第46話 ガウェインの評価

 ガウェインはマリアンヌの願いでアーサーの護衛を引き受けたが、彼の存在を疑問視していた。城で騎士をやっている彼の耳にはアーサーの悪い評判ばかりが入っていたのだ。


 エルサレムから戻った同僚のトリスタンはやたらとほめていたが、それでもかわいく美しいマリアンヌが利用されていいように使われているのではないかと不安は解消されなかった。

 現に彼女は城のメイドだけではなく孤児院で教師の真似事をさせられてるようだし……



 だから、彼を護衛してほしいと言われた時にはガウェインはチャンスだと思ったのだ。美しすぎるマリアンヌの前では本性を隠していても、自分と二人ならば多少は尻尾を出すと思ったのである。

 だけど、さっそくアーサーのイメージが変わることがおきる。



「リチャード様、本気で鉱山に入られるのですか……?」

「当たり前だろ。俺はドワーフたちに会いに来たんだ。マリアンヌから聞いているだろ」



 鉱山に踏み入れようとしているアーサーに声をかけると彼は躊躇なく頷いたのだ。それは普通の貴族……ましてや王族ではありえないことだった。

 鉱山は暗くてじめじめしているし魔物だって現れる。彼が身にまとっている高価な服は汚れるし、命の危険だってある。普通の人間はそんなところに好き好んで入ろうとはしない。

 だから、ガウェインは、てっきりアーサーは自分にドワーフを連れて来いと命じると思っていたのだ。なのに、彼は当たり前だというように……むしろちょっと楽しそうに鉱山に入るぞと言ったのだ。



 そして、アーサーのイメージが変わる会話はほかにもあった。



「ああ、わかった。それにしてもなんでみんな宝石が好きなんだ? ただの石だろう?」




 アーサーは宝石を……貴族が己の富の象徴ともしている宝石をただの石だと言い捨てたのである。だが、彼はお金目当てにしか治療をしないのではないか? 

 いや、最近はそれは取り巻きたちが勝手に言っていたという話もあったが、本当だったのだろうか?



「そうですね……高価なものを身に着ければ立派に見えるからではないでしょうか? 宝石のような高く価値のあるものを手にしているということは、それを手に入れるだけの力や権力があるという証明になります。それだけ、その人間が優秀に見えますから……」



 アーサーを試すための言葉で、いやなことを思い出してしまいガウェインは思わず顔をしかめてしまった。

 ガウェインはとある特殊な力と圧倒的な剣技から強さは騎士団でも五本の指に入る。だから彼は優秀な騎士のみが選ばれるという王の護衛騎士には自分が選ばれるものと思っていた。だが、自分の代わりに選ばれたのは実家が強い権力を持つ騎士だった。そいつは悔しがるガウェインをあざ笑うように言ったのだ。

『悪いなぁ、金も力なんだよ!! これが俺の強さだ!!』

 悔しかった……愛しき妹を守るために得た力は金の力に負けたのだ。なんで力で判断してくれない? 貴族や王族はそこまで腐敗しているのか? と失望していたのだ。

 だから次のアーサーの言葉は彼を心を揺さぶったのだ。



「そうかぁ? 人間の価値はその者の持つスキルや能力で決まるだろう。例えばケイやマリアンヌはメイドとしてしっかりとやってくれている。俺の取り巻きの貴族どもよりもずっと優秀だと思うぞ。それに、俺のような強力な治癒能力の持ち主ならば宝石なんぞ身に着けてなくても優秀だと証明できるしな」

「なっ……」



 目の前のアーサーは貴族たちが必死に守ろうとしている既存の権力などをくだらないと言い、個人のスキルや才能の方が大切だと言ったのである。

 平民からその意見がでるのはわかる。だが、彼のような……王族の人間から出たのが衝撃だった。だが、今思えばアーサーは孤児院の人間に声をかけわざわざ仕事まで覚えさせようとしているのである。


 このお方は本気で貴族と平民の格差をうれいてらっしゃるのだ……



「なるほど……だから、あなたは平民にも仕事を覚えさせその才能を見極めようとしているのですね……」



 感動のあまり思わずつぶやいた言葉にアーサーは返事をしない。それは返事をするまでもなく当たり前だということなのだろう。

 そう思ったガウェインのアーサーへの好感度がむっちゃ上がったのだった。




 しばらく歩くと、まだ作業中なのだろう、ところどころにむき出しのミスリルや宝石の原石が見える。その光景にさすがに感銘をうけたのかアーサーが「これは……確かにきれいだな」とつぶやいた。

 先ほどのやりとりで親しみを覚えたガウェインは軽口を叩く。



「そうですね、先ほどのような権力者もですが、女性も宝石を好みます。彼女たちはこういう美しいものを身に着けるのを楽しみますからね。リチャード様もプレゼントをされては……?」

「ほう、そうなのか!! じゃあ、今回の件が解決したらドワーフに何かアクセサリーを作ってもらおうかな……」

「ふふ、きっとモルガン様も喜ぶと思いますよ。想い人に宝石をプレゼントするのは素敵なことですからね。私もマリアンヌに渡すつもりです。ああ、でも彼女の美しさの前では宝石すらも霞んでしまう」



 アーサー皇子とモルガン様が幼馴染であり懇意にしているのは城でも有名である。あの誰にも厳しいモルガンが唯一ほほ笑む異性はアーサー皇子だけとまで言われているのだ。

 ここ最近、アヴァロンの所長室に頻繁に彼が出入りするのも見ている人間の中にはいちゃついてるんじゃないかというやつまでいるくらいだ。



「は……? 俺がモルガンに……?」



 だが、アーサー様は信じられないとばかりに顔をしかめた。調子にのって不快にさせてしまっただろうかと言葉を続ける。



「おや、違いましたか……? 今回の潜入の時も力を貸してくださいましたし、アーサー様はモルガン様と仲が良いときいていたのですが……」

「そんなわけないだろう。俺が渡すのは……その……いつもお世話をしてくれる人だよ」

「……」



 照れ隠しかなとも思ったが、その言葉でアーサーがモルガンにプレゼントをしようとしているのではないとわかってしまった。


 いつも世話をしてくれる人ですと!! まさかマリアンヌに渡そうとしているのか!! そういえば先ほど優秀な人間にマリアンヌのこともあげてらしたし……



 ガウェインはむっちゃてんぱってしまった。確かにマリアンヌは美しいし、家事など花嫁修業も完璧だし、美しい。だが、王族と結ばれるには身分が足りない。

 いや、仮に相手が王族ならば愛人でも十分なのだが……兄としてはちゃんとした夫婦として結ばれてほしい。いや、むしろ、自分が守り続けるのではだめだろうか? だめだよな?


 などと考えてしまうのだった。

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