第45話 いざ鉱山へ
「ほう……これが鉱山か、すごいな!!」
ぽっかりと山の中にぽっかりと空いたトンネルの前でアーサーは驚きの声を上げていた。城で育った彼はこんなにも大規模な山に入ったことはなかったのだ。はじめての光景に少しワクワクしているのである。
そして、そんな彼を見守る人間が一人いた。
「リチャード様、本気で鉱山に入られるのですか……?」
「当たり前だろ。俺はドワーフたちに会いに来たんだ。マリアンヌから聞いているだろ」
「それはそうですが……」
アーサーの言葉になぜかガウェインは驚きながら答える。なぜアーサーがここにいるかを説明しよう。
なぜかマリアンヌも治癒魔法を使わなくてもいいと言いはじめたので、善行ノートに書いてあった『ドワーフを助けろ』という目的を達するために、ドワーフたちの居場所を聞いたら「なるほど……それがプリムを救うことにつながるのですね、わかりましたわ。アーサー様」と言われここに案内されたのである。
いや、俺がわかっていないんだが……と思いながらも話をあわせたのである。
どうやら、ベディたちに教えているゲイルのような一部のドワーフをのぞいてほとんどは、鉱山の中で作業をしているらしい。
そのため、アーサーも足を運んだのだ。彼がなぜドワーフに会おうとしているかというと……
こいつらが何をなやんでいるなんて俺にわかるわけないだろ。だったら直接聞いた方が早いに決まっている!!
と考えたからである。実に脳筋である。そして、マリアンヌに頼まれたガウェインが護衛としてついてきたのだ。
「さあ、さっさといくぞ」
「はい!! わかりました。私が先導しますからついてきてください」
鎧を身にまとったガウェインと共に鉱山へと入っていく。ひんやりとした風にアーサーは少しわくわくしながらもあたりを見回すが鉱山は薄暗く、壁にある松明の明かりだけが頼りである。
「ドワーフたちはこの奥で作業をしているとのことですが、ここには魔物も出ることがあるらしいので私から離れないでください」
「ああ、わかった。それにしてもなんでみんな宝石が好きなんだ? ただの石だろう?」
世間話というわけではないが、アーサーはふと気になったこと訊ねてみた。彼自体は様々な貴族から宝石などをもらっているのだがいかんせん芸術や美の知識も興味もないのである。
そんなアーサーに少し言葉を選びながら、ガウェインは答える。
「そうですね……高価なものを身に着ければ立派に見えるからではないでしょうか? 宝石のような高く価値のあるものを手にしているということは、それを手に入れるだけの力や権力があるという証明になります。それだけ、その人間が優秀に見えますから……」
何か嫌なことを思いだしたかのようにガウェインは一瞬苦い顔をする。もちろん、アーサーはそんな様子に気づかずそのまま会話を続ける。
「そうかぁ? 人間の価値はその者の持つスキルや能力で決まるだろう。例えばケイやマリアンヌはメイドとしてしっかりとやってくれている。俺の取り巻きの貴族どもよりもずっと優秀だと思うぞ。それに、俺のような強力な治癒能力の持ち主ならば宝石なんぞ身に着けてなくても優秀だと証明できるしな」
「なっ……」
どや顔をするアーサー。ようは最後の俺はすごいんだぞといいたいだけである。
だが、そんな彼の言葉にガウェインは驚いたとばかりに目を見開いた。そしてなぜかアーサーを見てふっと笑う。その表情にはなぜか先ほどよりも好意が感じられる。
「そうですね……本来はそれが正しいはずなのですが、そううまくはいかないようです」
「まったくおかしな話だな。俺だったらそんなことは許さないがな」
「なるほど……だから、あなたは平民にも仕事を覚えさせその才能を見極めようとしているのですね……」
ガウェインのつぶやきは周囲を見るのに集中しているアーサーには聞こえなかった。そして、しばらく歩いていると煌びやかな鉱石がところどころ壁から顔を出しているのが見える。
「これは……確かにきれいだな」
煌びやかな石たちに少し評価を改めるアーサー。
まあ、でも、くれるといったらもらうがわざわざ高い金をはらってまで買おうとは思わないな……どちからというと極ウマ鳥などを食べてケイと一緒に楽しむ方がいいな……と思っていると、先ほどよりも穏やかな笑みを浮かべたガウェインが話しかけてきた。
「そうですね、先ほどのような権力者もですが、女性も宝石を好みます。彼女たちはこういう美しいものを身に着けるのを楽しみますからね。リチャード様もプレゼントをされては……?」
「ほう、そうなのか!! じゃあ、今回の件が解決したらドワーフに何かアクセサリーを作ってもらおうかな……」
ケイにでもプレゼントしようかとアーサーは声を弾ませる。
あ、でもケイへの御土産は燻製肉の方が喜びそうだな……
アーサーの中ですっかり花より団子のイメージになったケイである。
「ふふ、きっとモルガン様も喜ぶと思いますよ。想い人に宝石をプレゼントするのは素敵なことですからね。私もマリアンヌに渡すつもりです。ああ、でも彼女の美しさの前では宝石すらも霞んでしまう」
「は……? 俺がモルガンに……?」
意気揚々とマリアンヌへの想いを語るガウェインの言葉にアーサーはなにいってんだこいつとばかりに顔をしかめる。
なんで俺があのクソ女にプレゼントなんかしなきゃいけないんだよ。俺がわたすのはケイに決まっているだろ。
「おや、違いましたか……? 今回の潜入の時も力を貸してくださいましたし、アーサー様はモルガン様と仲が良いときいていたのですが……」
「そんなわけないだろう。俺が渡すのは……その……いつもお世話をしてくれる人だよ」
「世話をしてくれる人ですか……まさか……」
ケイと言おうとして恥ずかしくなって言葉を濁すアーサー。するとなぜかガウェインが顔をしかめたが、どんなものをプレゼントしようとかとなやんでいるアーサーは気づかない。
そして、それ以降なぜか沈黙の中たどり着いたのはどこか粗雑に作られた通路である。奥では作業をしているらしく、硬いもの同士がぶつかり合う音が聞こえてくる。
ようやくドワーフたちの元にたどり着いたようだ。急に押し黙ったガウェインに少し疑問に思いつつも音のする方へと進むのだった。
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