2-2

 あっと思った時にはもう遅い。自分の短気さを呪った所で既に飛んでいった枝をどうする事も出来ず、ただ見ているしかなかった。そしてそのまま男にぶつかろうという瞬間、枝は不自然に軌道を変え、暗い森の奥に消えていった。


「……え? 何今の? 枝が、弾かれた?」

「…んで、これが俺の方の特殊能力。【盲人の道案内デスディレクション】だ。ほんのちょっとだけ"向き"を変える事が出来る。正確に表現すると弾いたんじゃない。枝に込められた"推進力の向きベクトル"を時計回りに三十度程回したんだよ」


 男は指の形で『少し』を表現して見せてくる。


「……え、何それ……大した事無さそう」

「おい! 大した事無いとか言うなよ! 現に今怪我せずに済んだだろ!?」

「それは、まあ、そうだけど……」


 この化け物の動きを見てからだと、鳥の糞が頭に落ちてこないようになるくらいにしか役に立たなそうと思ってしまう。


「それにだな、これにはもっと凄い使い道があってだな」

「マスター、それ以上は……」


 続けて何かを言おうとしていた男を、黒猫ミューリが目で制してくる。多少不満そうに顔をしかめながらも、それ以上語ろうとはせず、


「たらふく食って眠くなったから寝るわ。おやすみ」


 そのまま横になって、すぐ寝息を立て始めた。

 最後のも含め予想外の光景の連続に呆然と立ちすくむ私を、ただじっと見つめてくるミューリ。私は取り敢えずその場にへたり込むしかなかった。


「……」


 ――一体どうしてこうなったのか? 何がいけなかったのか? 聞いた所できっとこの場の誰も答えてはくれないだろう。今分かっているのは、私が死ぬのは今日じゃなかった、それだけだ。

 だったら、次に考えるべきは『明日も生きる為にどうすれば良いのか』という事だ。

 決して現在の境遇を嘆き、啜り泣く事じゃない。それは分かっている。分かっているのと出来るかどうかは別だという事を初めて知った。

 そんな私の元にミューリがとことこと歩いてくる。これが本物の猫ならきっと朝まで抱きしめていただろうに……。

 そうなった様を想像していると、突然猫の形が歪みだし、何本もの触手のようにこちらに伸びてきた。


「きゃあぁっ!?」


 その内の一本が私の口を塞ぎ、もう声が出せない。他は私の全身に纏わりついてくる。ものの数秒で私の全身は黒い何かに覆われ、身動きが取れなくなった!

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