第56話 アーサーVSシーヨク
オリハルコンと大量の鉱石を無事手に入れたアーサーは、翌日ドワーフの代表であるガゼフとメイドのマリアンヌと共にエドワードの屋敷でシーヨクを待っていた。
「リチャード殿……オリハルコンの塊を見つけてくださったことは感謝いたします。ですが、その見返りにシーヨク様との取引に同席させていただきたいというのはいったいどんな狙いが……」
「それはだな……」
「うふふ、エドワード様ご安心くださいまし。リチャード様は聡明な方ですの。きっとお考えがありますわ」
アーサーが何かを言う前にマリアンヌがわかっていますわとばかりに返事をする。どう説明しようか悩んでいたアーサーがとりあえず頷くと、なぜかマリアンヌだけではなく、ガゼフまで信頼ししきった目で見つめてきた。
なにこれこわい……
「ふふ、この契約書には俺たちドワーフが作ったものはすべて三十日以内に即金で払うと書いてある。全員で大急ぎで作っているからな。あいつを破産させられるぞ。これもお前の計画なんだろう?」
「ああ……」
ガゼフがよくわからないことをささやいてくるがなんかうれしそうなのでとりあえず頷くアーサー。マリアンヌとガゼフの信頼している様子を見て、エドワードもリチャードを認めたのかこれ以上は強く言うつもりはないようだ。
「まあ、同席するくらいならば問題はないと思いますが……ただシーヨク様はアーサー皇子の側近です。失礼なことを言わないように気を付けてくださいね。私だけではなくリチャード様の貴族生命にもかかわってきますから。私も恩人に迷惑はかけたくないのです」
「ああ、もちろんです。そこらへんはわきまえていますよ」
少し心配した様子のエドワードにアーサーはにやりと笑う。当たり前だがこの男はわきまえてなんていない。失礼なことを言う気満々である。
現に彼は変装用の服の下には、いつも城で着ている高価な服をまとっており、いざとなれば治癒能力を見せるつもりである。そう、いつでも正体を明かせるようにしているのだ。
モルガンは絶対に正体を明かすなと言っていたが、ここまで来ればどうでもいいだろう。シーヨクめ、俺の名前を利用して散々好き勝手してくれたな!! おまえのせいで俺は前の人生でドワーフたちに襲われて怖い思いをしたんだぞ!! 絶対に許さないからな!!
そう、確かに勝手に名前を使われていたこともむかつくが、シーヨクが余計なことをしたせいでドワーフたちの怒りを買ったということはさすがのアーサーも察しがついていた。
お前が調子に乗っているところに俺の正体を明かしてびびらせてやるよ。怖い思いをさせられた分お前もびびるがいい!!
オリハルコンを手にしたシーヨクが、調子に乗ったところを正体を明かしてそんな話は聞いていないぞと言ったらどうなるか……彼の驚く顔を想像してにやりと笑う。
そう、今のアーサーは皆に褒められたことと、目標であるオリハルコンを入手したことでかなり調子に乗っており、あれだけモルガンが正体を明かすなと言っていた意味をはきちがえているためやらかす気まんなんなのである。
コンコン
アーサーが底意地の悪い笑みを浮かべているとノックの音が響く。ようやく、今日の敵がやってきたようだ。
「エドワード殿……オリハルコンの準備ができたと聞きましたが……おお!! なんと煌びやかな輝きだ!! 素晴らしい」
シーヨクが入室すると挨拶も適当に虹色に輝くオリハルコンに目を奪われたようだ。
「シーヨク殿、これでプリムの治療をアーサー皇子に頼んでいただけるのですね?」
「ああ、もちろんだ。これだけのオリハルコンがあればアーサー皇子もきっと喜んでくれるはずだ。だが、まずは私にいくつかオリハルコンでできたアクセサリーをもらおうか。アーサー皇子に渡せるクオリティのものか見定めなければいけないからな」
ぐっふふと下卑た声を上げるシーヨク。その様子にアーサーがにやりと笑って、契約書を持ったガゼフが口を開く。
「それと契約通り俺らドワーフが作ったアクセサリーはすべて適正な金額で買ってもらうぞ!!」
「ふん、もちろん、契約通りに払うさ。オリハルコンを掘っていたのに作る余裕があったのか?」
「ああ、そこの貴族のおかげでな!!」
「なっ!? これは……」
ガゼフがアーサーにウインクをしながら得意げに商品リストをシーヨクに渡すと、彼は信じられないとばかりにうめき声を上げて……にやりと笑った。
「ほう、かなりの量だな……確かにこれだけの金額となると。私の今の私財ではすべてを買うことはできないな。だが、私には心強いお仲間いてね。期日までには必ず支払えるから安心するがいい」
「え……馬鹿な!! これだけの金額はお前は払えるというのか!!」
今度はシーヨクの言葉にガゼフが驚きの声を上げる。書かれた金額はこのドルフの半年の税収にも及ぶ金額だったのだ。
ガゼフはそんな金額を払うのは不可能だと踏んだのにシーヨクは払えるという……大貴族とはいえいったいどこから資金を得ることができるというのだろうか?
「なあ……シーヨクとやら、お前はアーサー皇子にプリム嬢の助けを依頼するのにオリハルコンが必要だといったよな?」
そんな二人の状況に口をはさんだのはアーサーだった。すこし空気が読めるようになった彼は助け船を出したのである。人の心がわからなかった彼にしてはすごい進歩である。
「リチャード殿!?」
いきなり口を開いたアーサーにエドワードが慌てて口を開こうとするがそれをシーヨクが手で制する。そして、意気消沈しているガゼフを見てにやりと笑った。
「ああ、お前だな。ドワーフたちに余計な入れ知恵をしたのは……」
そして、アーサーから視線を外すと下卑た笑みを浮かべてエドワードを見つめる。
「エドワード殿……大切な取引に部外者をいれるとはどういうことでしょうか? 私としても他派閥のあなたにアーサー皇子を紹介するという危険な橋を渡っているというのに……お嬢様の治療は不要ということですかな?」
「違うんです、シーヨク様!! もうしわけないがリチャード殿出て行ってもらえないだろうか?」
シーヨクの一言で流れが変わってしまった。今正体を明かしても効果は薄い。なぜならばシーヨクはアーサーの目の前で『オリハルコンを見せればアーサーに取り次ぐと言っていないからである』
この状況でアーサーが正体を明かしてもシラを切られる可能性がある。エドワードの信頼をアーサーが得ていれば話は別だっただろうが後の祭りである。
そして、正体を明かしたアーサーは話の流れ上プリムを癒さねばならなくなるだろうし、シーヨクはそのことを自分の手柄にし、エドワードに貸しをつくり、ドワーフとの取引はできてしまうのだ。
つまり、アーサーはカードを切ることすらできない状態なのだ。
もちろんアーサーはそこまでわかっていないがシーヨクの調子に乗った表情を見てこちらの不利を悟ったのである。
「待ってください、エドワード様!! リチャード様にお考えが……」
「マリアンヌ、すまない。私はプリムが大事なんだよ」
「く……」
どうすればいいかアーサーは必死に考える……そんな状況を打破するかのように扉が開くと、一人の銀髪の少女が現れる。
「よかった……間に合ったようね」
「なんだお前は……モルガンだと!! なぜ貴様が!!」
「久しぶりね、シーヨク。アーサー皇子の命であなたの不正を暴きに来たわ」
銀髪の氷のように冷たい目の美少女はアーサーが送った手紙を手ににやりと笑うのだった。
いや、俺の命令ってなんだよ!?
もちろんアーサーはむっちゃ混乱していた。
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