4-2


「よし、じゃあ村に直接行って実際に話を聞いてみるか」


 立ち上がり、ヤマナシへ向かおうとするヴィゼルを花が慌てて引き止める。


「ちょ、ちょっと、私が嘘を言ってると思ってるの!?」

「そこは疑ってねぇよ。お前の覚悟(と裸)はちゃんと見させてもらった。ただ、俺が直接見て聞く事で新たに何か分かったり、作戦を詰める事が出来るだろ」

「……それなら、まあ」

「それに、現地に行かないと出来ない事もある」

「どんな?」

「まだ秘密だ。実際どうなるかまだ分からないしな。ほれ、行くぞ」

「私も行くの? 見つかったら捕まって今度こそ殺されるわ! ヴィゼル一人で行ってよ」

「道案内がどうしたって必要になる。それに一人で残るのも危険だろ。後、俺とミューリはお互い離れると一時的に能力が使えなくなるぞ」

「え? 何で?」

「そういうもんなんだよ。特にミューリはその場でバラバラになって崩れる。道のど真ん中でまた全裸になりたくなきゃ俺から離れるなよ」

「またって言うな!」


 ***


 こうして、二人と一体はヤマナシに足を踏み入れた。ヴィゼルはそのまま袖無しの麻着だが、花はカトリックのシスターの様な格好になっていて、顔を伏せて見られないように歩いていた。

 すぐに農作業中の老夫婦がこちらに気付き、怪訝な目を向ける。その二人が何か言う前にヴィゼルの方から


「コニチハー! ワタシ海外ノ信仰トテモ興味アリマース!」

「!?」


 思わず出しそうになる声に慌てて口を塞ぐ花に構う事無く、ヴィゼルは老夫婦に近づいて手を握り出す。


「ココワベリーベリー良い雰囲気ね。ジョウチ溢れてマース」

「はあ……どうも」

「サゾカシ、強イ神様に守ラレテマスネー、是非オ祈リシタイデス。神社ハドコアルカ?」


 ヴィゼルが両手を合わせてお辞儀をするような仕草をすると(左手しか無いけど)、老夫婦は意図を理解したらしく、


「ああ、それなら」


 手が空いている妻が東の高台を指差す。


「神社はあの向こうさね。ちょっと前は白大蛇を祀っとったがね。あれはいしけーよ(良くない)」

「んだなぁ。御狐様の方がいまっと(もっと)ええ。おおがんまわし(洪水)ものうなって(無くなって)こでらんねぇ(こんな良い事はない)」

「オーマイゴッド! ノー! オーユアゴッド!」

 ※( )内は後から花に聞いた。


 大仰な身振り手振りで感謝を述べ、二人に握手をしてからその場を後にした。


「……初めて行く場所には、いつもそんな感じなの?」

「交渉や情報収集の為に必要な社交術だよ。何もしなくても周りから崇められて生きていける人間には必要無いだろうがな」


 花は何か言いたげな顔をしたが、結局反論はせずに別の疑問をぶつけた。


「それにしても小林さん、私に声も掛けなかった。まさか私が花だって気付いているんじゃ…」

「それは無い」

「どうして言い切れるの?」


 ヴィゼルは、左の親指を立てて自身の顔に向けて、少しだけ花の方を振り向きながら答えた。


「――【盲人の道案内デスディレクション】。今、村人の"関心の向き"を俺に集中させている。後でお前の事を聞いた所で『そんな奴居たっけ?』となるだけだ」

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