第54話 アーサーVSアシッドメタルスライム

「うおおおおお!! すげえ好戦的だな、こいつ!!」

「アーサー様、今お助けしま……くっ!!」



 触手に巻き取られたアーサーを見て急いで助け出そうにも、ガウェインはアシッドメタルスライムの攻撃を防ぐのに精いっぱいであった。

 迫って来る触手の数が多いこともあるが、視線に入るとあることがガウェインを余計焦らせていたのである。



「アーサー様、今すぐにお助けします!!」

「いや、別にそんなに焦らなくてもいいぞ」



 のんきなアーサーと対照的にガウェインが焦るのも無理はないだろう。捕まっているアーサーは気づいていないが、強力な酸の入り混じった触手につかまれている部分の服は溶けており、今も肌を焼いてじゅーじゅーと音を立てながらも煙を上げているのである。

 常人ならば激痛に悲鳴をあげてもおかしくない状況なのだ。



「この状況下でも私に気を遣えるなんて……ですが、私は騎士です。あなたを守るのが仕事なのです!! それにアーサー様が魔物に殺されてしまったらマリアンヌに合わせる顔がありません!!」



 アーサーの言葉になぜか余計気合をいれるガウェイン。とはいえ、実力差を埋めるには至らない。このままではガウェインが触手にとらわれるのも時間の問題だろう。



「そういえばこいつの体液って毒って言ってたな……もしかして効果があるか?」



 試しに触手に治癒魔法を使ってみるとわずかに動きがにぶったものの効果は薄い。おそらく触手を覆っている鉱物が阻害しているのだろう。



「アーサー様、大丈夫ですか!! いや、本当になんで大丈夫なんですか!?」



 すさまじい痛みに襲われているはずなのに、全然元気そうなアーサーにガウェインが驚きの声をあげる。だが、アーサーが異常だと感じたのはガウェインだけではなかった。



「スラーーー?」

「うおおおお?」



 アシッドメタルスライムはアーサーを引き寄せるとそのつぶらな瞳でとらえた彼を見つめる。アシッドメタルスライムは鉱石以外のものは食べず、それ以外の人間や魔物は価値がないものだと判断して、触手で溶かしてつぶして殺す。

 だが、酸でも溶けずにつぶしても即座に何事もなかったかのように回復するアーサーを見て、戸惑っているのだ。彼の酸に耐えたのは餌となる鉱石だけだったのである。



「スラーー!!」

「おい、お前を何を……うおおおおおお!!??」

「アーサー様ぁぁぁぁぁ!!」




 そして、アシッドメタルスライムは触手につまんでいるアーサーを一度空中に投げたかと思うとパクリと喰らったのだ。

 アシッドメタルスライムは酸に耐えたアーサーは自分の餌である鉱石と勘違いしたのである。そう、アシッドメタルスライムはその能力に反比例するかのように知能が低かったのだ。

 それはアーサーよりも……



 そして、アシッドメタルスライムの口の中に入ったアーサーは体全体を溶かされながらもにやりと笑った。



「お前の体は毒なんだよな? だったら今浄化したらどうなるかなぁ!!」

「スラーーー!!??」



 その効果は絶大だった。アシッドメタルスライムは体内をめぐる毒が浄化されていき体の制御が効かなくなっていく。

 それは人間で例えると血液からすべての効能が消え去り、ただの水と化すのと同じようなものだ。とてもではないが耐えられるものではなかった。



「あばばばばば」

「さすがです。アーサー様!! 体内を浄化させるためにあえておとりになるとは……」



 水と化したアシッドメタルスライムの体液に溺れかけながら、強制的に外へと追い出されたアーサーを感激した表情のガウェインが受け止める。



「スラーー……」


 

 そして、ガウェインによって地面におろされたアーサーの視界に入ったのは、アシッドメタルスライムが今まで喰らってきた大量の鉱石が地面に散らばっている煌びやかに輝いている光景と、人間の赤ん坊くらいのサイズまでに縮んだアシッドメタルスライムだった。



「これなら俺でも倒せ……ぶべら!?」



 弱い者には強気に出るアーサーがアシッドメタルスライムに近づこうとすると、触手によって顎をうちつけれて情けない悲鳴をあげる。

 だが、それも無理はない。アシッドメタルスライムは五大害獣である。今はその体も小さく、体を覆う鉱石も少なくなり弱点であるコアも丸見えだが、その力はやはり強大なのだ。

 現にアーサーのあごはシューシューと溶けて即座に癒える。常人だったら今の一撃であの世行きだったであろう。



「アーサー様!! お気を付けください。小さくなったとはいえアシッドメタルスライムは脅威です。私の背後に……」



 その間にもアシッドメタルスライムの触手がガウェインとアーサーを襲う。窮鼠猫をかむというべきだ。弱っているとはいえ五大害獣の一角である。

 そう簡単には倒すことのできない存在のはずだった。



「あ……」



 激しくなった一撃によってガウェインのマントが引き裂かれる。だが、忘れられているがガウェインは強力な騎士なのである。しかも極度のシスコンの……



「てめえ……俺の太陽を穢したな……」



 マリアンヌの絵ごと引き裂かれてぶちぎれるガウェイン。口調はおろか表情も別人のように変化しており、これまでの温厚そうな笑みはどこにいったやら、鋭い目つきでアシッドメタルスライムを睨みつける。 

 そして、彼はすでに溶けて使い物にならない剣を捨てると、落ちているオリハルコンのなかでも大きいものをこん棒のように構える。



「てめえはこの世で最も美しいものを穢した!! 生まれたことを後悔して死ね!!」



 多少の負傷もものともせずにそのままスライムに近づいていくとそのまま体ごとコアをオリハルコンの棒でぐちゃりとつぶしたのだった。



「いや、お前……俺を守る時よりも気合はいってんじゃん」



 珍しく正しいことを突っ込むアーサー。



「何かの音がしたぞ。こっちか!!」

「なんだこれは鉱石が大量にころがっているぞ!!」

「これはオリハルコンじゃ……」



 そうして、無茶苦茶良いタイミングでドワーフたちがやってきて、あちこちに散らばる鉱石をみて歓喜の声をあげるのだった。

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