第64話 恋バナ
「で、今回の護衛はお前なのか……?」
「お久しぶりですね、アーサー様、ガウェインからドルフでの活躍は聞いています。流石ですね」
気安く話しかけてくる騎士はトリスタンである。派閥の対立が激化していることもありモルガンが信頼できるものをと気を利かせたのだが、もちろんアーサーは気付いていない。
彼は出発の準備をしているケイを一瞬ちらっと見た後ににやりと笑ってアーサーの耳元でささやく。
「聖女様の次はメイドとデートとはアーサー様もなかなかのやり手なようで……英雄色を好むと言いますからね」
「な……ケイと俺はそういう関係じゃないっての。それに、エレインのやつは俺を嫌いだって言ってたぞ。手紙にも脅迫文みたいなことが書いてあるしな……」
そう、聖女をわからせてから、前の人生ではなかったことだが、定期的に手紙が来るようになったのだ。内容は日常の話や、苦労した治療の話、後は最近料理を頑張っているから私の得意料理を食べさせてあげるなどだ。
その手紙を見るたびに宴会で食わされたひたすら辛い料理が思い出されアーサーは渋い顔をするのである。
あの女のことだ、俺に治癒能力で負けたのが悔しくて、精神的にダメージを与えようとしているな……
「ふふ、さすがのアーサー様もまだ恋愛はまだまだのようで……乙女心はわからないようですね。あれは照れ隠しというものですよ」
「俺だって恋愛くらいはわかっているぞ。こう見えてもモテるんだ!! そういうお前は恋人とかいるのかよ?」
もちろんアーサーは自分がモテているなどとは思ってはいない。だが、つい強がってしまうのはもはや性分である。彼は思春期なのだ。
そして、トリスタンのそれは主に対する態度ではないが元々普通を知らないアーサーは気にしない。それに……なんというか他人とこういう風にくだらない話をするのが新鮮でなのである。
ボッチだった彼はこういう風にコイバナをするのがちょっと楽しくなってきたのだ。
「はい、イゾルテという貴族令嬢とお付き合いさせていただいています。とてもおしとやかで自慢の恋人です」
「へぇー、なんというか幸せそうだな……」
いつもはにやけ顔のトリスタンが幸せそうに微笑むのを見るとアーサーも少しうらやましくなる。アーサーは前の人生も含めてちゃんと恋というものをしたことがない。今回と違ってモルガンとの関係も冷めきっていたし、そもそも他人に興味がなかったのだ。当たり前だろう。
だが、様々な人との出会いが彼を変えていた。
俺もいつか恋をするのだろうか?
と思うくらいには……
モルガンと婚約者じゃないか!! と思う人もいるかもしれない。だが、前の人生でさんざんいびられた記憶がある上に、クーデレでなかなか素直になれないモルガンと、精神年齢がようやく小学生から中学生になりかけているアーサーの相性は最悪だった。
お互いの気持ちがすれ違い続けているのである。
「ふふふ、アーサー様も恋に興味がおありなのですね。女子はかっこいい男性に惹かれますからね。アーサー様も女性の前ではかっこつけるといいですよ。ためしにモルガン様の前でキュンときそうなセリフでも言ってみてはどうでしょうか?」
「そんなことしたら、あいつは絶対俺を馬鹿にしてくるだろ……」
これ見よがしにネチネチと言われる姿を想像し思わず顔をしかめるアーサー。そして、経験豊富そうな彼にちょっとだけ……本当にちょっとだけ(自称)恋愛に興味があるアーサーは訊ねる。
「トリスタンは結構告白とかされたりするのか?」
「ふふふ、騎士をやっている私は常にかっこいいですからね。様々な貴婦人からお声がかかりますよ。ですが今の私はイゾルテに夢中ですからね……ちなみにですが、元カノもイゾルテという名前です」
「は?」
こいつやばい性癖なのだろうか? 恋バナに少し興味を持ったアーサーだったが予想外の続きに思わず間の抜けた声をあげた。
そして、思う。
こいつは参考にしないほうがいいかもしれないな…
芽生えかけた友情が消えた瞬間だった。
「アーサー様、トリスタン様と何を楽しそうに話してらっしゃったんですか?」
孤児院へと向かう準備ができたのかケイが笑顔をうかべてこちらにやってきた。先ほどまで恋バナをしていたからだろうか……
なぜかちょっと気恥ずかしさに襲われたアーサーはもごもごとごまかす。
「ああ、ちょっとな……」
「……?」
「ふふ、男同士の会話というやつですよね。ね、アーサー様」
「むーー、教育上悪いので、アーサー様に変なことを教えないでくださいね。トリスタン様」
ケイがトリスタンから取り返すようにして引っ張るものだから、抱き着くようなかんじになってしまい彼女の胸元に引き寄せられる。
もしも俺が恋をするとしたらケイみたいな優しい人がいいな。
などと彼女の胸元でちょっとドキドキするアーサーだった。
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