第3話 輪廻転生

 宗教的な考え方として、人に限らず、

「命のある生物は、死んだとしても、人間を含めた生類に生まれ変わるという思想である。その発想が、「前世」という発想に繋がっていて、今の世界で生きている自分が、不幸であるとすれば、

「前世の因果が、今の世界に報いている」

 と言われることがある。

 虫が苦手だという人がいて、占いなどをしてもらうと、占い師から、

「前世で、あなたは虫であり、人間によって潰された記憶が残っているから、そのトラウマから、虫を見ると、まるで自分のことのように感じてしまうのではないか?」

 と言われたりした。

「じゃあ、その自分を握りつぶした人間に、自分が生まれ変わったということのなるんですか?」

 と聞くと、

「ええ、そうです。生類が生まれ変わる時、人間が絡んでくると、必ずそこでは、因果が巡っていることが分かるんです。なぜなら、人間だけは、意識が持てるではないですか? つまり、今の世で人間であるか、前世で人間であるかという因果は、必ず意識きるんです。なぜなら、動物にはそういう意識や記憶という概念がないではないですか。人間だけが感じることができる。そして、それは人間が感じるものなのだから、当たり前といえば当たり前のことなんです。輪廻転生という考え方は、意識がなければ成り立たないものではないかと思うんですよ」

 と占い師は言った。

「えっ? 輪廻転生というのは、生類であれば、何にでもありえることではないんですか?」

 と、隼人が聞くと、

「ええ、基本的にはそうなんですが、理屈を説明するのに、意識がないと成立しないでしょう? 意識することができるのは、人間でしかない。つまり人間があくまでも中心なんですよ」

 と占い師はいう。

「輪廻転生というのは、僕の中では当たり前のことだと思っていて、子供の頃から何の疑いもなく信じてきたものなんですよ。ただ一つ気になっているのは、輪廻転生の中で、どのタイミングを現在と捉えていいのかということなんですよ」

 と隼人がいうと、

「なるほど、その発想は分かる気がします。現在があって、過去があり、未来がある。しかし、その現在というのは、未来に向かって進んでいくものですよね? でも、発想というのは少しおかしな気がしませんか? 未来に向かって進んでいると何の意識もなく言っていますが、それは本当なんでしょうか? だって、未来に向かって現在が進んでいくとすれば、今でいう現在というのは、どんどん過去と入れ替わっていって。その時に見えた現在というのは、過去によって塗りつぶされていき、積み重なっていく過去にどんどん重なっていくのではないかと思えるんだ」

 と、占い師は言った。

「難しいですよね?」

「その発想はね、鏡に映った左右対称という意識に似ていると思うんですよ。それはね。自分の見ている位置は同じでも、そこに鏡を介するとすれば、自分の見えている姿と、正対している人とでは、左右対称なのは当たり前。またもう一つ感覚的な意識として、エレベーターの中に乗っている感覚に似ているんだ。例えば、下から上の階に進む時、エレベータが発射する時は、足に重力を感じ、止まる時は、まるで宙に浮いているような感覚に陥るでしょう? それはエレベーターから表が見えないからで。自分の中で感じている感覚がかなり大きな錯覚を描いているということを感じさせられるのであろう。

 上下の感覚というのは、機械がもたらす感覚は。もしも見えていたとしても、実はかわりのないものではないだろうか。

 それがエスカレーターであっても同じで、

「エスカレータの電源が入っておらず、歩いていかなければいけなくなると、乗る時は、身体が後ろに反り返るようになり、降りる時は、前につんのめるようになるという錯覚が生まれるのも、同じことではないだろうか?」

 と考えられる。

「時間というものは、普通に流れているんですよね。きっと、誰にでも平等のスピードで流れていると思うんですが、人はそれぞれ、自分が置かれたその世界での時間を、自分が迎えたその立場で考えようとすると、まったく違った感覚になるのではないかと思うんですよ」

 と隼人が言うと、

「なるほど、そうだね」

 と占い師は、珍しく話をスルーした。

 この占い師は、占いを受けている人がうんちくなどを語り始めると、意地でも主導権を相手に与えないようにしようと、話を必死に引き受けようとして、下手をすると、露骨に話の腰を折ろうとするところがあるという話を他の人から聞いたことがあったので、そのあたりは覚悟の上でやってきたつもりだった。

 しかし、その時の占い師は、話の腰を折るどころか、隼人が話しやすいようにしているという配慮すら感じられるくらいだった。

「俺の話を真面目に聞こうとしてくれているのか、それとも、言いたいことを最後に回そうとでも企んでいるのか」

 と考えていた。

 そう思いながら、隼人は続けた。

「問題は、時間をその時々に区切って考えるか、それとも、流れの中の一点として考えるところではないかと思うんだ。その時々で区切ってしまうと、例えば自分と今目の前にいるあなたとが、共有の時間を持っているのだとすれば、二人は、きっと共通に流れていく時間を過ごしているのではないかということなんです。つまり時間の共通した流れの最小単位というのは、誰が見ても共通している世界を作っている当氏者間ではないかとですね。だから、そのうちには自分だけがその対象範囲だということを感じることも少なくはないと思うんです。孤立した時間ですね。だから、そういう人がその場に多ければ多いほど、時間というものは、共通性を感じさせないものだと言えるのではないかと思うんです。つまりは、すべての人にそれぞれ存在しているものだという勘違いですね」

 と、そこまで聞いていた占い師が、急に頭を傾げて、訝しい表情をした。

 これも、他の人から聞いていた話を総合的に考えれば、

「話の腰を折ろうとしているのではないか?」

 とも考えられた。

「うんうん、君の考えはよく分かった気がする。ただ、私が一瞬考えたことなのだが、今君が言った、勘違いという言葉だけどね。正直、まだ勘違いかどうか分かるはずはないと思うんだよ。このあたりの話はあくまでも創造の世界であって、頭の中で想像したことを、実際に理屈という解釈で形作ることで、創造していくのではないかと思うんだ。だから、君がね、勘違いだと思うのはサラサラお門違いであり、下手をすると、勘違いだと思うのは、おこがましいことではないかと考えられるんだ」

 ということであった。

 さすがに、

「おこがましい」

 という言葉を言われ、一瞬ムカッときたのも無理もないことなのかも知れない。

 ただ、自分が、勘違いという言葉を何かの言い訳として使ったのだとすれば、占い師の言っている、

「おこがましい」

 という言葉も分からなくもないだろう。

 だが、ここでそのことを話題に出してしまうと、占い師の術中にはまってしまうのではないかと思ったことと、ここで話の腰を折ってしまうと、話が難しいだけに、話をしている自分がついていけなくなるのではないかと思い、一刻も早く話を戻そうと思ったのだ。

 実際にすでに脱線して、頭がそっちに向いてしまったことで、自分の中で収拾がつかなくなってしまっていることに気づいていた。

 隼人は続けた。

「今は、個人にそれぞれの時間が存在すると考えた時の例を幅を持たせて話してみたんですが、逆に時間が万人に共通だという発想から考えるとどうなるんだろうかって思うんです。自分と関わっている人間同士、同じ時間の中に存在しているとどうしても思えないんです。そこで考えたのが、ちょっと強引すぎる話になってしまいますが、その時関わっている同士、それぞれの大きなシャボン玉のような空間の中に入れられたとして、その中では段毒で時間が経過しているのではないかという発想ですね。まわりから見て同じに見えるのは、慣性の法則中にある。電車の中に乗っている人がジャンプをした時に、どこに着地するかという発想に近いものではないかと思うんです」

 とそこまでいうと、隼人は話を一旦区切った。

 思わず、占い師の顔を覗き込んだが、一瞬黙り込んで、考え込んでいるようだった。

「時間の流れというのは、すべてに理屈が存在しているものであって、単独だとは思えないんですが、どうなんでしょう? 例えば、歴史などを勉強していても、一つ一つの事件が単独で起こっているわけではなく、事件というのは、そのほとんどに何らかのかかわりがあるものだと思えるんです。そういう意味で、どこまで時間の経過が人間の営みに対して影響があるのかを考えると、すべての人間に同じ速度で流れているから、歴史が成り立っていると考えられるような気もするんですよ」

 と、隼人は思っているようだった。

「でもね。それは全体的に見て、辻褄が合っていると思うから、すべての人に共通に時間が流れていると考えるわけでしょう? 辻褄が合っているから、辻褄が合うように時間が流れているのだと考えると、人それぞれ立場は性格。その時の状況が違っているのだとすれば、辻褄を合わせるための時間経過というのは、必ずしも皆同じだと言えないのではないかな?」

 と、占い師は言った。

「確かにそうかも知れませんね。どうしても、時間の流れというのが、皆平等にと考えているからで、ここでいう平等というのが、皆同じだと考えることが辻褄を合わせるという意味で矛盾しているように思えるのは、きっとあなたとお話をしているからなのかも知れませんね」

 と隼人はいうのだった。

 そして、一瞬考え込んだが、隼人は続けた。

「僕は一人の女性と付き合っているんですが、ある日のこと、急にその女性が別人になってしまったのではないかと思う瞬間があったんです。その日はその後一時間くらい一緒にいて、いろいろ話をしたんですが、その話の内容が、急にそれまでとは違っているような感じなんです。ずっと一緒にいれば分かるようなことでも、数時間前のことを忘れてしまっているようなんです。キョトンとしていて、まるでキツネにつままれたかのような感じにですね」

 という隼人に、

「それであなたは、時間の経過のようなものが、人によって違っているのではないかと感じたということなのでしょうか?」

「ええ、占い師さんであれば、何か分かるのではないかと思ってですね」

 と言われた占い師は、

「その場にいたわけではないので、何とも言えないですけど、今のお話を聞いた限りでは、時間の経過とはあまり関係がないような気がしますね。どちらかというと、一瞬だけ、違う世界に行っていたように見えるような感じなんですよね?」

 と占い師がいうと、

「ええ、そうなんです」

「あなたは、それを何となく自分の理屈に当て嵌めたくなっているということなんでしょうか? 私には、あなたが自分なりに考え方と持っていて、だけど、それがあまりにも突飛なことなので、自分で認めたくはない。だけど、それを自分の気心が知れた人に相談すれば、自分に都合のいい解釈をしかねかねない。したがって、自分にとっての利害関係のない、そして、こういう話に詳しいと思った人で、すぐに面会が適う相手として思いついたのが、占い師である私だったというわけですね?」

「ええ、そういうことなんです。話としては突飛なことを言っているということは分かっていますし、いきなりこの話から入ると、私の性格を知っているわけではない相手からすれば、頭が混乱すると思ったので、どうしても、関連した理屈から入るという、予備工作が必要だったんです。そういう意味では、申し訳ないことをしたと思っていますが、決してあなたにも、このお話は、興味がないものだとは思えませんでしたので、、このような形を取らさせていただいたんです」

 と、隼人は言った。

「他に何か気になることがありませんか?」

 と占い師に言われて、

「えっ」

「いえね、こういうお話をしていますとね。あなたは、他にも別に何か気になることを抱えているのではないかと思えたんです。実は、こういう質問があって、私のところに訪ねてくる人はあなただけではなかったんですよ。そういう場合にはたいてい、他にもきになることがあると言っていたんです。むしろ、その気になることと、本当に今気になっていることとの相関関係の方が、その人にとっては、大きな意味を持つ場合があったりもしたんですよ」

 と、占い師は言った。

「なるほど、確かに言われる通りです。ちなみに、そういう話を持ってくる人って、僕のように若い人もいたんですか?」

 と訊ねると、

「ええ、逆に若い人の方が多いんです。社会人になっていたりすると、こういうことを誰かの相談することを戸惑ってしまう場合が多く、思っていたとしても、私のところに来るようなことはないと思っています。そういう意味で、あなたのような若い人が来た時には、その人が相談ごとを持ってきたのではないか? と思うようになったくらいなんですよ」

 と占い師がいうので、

「じゃあ、僕が最初に来た時、最初から相談だと感じていたということですか?」

「ええ、そうです。そうでもなければ、もっと訝しく感じるはずでしょう? だってここは占いを見るところで、相談窓口でもなんでもないわけですからね」

 と、言って、占い師は笑った。

 その顔が真剣な笑いだったのかどうか分からないほど、表情に暗さが感じられたのだった。

「だとすれば、私の方も話しやすいというものですね。確かにあなたの言う通り、私は先ほどのおかしなこととは別に、もう一つ気になることがあるんです。こっちは、おかしなこととまではいえないかも知れませんが、どちらかというと、違和感を感じているという感覚でしょうかね?」

 と隼人は言った。

「どういう違和感なんでしょうか?」

 と占い師が聞くので、

「私が付き合っている彼女から聞いた話なんですけど、ある時、急に輪廻転生という話を始めたんです」

 という隼人に、

「輪廻転生というと、生類は、必ず来来世を持っていて、必ず生まれ変わるという発想ですよね?」

 と占い師がいうので、

「ええ、そうなんですよ。いきなりそんな話をし始めたのもビックリしたんですが、普通なら、前世の記憶の話をするのであれば、そういう特殊能力を持っている人がいてもいいように思えたんですが、あの時に彼女が話をしていたのは、来世の話だったんです。まるで見てきたような言い方でですね。前世であれば、遺伝子か何かに、過去の意識が残っていて、その記憶を引きだしたと思えるでしょうが、来世の話をまるで見てきたかのように話すというのが、何ともおかしな気がしてですね」

 と隼人がいうと、

「あまりにも突飛すぎて、口から出まかせのようなことを言っているのではないかとは思わなかったんですか?」

 と占い師がいうと、

「そこまではなかったですね。どちらかというと、僕の方が彼女の話に引き込まれる気がしたんです。前世の話であっても、突飛であることには変わりはないわけではないですか? 人が記憶に収める時というのは、まずその瞬間に意識をして、その意識を記憶として、頭の中に格納し、ある一定の時間がくれば、今度は記憶の奥に封印する場所があって、そこに封印されると思うんですよ。それが見ていたはずだと思うことで、忘れてしまっていることである夢であったり、前世の記憶であったりするのではないかと思うんです。そのどちらも思い出すには何かのきっかけがいるものであり、逆に思い出すためには、何か思い出すだけの意味が存在しているはずだと思うんですよ。そしてもう一つ気になっているのが、その記憶を封印する場所ですが、夢の場合と、前世の場合とで同じ場所なのかなとも思うんです。もし同じ場所だったとすれば、そのために、夢か前世のことなのかということが頭の中で混乱してしまいそうに思うんです。もっとも、前世のことを、すべて夢だと考えればそれまでなんでしょうけど、そう思うと、前世の記憶を、夢として一つで片づける方が、人間というものを作った神がいるとすれば都合がいいように思うんです」

 と、隼人は言った。

 話し始めは、思い出しながらゆっくりとした口調で、自分の考えを確認しているようだったが、途中からはまくし立てるような言い方になった。

 きっと、話の途中までは自分の考えがまとまっていない間に話を始めたという意識と、途中からはある程度まで話がまとまったということの意識があったのではないだろうか。

 そもそも、このような話をし始める時、最初から話がまとまってから話すことはない。まとまるのは、話をし始めてからだということが分かっているからで、まとまった瞬間には、今度は、

「忘れてはいけない」

 という思いから、早口でまくし立てるように話をしているのだろうと自分でも思っている。

 隼人がそういう性格であるということは、占い師にも分かっていたのかも知れない。だからこそ、彼に違和感が残っていることを看破したのではないかと感じたのだ。

「彼女が急に、ある瞬間から、何かを飛び越えたかのように変わってしまった瞬間があるというお話でしたが、彼女はどこか、意識が別の世界に飛んでいたというような雰囲気だったんですか?」

 と、占い師に言われた。

「そうですね。どこかの世界に行っていたという意識はありました。ただ、同じ人間でありながらまったく違った雰囲気になった瞬間を思うと、まるで輪廻転生でもしたのではないかという感覚もほんの少しですがありました。でも、それ以上に可能性としては、別の時間に飛んでいて、そこから戻ってきたのではないかと感じた時、それを夢の世界ではないかと感じたんですね。で、その時に、さっきの話のように、夢の世界と時間の経過が違う時間という考え方が頭をよぎったんです。さすがにその時は、今ほど話が具体的ではなかったんですけど、それは同じような発想ができる人で、考え方の内容に、適度な距離のある人との話では、結構、詳細な話が頭に浮かんでくると思えたんでしょうね。今感じていることを、あの時にも同じように感じていたのではないかと思ったんです」

 と隼人が言った。

「それは、デジャブのような意識ですか?」

 と占い師から言われて、

「ええ、そんな感じだと言ってもいいでしょうね」

 と隼人がいうと、

「なるほど、実は私も似たようなところがあるんですよ。というか、私が占い師を始めたのも、ある時、自分で予感めいたものがあり、それが本当に実現するようなことが何度かあったんです。自分でも、そんなバカなと思ったりもしたんですが、その時に、バカなことだとして済ませていれば、それ以降、何もないまま、生活を変えることもなかったでしょう。でも、自分の能力を知りたくなったんです。それで、いろいろな事例を調べているうちに、この感覚が占いに似ていると思ったことで、実際に占いの先生に弟子入りしたんです。でも、占いというのは、占い師独自の能力であるので、人に教えてもらうようなものではないんですよ。教えてもらえるとすれば。商売にした時、致命的な外し方をしないようにするにはどうすればいいかということになるんでしょうね。だから、誰にでも当てはまるようなことを無難に答えられるという訓練をするんですよ。これがバーナム効果と呼ばれるもので、一種のマインドコントロールのようなものなんですよ」

 と言っていた。

「そういえば、バーナム効果という言葉、訊いたことがありましたね。誰にでも当てはまるようなことを言って、いかにも、その人が、自分にだけ当て嵌まることだと思わせるかということが大事で、そうやって、相手を自分の術中にはめ込んでおいて、それからの占いや予言を信じ込みやすくするというものですよね? 私はそのことを知っていたので、今まで占い師というものを信じられなかったんですが。彼女を見ていると、占い師の本質を知らないというのは、危険な感じがしたんですよ。占い師と彼女とがどういう結び付き方をするのかと聞かれると答えられないけど、自分としては占い師を他人事だと思ってはいけない気がしたんです」

 と隼人がいうと、

「彼女はバーナム効果を無意識に使える人なのかも知れないですね。バーナム効果というものを知らずに、無意識でも使える人は結構いるものなのですよ。実は私も最初はそうだったんです。別に誰かに助言をしたりしたわけではないんですが、私を見ていて、他の占い師が急に。私が占い師に向いているというようなことを言い出したんです。最初は、何を言っているのか分からなかったんですが、占い師の人が私にいろいろ予言をしてくれるのが、ことごとく当たっているではないですか。それで話を聞いてみると、ちょっとだけ話をしただけで、その人の本質のようなものが垣間見えると、その人の過去が分かるというものなんです。決して未来が分かっているわけではないので、それほど不思議ではない。だけど、素人には恐ろしい能力に見えた。そもそも恐ろしい能力に見えたところが、バーナム効果なんでしょうけどね。完全に、私はその時、その占い師の言葉を、予言のようなものを同じ感覚になっていたんですよ。だって、過去のことばかりを指摘していると思っていなかったということは、彼がいっている言葉が無意識に頭に入ってきただけで、頭が働いたわけではない。そういう意味では一種の洗脳であることに間違いはないと言えるんでしょうね」

 と、占い師は言った。

「輪廻転生だって、過去のことばかりを当たり前のことのように無意識に感じることで、人間だけがその理屈を理解できるという感覚になるのであって、これも当たり前のことを言っているだけだというか、、途中で様子が変わった彼女のように、その間にどれほどの、自分たちに見えていない広い世界が広がっていたのかということを、無意識に感じることができるだろうかを考えさせられたんだよな」

 と、隼人は言った。

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