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 部屋に案内された所で村人に呼ばれた赤弥は、軽く挨拶をして足早に出て行った。この警戒心の無さは今のヴィゼルにはありがたい。


「服を取って来い。なるべく動き易くて丈夫なやつ」


 ヴィゼルに言われ、花は自分の服が入っている衣装棚を開け、何着か取り出す。どれも丈夫ではあるが、着脱に手間が掛かる物ばかりだ。


「それと着るのに時間が掛からないやつ」

「こういうのしか無いのよ、この屋敷風通しが良くて、いつ村人に見られるか分からないから。後は寝室着くらいしか……」

「…ミューリ」

「はい」

「わわっ! えー!」


 花から離れたミューリは、花が慌てて体を隠している間に、服の無駄な部分を切り裂いていく。


「一丁羅だったのに……」

「言っとくが命だって一つしかねぇんだぞ。これから先ミューリが自由に動けないのは死活問題だ。良いからとっととそれ着ろ!」


 ミューリはヴィゼルの右腕に戻り、まだ不服そうな花を連れて裏口から出て行く事にした。


「我らが守護たる。『仙狐様』よ。どうか我らをお救い下さい!」

「お救い下さい!」

「お救い下さい!」


 離れた場所から村人達の声が聞こえてきた。二人がそっと覗いてみると、狐姫が村に入ってくる所だった。恐らく赤弥も彼女を迎えに行ったのだろう。大した優遇っぷりだ。

 どれどんな顔を、と思ってヴィゼルが目を凝らして見れば、そこには白い狐の面を被り、これから婚礼でもあるのかと思わんばかりの白無垢に身を包んだ人物が歩いていて、その脇を村人達が跪きながら手を合わせていた。


「狐の嫁入りってか……」

「私も素顔を見た事が無いの」

「マジかよ。よく一緒に暮らせるな」

「暮らしてない。あいつが来てから私は離れから殆ど出して貰えなかったし……」


 一体何があったのか、心情的にも物理的にも孤独に追いやられた事だけは想像に難くないが、今は時間が無い。


「よし、行くぞ」

「あいつを追い出してくれるの!?」

「馬鹿言え。作戦会議だよ」


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