第63話 アーサーのプレゼント
勉強会の翌日、珍しくアーサーは目を覚まして机に向かっていた。
「ふぁーあ」
昨日習ったことの復習を終えたアーサーは大きくあくびをかみ殺す。もしもやらかしたときにモルガンに怒られることがこわいこともあり必死なのだ。実に小物である。
「アーサー様、勉強で疲れたときは甘いものがおすすめですよ」
ちょうど集中力が切れたタイミングでケイが紅茶の入ったポッドと、クッキーを持ってきた。さすがは専属メイド(お姉ちゃん)というべきか、彼女はアーサーの集中力が切れるタイミングを見抜いているのである。付き合いも長く、アーサーの役に立ちたいと強く願い努力している彼女は名実ともに専属メイドとなっていた。
そして、それは内面だけでなく、外見にも表れている。
「ちゃんとつけてくれているんだな……」
「はい、アーサー様から頂いたものですから。年下の家族からプレゼントの経験はないのですっごい嬉しくて……」
「ん……? 家族……?」
ちょっと気になったことはあったが、ケイが長い髪をかき上げて嬉しそうにはにかみながら虹色に輝く鉱石のついたイヤリングを見せてくると、思春期なアーサーはそのしぐさにドキッっとしてしまう。
「でも、この石って珍しいものですよね。こんな風にキラキラした石初めて見ました。お土産にっていただきましたが、高かったんじゃないですか?」
「ああ、気にするな。これはドワーフたちから感謝のしるしだってもらっただけだからな。お金はかかっていないぞ」
「ならよかったです。すごい高いものだったらどうしようって思っちゃいました。アーサー様ってば、はじめて街に行ったときにクッキーをお店のもの全部買おうとしてましたから、今回もちょっとドキドキしていたんですよ」
「それは……あの頃はものを知らなかったんだよ……今の俺はもうあんなミスはしないさ」
昔の話をしていじられてアーサーが恥ずかしそうに頬を書き、それをケイは微笑ましく見つめて笑みを浮かべる。
確かにアーサーは嘘をついていない。彼の中では鉱石はすべてドワーフたちに渡したつもりであり、あくまで善意でくれたものだと解釈をしている。
たとえそれが超珍しいアダマンタイトであっても彼の中では実質無料である。
「いつもつけてますからね、ありがとうございます。アーサー様」
そして、ネックレスはケイの髪によって隠される。大切な主からもらったものを身につけていたいが、表立ってアピールするのはちょっと恥ずかしい。そんな可愛らしい女ごころである。
ちなみにこんな話をしているがこのイヤリングの価値はお店のクッキー全部どころか、ケイの家族を人生三回分くらいやしなえるだけの価値があるのだが、世間知らずのアーサーも平民出身の彼女も気づくはずがなかった。
ケイのイヤリングにマリアンヌが気づいて大きな騒動になるのは少し先の話である。
「今日は良い天気ですし、勉強が落ち着いたら、一緒に孤児院でも行きませんか? 確か今日はドワーフのゲイルさんとエリンさんが子供たちに勉強を教えていますよ」
「あ、エリンか……確か父が商人の子だったな。ちょうどよいかもしれないな……」
孤児院での教師を引き受けてくれるたのはマリアンヌの他にもう一人おり、エリンの授業は数学などの実用的なものも多く評判がいい。
アーサーは一切勉強するつもりはないが、善行ノートに新たに書かれたことを思い出し、エリンに相談してみよう決める。
「よし、じゃあ、準備するか」
「はい、お着替えを準備いたしますね」
そうしてアーサーたちは孤児院へといくことになった。
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