えていないのが今の段階である。だがそれは無理もない。たった一日余りで、殺されかけて、逃げて、未知の能力者に出会って、想像すらした事の無い経験の連続だったろう。だから、まずはヴィゼルから提案した。
「逃げた方が良いんじゃないか? この先どう転んでもまた村で暮らせるとも思えんが」
パァン!
言葉より先に体が動いていた。小気味良い音を立てて、花の右手はヴィゼルの頬を叩く。一瞬「またやってしまった」という自責と焦りが顔に浮かぶが、怒りでそれを誤魔化して叫ぶ。
「これまでずっと蛇巫女になる為に生きてきたのに、それを受け入れようとしてきたのに、いきなり狐の生け贄になれだなんて、納得出来るわけない!」
「…俺からしたらどっちも変わらんように見えるがね。自分の"向かうべき"道を自分で決めてないって意味で。生きてきた? 違うね、お前は生かされてきただけだ」
花はヴィゼルの言葉に重い鎖が付いているかのような錯覚を覚える。
「……歩いてきた道に落とした物があるの。それを拾わなきゃ、私は先に進めない」
「その間に道が塞がれても?」
「繋いできた糸が切れたままじゃ歩く意味自体が無いわ。ヴィゼルは、そういうの無いの?」
「無いな。そんなものは全部右腕と一緒に
その重い口調と眼差しが、彼の強さだと気づく。
生きてきた時間が違う。見てきた物が違う。最初から覚悟の度合いが違う。そもそも花がヴィゼル達と会わなければ、何も出来ないまま全てが奪われていた。
その事がはっきりと実感出来た今、花には最早投げる言葉が見当たらなかった。
座り込む花。暫しの沈黙。先に口火を切ったのはヴィゼルだった。
「仮の例え話をしよう」
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