第50話 アーサー無自覚に煽る

 翌朝、ガウェインと共にドワーフたちが潜っている鉱山に来たアーサーは怪訝な顔をしていた。 



「お前ら働かないのか? 疲れたら回復してやるぞ」

「わかってるよ……でも、がんばっても結局宝石やアクセサリーが全部あいつの懐にはいるってなると、やる気がおきねえんだよ」

「くっそ、なんであんな奴の言いなりにならなきゃいけないんだ?」



 ドワーフたちのモチベーションは最低だったのだ。彼らドワーフの間ではろくに物の美しさもわからないのに金にものを言わせて買い漁るシーヨクの評判は悪かった。

 そんなやつの手にすべての商品が渡ってしまうとわかったのだ、彼らにやる気なんて湧くはずがなかった。それでも鉱山にこもっているのはプリムのために頑張らねばという気持ちがあるからである。


 普通の人間ならば昨日の話を聞いていればわかりそうなものだが、もちろんアーサーにそんな……職人の心の機微はわからない。

 


「こいつらは一体どうしたんだ?」

「仕方ないですよ。ドワーフたちは作った作品を誰かに喜んでもらったり、似合う人間に身に着けてもらったりすることが生きがいなんです。仮にオリハルコンを納めたとしても、今後の商品がすべてシーヨク様の手に渡ってしまうとなるとやる気がなくなるのも無理はありません」

「ふーむ……こいつらは怒っているんだよな?」

「まあ、合法ですが詐欺のようなやり方ですからね……怒っていると思いますよ」



 酔いつぶれていたが昨日の顛末を聞いていたガウェインが答えると、アーサーは納得がいかないとばかりにうめき声をあげる。すると白髪交じりのドワーフ……ガゼフがアーサーを睨みつける

 


「なんだ、坊主? こんな状況でも死ぬほど働けってか?」

「いや、ドワーフを怒らせたら怖いと聞いていたが実際はそんなことはないんだなって思ってな。本気で怒っているならシーヨクをぶち殺しにでも行くかと思ったが、こんな風に腐っているだけとは予想外だったから驚いたんだ。思ったよりもおとなしくてよかったよ」

「「な……」」



 アーサーの言葉にドワーフたちはもちろんのことガウェインも驚愕の声をあげる。それも無理はないだろう。貴族殺しは当たり前だが、禁忌である。革命状態でもない限り罰せられ処刑されるのだ。

 


 それなのにアーサーはドワーフならば怒ったらそれくらいやるんじゃないか? と、お前らはそれくらいやれると思っていたのに拍子抜けだな……とドワーフたちには聞こえた。

 

 もちろんアーサーは煽ったつもりはない。前の人生で革命時にすさまじい勢いで攻めてきたドワーフたちを覚えていたので、疑問に思ったから口にしただけである。むしろ、殺気立ってシーヨクを殺しに行ったりしなくて安堵しているくらいだった。

 

 だが、その言葉を聞いたドワーフたちは……一瞬あっけにとられてから、鉱道に響くほど爆笑する。



「いうじゃねえか!! 坊主!! そうだよな!! なんで俺たちドワーフたちがつくったものをあのくそ貴族に全部わたさなきゃいけねえんだよ。おかしいだろ!! ぶっ殺しに行くぞ!!」

「ばっか、そんなことをしたらエドワード様やプリム様に迷惑がかかるだろうが!!」

「だったらどうすんだよ!! このままシーヨクの野郎のいいなりになるってか!?」

「ちげえよ、あいつだって持ってる金には限度があるんだろ? だったらさっさとオリハルコンをゲットして、鉱石も売りまくってあいつを破産させてやるんだよ!! おい、坊主、礼はするから疲れたやつから癒してくれ!! 片っ端から鉱石を掘るぞ」

「それだ!! お前らやるぞーーー!!!」

「「「「うおおおおおーーー!!」」」」



 アーサーの言葉に感化されたドワーフたちは勝手に盛り上がっていき彼らの怒号が鉱山内に木霊するのを聞いてガウェインは驚愕と共に感嘆の声を漏らす。



「あのドワーフたちをあんなにもやる気にさせるとは……これがこの人の……おちからなのか……」

「ありがとうよ、坊主……いや、リチャードだったな。お前のおかげでドワーフの生き方を思い出したわ。いつの間にか俺たちはひよっていたようだ。今から俺たちの力をみせてやるよ!! 回復を頼むぞ!!」

「あ、ああ……」



 まるで親しき友人に声をかけるようなガゼフに笑いかけられた肝心のアーサーはというと……



 え? こいつらいきなりどうしたの? こわ!!  と前の人生で襲ってきたドワーフたちの勢いを思い出してちょっとびびっていた。





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