第53話 VSオリハルコンを身にまとう温厚な魔物……温厚!?

 アーサーの目の前にいるのは体の表面に鉱物をまとった巨大なスライムだった。その巨体から体の一部を触手のようにうねうねと動かして、つかみ取った鉱石を喰らっているのだ。



「話と違って随分とアクティブだな……」

「この魔物はまさか……」


 

 守備力は高いが攻撃力はないと聞いていたが貪欲に鉱山を喰らう魔物に面を喰らうアーサー。その後ろではなぜかガウェインが信じられないとばかりに目を見開いている。

 


 さすがに話に聞いていた魔物とずいぶんと違う気がするんだが……そう思ったアーサーだったが、目の前のスライムを見て気づいたことがあった。



「ん? あれは……」



 たくさんの種類の鉱物を食べているからか、こいつの体には色々な種類の鉱石に覆われているが、その中に虹色に輝いている部分があるのだ。

 おそらくこれがオリハルコンで間違いはないだろう。



「アーサー様危険です!! 私の背後に……うおおおおお!!!」



 獲物に気づいたスライムの数十本もの触手をガウェインが剣で切り払う。それは人間離れした力と剣の技術から生み出される天才的な剣技だった。三倍の力は伊達ではないとでもいうようにスライムの猛攻をしのいだガウェインだがその表情は硬い。



「こいつ……強い……」



 一瞬の動きだったが、相当消耗したのかはーはーとガウェインが息を切らしている。確かに攻撃力は高い。だが、それ以上に厄介なことがあった。それは……



「剣が溶けている……」

「ええ、これが五大害獣が一匹『鉱山喰いアシッドメタルスライム』の力です。すべてを喰らうほどの貪欲な食欲に、強固な外装に触手……そして、その体のほとんどの成分を占める鉱石が持つ毒をもとにした酸なのです」



 ガウェインは冷や汗を垂らしながらもアーサーには触手一本触れさせまいと剣先が溶けてしまった剣を捨て、予備の剣に持ち替えてアシッドメタルスライムを睨みつける。

 


 かっこいいことをいったくせに苦戦しているガウェインだが、これは彼が弱いわけでは決してない。それだけ敵が強大な上に相性が悪すぎるのだ。



 五大害獣アシッドメタルスライム……接近武器でダメージを与えようにも、表面が硬く通らない上に武器は溶かされる。それなのに、あっちの攻撃は金属すらも溶かす触手が鎧すらも容易に貫くのである。

 魔法を使おうにも鉱山の中では大規模なものを使えば、崩落の可能性がある。



 それゆえに先代の領主フリューゲルとドワーフたちも眠らせて封印するという搦め手でしか倒すことができなかった。そもそも五大害獣というものと相対しようとするものは普通はいない。即座に逃げ出してもおかしくないのである。

 こうして相対する人間は必死に誰かを守ろうとするものや、国の人間を愛し、守ろうとする聖女のような存在、もしくは何も考えていない人間である。

 



「まあ、ともかくこいつを倒せばオリハルコンが手に入るってことだな」



 アーサーはもちろん……何も考えていない人間である!!

 ガウェインの言葉を聞いたアーサーは一歩踏み出した。それは彼に勇気があるというわけでは決してない。


 また五大害獣とやらか……まあ、コカトリスも雑魚だったしこいつも大したことはないのだろう。ガウェインが苦戦していたようだが、どうやら相性が悪いようだ。まあ剣が溶かされてるしな。


 そんなことを考えていた。



「アーサー様わかっているのですか、この魔物は……」

「オリハルコンを持っている魔物だろう? ドワーフたちから聞いている」



 そう、ケイがいない今、アーサーは自分でもしっかりとしようと頑張ってドワーフたちの話を覚えていたのだ。


 オリハルコンを持つ魔物の特徴は硬い体を持ち虹色に輝いていると……話とちがって好戦的だが、噂と実物は少しは違うものだ。三つの特徴のうち二つあっていれば、こいつがドワーフの言っていた魔物なのだろうと。

 森の主もその肉は絶品と聞いていたが実際はくっそまずかったしな!! 



 そう、無知だった彼は変な経験を積んでしまい偏った知識を得てしまったのだった。



「大丈夫だ!! こんなやつは俺とお前なら勝てえぎゃぁぁ!!」

「アーサーさまぁぁ!!」



 そして、一歩踏み出すと同時に触手にとらわれるのだった。

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