第92話 領主の懸念

「アーサー皇子がやってきただと」



 部下の報告にこの地を収めるアルバート=アイル男爵は頭をかかえる。それも無理はないだろう。彼らの去年の横暴は忘れようにも忘れられるものではない。

 夕日がきれいだという理由で、やつらは平民たちが使っていた海岸を独占したのである。ならば貴族用の海岸を使わせてくれと嘆願したのだが、それもゴーヨクという大貴族に鼻で笑われた。



「高貴なる貴族の使う海岸に平民を入れることができるはずがないだろう」



 その結果、アイル領にわざわざ遊びに来てくれた平民たちは海岸に足を踏み入れることもなく、帰ることになった。

 そのうえ、貴族たちは海岸で屋台などを出して商売をしている人間たちを追い出して、自分たちの専属のコックに料理をさせたりしたものだから、アイル領の人間からも大量の苦情がきたものだ。

 彼らも生活がかかっているのだ。それもむりはないとアルバートは思う。しかもそれだけではない。アーサーがやったのだから私にも特例を認めろとほかの貴族まで便乗するありさまだったのだ



「わがアイル領は観光を収入源としている……このままではまずいぞ……」



 今はまだにぎわっている海岸をアルバートは険しい顔で見つめる。民衆たちが楽しそうに泳いでおり、海岸では屋台が立ち並んで商人たちが商売に精を出している。

 アルバートはこの街が大好きだった。美しい海岸で民が笑っているのが好きだった。漁師が屋台で作っている料理が好きだった。

 子供のころは領主である父についていって漁港を歩いていると領民たちがこっそりと新鮮な魚料理を調理してくれたものだ。

 そんな気のいい彼らがたのしそうにしているこのアイル領をアルバートは心から愛しているのだ。

 ゆえに……これ以上の横暴は許せなかったのだ。



「マーブルよ、私は行くぞ!! 王族だから何だか知らんがこれ以上の横暴は許せん。直接抗議しにいく!!」

「で、ですが、最近のアーサー様は民衆のことをよく考えるようになったと伝えききますし、今回は聡明だと有名なモルガン様もいらっしゃいます。去年のようにはならないのでは?」



 アーサーの活躍はこのアイル領にも届いていた。とはいえ、元の評判は高くないため半信半疑と言った感じである。

 案の定アルバートは納得しない。



「ならないのでは? では、だめなのだ。アーサー皇子の横暴によって民衆がどれだけ苦しみ、収入が減ったか知らないわけではあるまい? 一度ケチのついた観光地には人は寄り付かなくなる。今年も同じことをされてみろ。そして、そうなればこのアイル領は破滅への道をすすむことになるのだ!!」



 マーブルと呼ばれた側近の制止も無視してアルバートはアーサーが訪れるであろう海岸の方へと向かおうとするがそれを必死にとめられる。



「王族に逆らったらどうなるかはおわかりでしょう? 様子を見ましょう。それからもで遅くはないはずです」

「お前がそこまでいうのならば遠くから観察してから決めよう。だが……もしも、アーサー皇子が横暴をするようならば、私は躊躇はしないからな」



 ようやく落ち着いたアルバートにマーブルが一息つく。そして、前の人生のアーサーはもちろん、モルガンも知らないことなのだが、このアイル領が革命の火種の一つになったのである。

 生まれ変わったアーサーは彼らに聡明(笑)な姿を見せられるかどうか? 処刑フラグがどうなるかがかかっているのだった。




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