第93話 水着
「おおーやはり人がたくさんいると楽しい気分になるな」
「ふふ、そうですね。これでよしっと」
王族の別荘ではなく海岸から近い高級宿を借りたアーサー一行はさっそく海岸へと足をはこんでいた。
さっさとパラソルを準備する水着姿のトリスタンは男からみてもすらりとしておりなおかつ筋肉が無駄なくついているかっこいい体つきだった。
俺ももうちょっと運動とかするかなぁ……
アーサーがそんなことをおもっているとざわざわという人々の声が聞こえてくる。気になって振り向くと、ケイが笑顔で手を振りながらこちらにやってくる。
「でっか!! さすがは皇子の専属メイドですね……あんな凶器を隠し持っていたとは……」
「ああ、やばいな……」
ビキニというまるで下着のような水着からあふれる豊かな胸元に一瞬目をおくりそうになるもアーサーは必死に耐える。
そう、思春期真っ只中である彼は直視するのは情けないというプライドがあるのだ。
なのに……
「えへへ、宿にあった水着で一番似合うっていうのを着てきたんです。どうでしょうか?」
アーサーの前にやってきたケイが満面の笑みでポーズをってくるものだから強制的にみせられることになってしまう。
「ああ、その……すごい似合っているよ」
アーサーが顔を真っ赤にしながらほめるとケイは嬉しそうにぱぁーっと顔を輝かせた。
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。モルガン様も水着になっているんですよ。ちゃんとこんな風に褒めてあげてくださいね」
「え、あのモルガンが……」
幼少の時に家族通しの付き合いで海に行った時は水着も着ずに隅っこで本を読んでいた記憶が強かったので驚くアーサー。
そこへ、一人の少女がやってくる。モルガンである。今の彼女はいつものドレスではなく、タオルのようなもので体を覆っており、緊張した表情でアーサーの前にたつ。
「その……どうかしら?」
タオルを脱ぐと白い肌を包み込むワンピースタイプの水着があらわになる。
「おおーーー、あのモルガン様が水着になるとは……」
歓喜の声を上げるトリスタンを無視してモルガンは上目遣いでアーサーを見つめる。
肝心のアーサーはというと……
「綺麗だ……」
完全に見とれてた。水着から伸びるすらりとした細く美しい足に雪の様に色白な肌、そして、普段は隠されているケイに比べれば控えめだが、確かに女性を象徴する胸元。
健康美を体現しているケイとは別の芸術品のような美しさがあった。
「……もう一回言ってくれるかしら?」
「ああ? 綺麗だって言ったんだよ。わるいか?」
「そう……ありがとう」
思わずあふれた言葉を聞き返されて恥ずかしさもありぶっきらぼうになるアーサーと、その言葉にモルガンの顔が赤くなっていく。
そして、にやにやと微笑ましそうにみまもっているトリスタンがいた。そして落ち着いたタイミングで荷物を漁っていたケイが声をあげる。
「アーサー様。日焼け止めのスライムジェルを塗りましょう。太陽光はお肌の天敵ですからね」
「ちょ!! それくらい自分でできるっての」
「だめです。これは専属メイド(おねえちゃん)の仕事ですからね」
いつもよりも露出の高いケイにドキドキとしてしまっているので断るアーサーだったが、そんなことではお姉ちゃんからは逃れられなかった。
というかアーサーも思春期なので口では嫌がっているが内心嬉しいのである。
「うふふ、これで大丈夫ですよ。アーサー様」
「ああ……ありがとう」
そして、全身あますところなく日焼け止めを塗られたアーサーが海に向かおうとすると、肩を叩かれる。
モルガンである。彼女はなぜか硬い表情をしているためアーサにも緊張が走る。
「ねえ、私にも塗ってほしんだけど……」
「え、自分で塗れば?」
「それは……そうね……」
何か小言でもいうのかと身構えていたので予想外の言葉に素で返すアーサー。それに一瞬だけ目を大きく見開いたモルガンは踵をかえして、彼とは反対の方向へと歩いていってしまう。
「アーサー様……今のはきっと婚約者であるあなたに甘えたかったんですよ」
「え、でも、あのモルガンだぞ……」
「アーサー様はわかっていませんね。今すぐ追いかけた方がいいですよ。モルガン様は美しいですからね。見知らぬ男にナンパされてしまうかもしれません。そんなときにかっこよく助けるのも婚約者の役目ですよ」
人の心はたしょうわかるようになってきたアーサーも女心はまだまだわからない。だけど、二人が言うならばと思い追いかけることを決意する。
「ちょっと行ってくるよ」
「はい、私は美味しいものをたくさん用意しているので仲直りをしたらみんなで食べましょう」
「では、私はお二人のために歌を歌いましょう」
そんな二人をあとにアーサーはモルガンをおいかけるのだった。
★★
ああ、もう何をやっているのかしら……
歩きながらモルガンは自己嫌悪に陥っていた。アーサーがケイにオイルを塗られているのを見て胸がもやもやしたのでつい甘えてみたのだ。
だけど、その結果は先ほどのとおりである。だからといって彼女はアーサーを責めているわけではない。
「パーシヴァル様♡ これ、欲しいですぅー」
「ああ、もうしょうがないなぁ。一緒に食べようか」
カップルらしき女が男の腕にだきついて食べ物をねだっているのが目に入り再度ため息をつく。
自分は甘えるのが苦手なのだ。先ほどの件ももっとなんとかいうかやりようがあったのではないかと思う。
「これは……トリスタンね。何らかの作戦かしら? もしや……私やアーサー皇子を狙う暗殺者を見つけた……とか?」
遠くから聞こえてくる楽器の音にモルガンは眉をひそめる。トリスタンは弓の腕も一流だが、重用するのにはもう一つ理由があった。楽器の音色で作戦を知っているものにのみ合図を伝えることができるのだ。
だが、モルガンはこの曲には聞き覚えがない。
「へい。ねーちゃん一人かい? よかったら一緒にあそばな……ひぃ」
「あなたたちなにをやっているのかしら?」
モルガンがにらみつけると男は悲鳴をあげる。ぶしつけに声をかけられるのは嫌いだ。それに声をかけてきた男たちには見覚えがあった。
「そ、そんな怖い顔しないでさー、よかった俺たちと……」
「私は今機嫌が……」
「悪いな、こいつは俺の婚約者なんだ。悪いけど他をあたってくれるか?」
その声をともにモルガンは自分が抱き寄せられるのを感じたのだった。
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