第44話 プリムの病とアーサーの狙い?
アーサーに断りをいれて友人のお見舞いに来たマリアンヌは変わり果てた友人の姿に、無駄だとわかっても声を掛けずにはいられなかった。
「プリム……大丈夫ですの!!」
ベッドに横たわるすっかりやせ細った体の少女からはもちろん返事はない。かつては誰にでも優しく笑顔の素敵だった彼女の面影はない。死んだように眠っている少女の唇からわずかに感じる吐息のみがまだ命があると証明している。
「彼女は鉱山で作業をしているドワーフたちに内緒でこっそりと奥に入ったらしくてね……倒れているところをゲイルというドワーフに助けられたんだが、それ以来意識を取り戻さないんだ……」
「そんな……プリーストには見せたんですの?」
「ああ、うちのお抱えのプリーストに見てもらったよ。即座に死に至るようなものではないらしい。だけど、治せないと言われてしまった……」
重いため息とともに病状を語るエドワードにマリアンヌはどんな表情をすればいいのだろうか? 重い空気をごまかすように質問をする。
「あの鉱山には何か強力な毒をもつ魔物でもいるんですの?」
「あそこはドワーフたちが出入りしているんだ。そんな魔物は……いや、まさかな……」
マリアンヌの言葉にエドワードは一瞬何かが思い当たったかのように眉をひそめるが即座に否定するかのように頭を横に振った。
そんな彼の様子が気になったが、そんなことよりももっと大事なことを確認する。
「そうですの……それでプリムを何とかする方法はありますの? 例えばエルサレムからプリーストを派遣してもらうとか……」
「それも試したよ。だけど、エルサレムのプリーストもうちのお抱えと同じ答えだったんだ……」
質問をしてからマリアンヌはエドワードの手がすさまじい力で握りしめられていることに気づく。
ああ、当たり前ではないですの。この方はプリムを誰よりも溺愛してましたわ。私なんかが考え付く方法は何でもやっているに決まっていますわ。
そもそも貴族のお抱えのプリーストは並みよりも上の腕前の持ち主だ。それでも無理となると治療できる人間は限られるだろう。
例えばエルサレムの聖女や、アーサー様とか……
アーサーに何とか頼んでみようと考え……マリアンヌは馬車の中での彼の言葉を思い出す。
『あと、俺は今回貴族を治癒しない。だから怪我には気をつけろよ』
なんでアーサー様はわざわざ自分にそんなことを言ったのだ? 考えなさい。マリアンヌ。孤児院の仕事を頼んだ時のようにあのお方の考えは自分なんかでは理解できないレベルに深くまで考えられているのだ。
もっと説明してくれればいいと思うがすべてを説明してしまえば私たちが成長しないと考えているのかもしれない。
「安心してくれ。私はロッド様の派閥の貴族だが、この鉱山の奥底に眠るオリハルコンで作ったアクセサリーを献上すればシーヨク様がアーサー様に口をきいてくださるとのことだ」
「シーヨク様がですの……エドワード様はあの方と仲が良いんですの?」
力なく笑うエドワードの言葉にマリアンヌは顔をしかめる。シーヨクという貴族はお世辞にも評判が良いとは言えない人間だった。マリアンヌもアーサーのメイドをしている時に何度か会ったことがあるがアーサーに歯の浮いたようなお世辞ばかりを言う成金というイメージしかない。
そして、鉱石好きでほしいものを手に入れるためならば手段は選ばないと聞く。
「ああ、あの方はよくうちに鉱石を買いに来てくれるんだが、機会があって我が家宝のオリハルコンの腕輪を見せたことがあってね……買いたいと言われたけどその時は断ったんだが、プリムが病にかかったという話を聞いてアーサー様を紹介してくれると言ってくれたんだよ」
「……その対価に何か言われませんでしたか? 例えばオリハルコンが欲しいとか……」
「ああ……アーサー様がオリハルコンに興味を持ったと聞いて、オリハルコンで作った指輪を献上すればみてくれるそうなんだよ!!」
「なるほど……」
アーサーの傍にいるマリアンヌからすればそれはありえないことだとわかる。あの人は鉱石に興味はないし、治癒魔法に関してもベディやケイ……そして、自分を含めて何の対価もなく治療をしてくれた。
自分たちは彼の仲間だったから対価はとられなかっただけかもしれないが、モルガン様を通せば治療に関してもそんな法外な寄付を要求しないでやってくれるに違いないと確信をもって思える。
アーサーは治癒魔法を頼むには法外な寄付が必要なだという噂は有名だったが、今のマリアンヌは彼の取り巻きの貴族のせいではないかと睨んでいる。
「ああ……そういうことですの……」
そこまで考えてようやくマリアンヌはアーサーの狙いを理解した。あの方はこれを機に自分の治癒魔法の力を悪用しているものをこらしめるつもりなのだ。
今のアーサーはかつてとは違い教会や、モルガンとのパイプも強い。貴族の横やりにも対抗できるだろう。
だから、孤児院の子供たちを連れてくると言い訳をして、ここにやってきたのだ。しかもわざわざ自分の正体を隠してまで……
彼はシーヨクを断罪しに来たのだ。
そう考えればわざわざ貴族令嬢を治癒しないとマリアンヌに事前に警告をした理由もわかる。アーサー様のことだ。プリムの病気のことも知っていたに違いない。
「大丈夫ですわ。きっとうまくいきますわ」
アーサー様がどうやってシーヨクを罰するのかはわからない。だけど、彼ならばなんとかしてくれる。 そして、すべてが解決したら心優しきアーサー様はプリムの事も助けてくれるに違いない。
強い信頼をもって、今も意識を取り戻さないプリムに声をかけるのだった。
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