第74話 建国祭
モルガンと夜食を食べ、自室に戻ったアーサーは、ケイに「おひとりなんですか? 専属メイド(お姉ちゃん)的には安心ですけど、婚約者のお相手をしなくても大丈夫でしょうか?」などとよくわからない心配をされたり、「アーサー様、お口に何かついていますけどまさか……」と間食したことを怒られたりしたりと色々ありながらも善行ノートに書かれていた『食糧問題の解決』に関して考えていた。
とはいえ、どうやったらライスにみんな興味を持ってくれるんだろうな……?
そして、それは珍しく呼ばれた会議の最中でも関係はなかった。ちなみに議題は今度行われる『建国祭』についてである。
王族が主導のイベントということで、王や王の腹心以外にもアーサーはもちろんのこと、兄のロッドや、弟のモードレッドも参加しているのである。
「今回の建国祭のお客様はエルサレムの聖女様や他国の王族なども来てくださるそうです」
「おお、あのパーティー嫌いと有名なエレイン様が……なんと素晴らしい!! これも我らがブリテンの威光の力ですね!! 父上」
父の腹心の貴族であり宰相のディナダンの言葉にロッドが嬉しそうな声を上げる。そう、彼はエルサレムに外交に行った時にエレインを見て以来彼女に一目ぼれしているのである。
部屋にはエレインの肖像画もあるが、それは彼とメイド十五番だけの秘密である。
「ふふ、そうだったら良いのだがな……どうやらアーサーに興味があるそうなのだ。なあ、ディナダンよ」
「はい、エレイン殿からアーサー皇子にくれぐれもよろしくと個人的なメッセージもありました。この前の会合で親しくなられたようですね。流石です。アーサー皇子」
「アーサーが……ですか……」
父とディルダンのアーサーを褒めることに場にロッドが険しい顔をするがアーサーはそれどころではなかった。
エレインがよろしくだと……
その言葉にアーサーは冷や汗を流す。もちろん、アーサーはエレインを世話した覚えはないし、よろしくなどと言われるような覚えもない。手紙も定期的に来ているが、ケイにたのんで当たり障りのない返信をしてもらっている。
となれば考えられることは一つである。
お礼回りってやつだな……
この前エルサレムに行った時にエレインのやつをわからせてやったのだ。その仕返しとして、ブリテンで聖女としての力を見せてやるぞとそういうことなのだろう。
ならば答えは決まっている。俺が治癒能力で負けることはありえないのだから……
「望むところだと伝えておいてくれ」
「ふふ、頼もしいですな。ただ、アーサー皇子もモルガンと婚約したばかり、英雄色を好むとは言いますが、火遊びはほどほどに……ですな、王よ」
「う……わかっている……息子たちの前でいうことではないだろう」
ディルダンの言葉に王が苦虫をつぶしたようにうめき声を上げる。こいつら何言ってんだ? と思っていると、視線を感じた。
ロッドである。なぜかアーサーをすごい気迫でみつめてきていたのだ。
ああ、ロッド兄さんは心配性だからな。俺がエレインに負けると心配してくれているのだろう。
ロッドを安心されるように微笑んでウインクするとなぜか、「な……」とうめき声を上げる、そして彼が握っていたカップを全力でつかんでひびが入っていくのが見えた。中身がかかったりしていないだろうか?
「それと……三人の皇子にはそれぞれ何かのもてなしをしてもらおうと思います。次の会議までにある程度の案を出していただきます」
「毎年やっているが、お前らの力を他国に示すチャンスでもある。期待しているぞ」
「ああ、もちろんだ!! 俺が王にふさわしいということをみせてやるよ!!」
「大変だなー、僕にできればいいけど……」
気合たっぷりなロッドと対照的にモードレットが不思議そうな笑みを浮かべながらぼやく。そういえば前の人生では、アーサーは治癒能力を披露し、モードレットは剣舞を、ロッドは自分の配下の貴族の小麦を使った料理をふんだんに使った豪勢な食事を出していたのを覚えている。
アーサーはあそこで食べたメロンパンというものが大好きだったのだ。そんなことを考えているとモードレットが話しかけてくる。
「アーサー兄さんはきっとすごいことをやるんだろうな、楽しみにしてるよ」
「ああ……」
こいつなんでこんな親し気な笑みを浮かべてくるんだ? 笑顔のモードレットに前の人生で殺されたことを思い出してしまい適当に返事する。
そして、会議が終わったので自室に戻ろうとした時だった。
「おい、アーサーちょうどいい。話したいことがあったんだ。顔を貸せ」
「ああ、別に構わないぞ。ロッド兄さん」
なぜか、お茶に誘われたのだった。
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