4-3

「異国の客人とは珍しい。歓迎しますよ。宮司の深雪 赤弥せきやです」

「ナイストゥーミート! ヴィゼルでーす」


 村人に片っ端から挨拶の握手をして、最後に向かったのが高台の深雪神社である。そこには狐姫はおらず、花の父親が出迎えてくれた。


「と言っても儀式はほぼ現妻の役目でしてな、私は事務仕事ばかりです」

「ソーナンデスネー。ミナサントテモ褒めてマシタ。狐姫様のオカゲで村アンタイだと。バット、ワタシ蛇神拝みに来たアルヨ。蛇神どこですかー?」


 屋敷を歩きながら、ヴィゼルと赤弥は村や神社について熱心に話し合っていた。当然赤弥は目の前に逃げ出した娘が居る事に気づいていない。


「確かに、此処は代々白大蛇様を崇めてきました。白大蛇様と蛇巫女の娘が事で娘が産まれ、その子は次の蛇巫女となります。そうして深雪家は代々白大蛇神と村人の仲介人として続いてきました」


 そう言って境内を見る。その視線の先には、古い歴史を刻んできた神社には余りにも不釣り合いな、急ごしらえの狐像が幾つも置かれていた。中には、元々蛇の像だったであろう残骸がそのまま放置されていた。


「ですが、白大蛇様はその力が強すぎるのです。雨を望めば村全体が一度水没する程に。反面白狐様は加減が分かってらっしゃる」

「白大蛇様が山からもたらす肥沃な土が支えだって言ってたのは何処のどいつよ!」


 花を手で制し、ヴィゼルは続ける。そこに先程までの軽い感じは既に無かった。


「だから、昔からこの村を支えてきた白大蛇を切り捨てた、と?」

「私は元々外部の人間です。村にとってより良い選択をするだけです」

「娘さんを生け贄にしてでもですか?」

「……子供はまた作れます」


「父様! 父様は騙されてるの! あの女狐に!」


 赤弥の主張に、花がヴィゼルの背後から悪態をつく。


「喋るな。お前の存在がバレる」


 ヴィゼルが慌てて顔を前に向けたまま呟いた。


「でも……」

「恐らく洗脳か暗示か、操られてるんだ。狐姫にな。今説得は無理だ。それより……この地方の服とてもスバラシイ! ゼヒ着てミタイ! 一着モラエマセンカ?」


 ころころと態度が変わるヴィゼルを不審がるわけでもなく、赤弥は応える。恐らくこれも能力だろう。


「服ですか、古着で良ければどうぞ。衣装棚は向こうの部屋です」

「センキューサー!」

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