第43話ドワーフの工房
ドワーフの工房を紹介してもらったアーサーはエドワードの館を後にしてドルフの街を歩いていた。
「それにしても、シーヨクか……こんなところで意外な名前を聞くものだ」
シーヨクという貴族もまたゴーヨク同様に彼の取り巻きの貴族の一人である。いつも何種類もの宝石の埋め込まれた指輪や腕輪などのアクセサリーを身に着けており、よくアーサーに宝石でできたアクセサリーのすばらしさについて語っていた記憶がある。
確か前の人生では『近いうちにアーサー様に珍しい石でできた指輪をプレゼントいたします』とか言って意味深に笑っていた記憶がある。
「確かあいつはドワーフたちに八つ裂きにされたんだよな……」
革命がおきたときも部下たちが逃げ出す中、一人で自分の屋敷で宝石をかかえて死んだという話を聞いた記憶がある。アーサーにとって宝石はキラキラした石ころにしか見えないが、彼にとっては大切なものだったのだろう。
とは言えだ……シーヨクから、エドワードの娘の件について今回の人生ではもちろん、前の人生でも聞いていないんだよな……
何か陰謀の匂いがするが、さっぱりわからん。
そう、基本的にアーサーは別に頭が良いわけではないのである。
「リチャード様、もうすぐドワーフの工房なんですね。楽しみです」
「どんなおっさんがでてくるんだろ!! やっぱり酒飲みながらやってるのかな」
考え事をしているアーサーに話しかけてきたのはベディとイースである。病気のプリムのお見舞いにいったマリアンヌとその護衛のガウェインの代わりにアーサーが、二人を引率しているのである。
治安の問題もエドワードから身分証をもらったので大丈夫だろうと判断したのだ。マリアンヌが申し訳なさそうにしていたが、アーサーとしてもずっと一緒にいると気を遣われまくって疲れるのでちょうどよかったので別行動をとったのである。
「あ、リチャード様、工房はこっちです。そっちは違いますよ」
「ん? そうか」
まあ、ベディの方がしっかりしているという現実からアーサーが引率者として役に立っているかは疑問だが…………そんなこんなで、ベディに素直に地図を渡し案内してもらいながらドワーフの工房にたどり着く。
そこはレンガつくりの頑丈そうな建物で、煙突からもくもくと煙が出ているが見える。
「失礼するぞ」
扉をあけるとその部屋の中心には炉が置かれており、囲むようにしててハンマーや冷却するための水槽などの様々な道具が置いてあるのが見える。
キンキン!!
という一定のリズムのする方を見ると小柄のずんぐりむっくりとしたひげ面の男が作業をしているのが見えた。
こういう時にどう話せばいいかはケイに教えてもらっている。
「お前がゲイルか? 俺の名前はリチャードだ。エドワード殿の紹介で子供たちに鍛冶を教えてもらいに来た」
「ん……ああ、そんな話もあったな」
うまくできたとちょっとどや顔のアーサーが声をかけるとドワーフはこちらを一瞥し、興味なさそうに再び金属を叩き始める。それを見て、ベディとイースが顔を見合わせるがアーサーは一瞬? という顔をすると再び口を開く。
「お前がゲイルか? 俺の名前はリチャードだ。エドワード殿の紹介で子供たちに鍛冶を教えてもらいに来た」
「……」
返事はなくキンキン!! という金属をハンマーでたたく音のみが響く。
「お前がゲイルか? 俺の名前はリチャードだ。エドワード殿の紹介で子供たちに鍛冶を教えてもらいに来た」
「うるせえな!! 同じことを言わなくてもわかってるんだよ!! あえて無視したのがわからねえのか!!」
たまらずドワーフが作業をやめて大声を張り上げる。俗にいう無限ループってこわくね? って状態だったのだろう。
「いや、ケイからこういう時には名前の確認と自己紹介、用件を話してくださいねと言われていたからな」
「だれだよ、ケイって!!」
「俺の専属メイドだ。忠義のメイドだよ」
「別に関係性をきいてるわけじゃねえよ!! なんだこいつ……話していると無茶苦茶疲れるな……」
ぶっきらぼうに接しているのに一切動じないアーサーにゲイルが頭を抱える。最近はケイがさりげなくサポートしたり、得意分野の治癒で活躍したりしているため勘違いされやすいがアーサーは空気の読めないコミュ障である。
それが今最大限に発揮されているのだ。
「俺らの仕事はお前ら人間には難しいんだよ。ましてや貴族の坊ちゃんなんて話にならないね。どうせお前らもすぐに逃げ出すんだ。大人しく帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな」
「俺に母はいないが?」
「それはその……すまん」
思いっきり馬鹿にした言い方をするも予想外の返しにドワーフが謝る。もちろん、アーサーは皮肉に気づいていない。
「あのすいません、僕らは本気で仕事を習いにやってきたんです。教えてくれませんか?」
「それに俺たちは孤児院の人間だよ。貴族じゃない。気合はたっぷりあるんだ」
「は? 貴族の人間が平民を連れてきただと……お前らまさか奴隷扱いされてるんじゃ……」
ゲイルの表情が怒りに染まり口を開く前にベディが先に叫ぶ。
「違います!! リチャード様は将来僕たちが困らないようにって仕事を学ぶ機会をくれたんです!!」
「そうだぜ、この人はちょっと頭おかしいけど、俺たちに家庭教師をつけてくれたりと優しい人なんだ」
「ふぅん……貴族にもいい奴がいるのは知ってるよ……こいつもそっち側だったんだな……悪かった。最近くそみたいな貴族と話したせいでよ……」
子供たちの言葉を聞いて素直にアーサーに頭を下げるゲイル。そして、彼は言い訳をするように言った。
「俺たちの敬愛するプリム様が病気になったのは知ってるだろ。そうしたらよ。この前派手な格好の貴族がやってきて、偉い人に治療をお願いするにはオリハルコンで作ったアクセサリーが必要とか言いやがるんだよ……オリハルコンは鉱山の奥底にしかないっていうのによ……そのおかげでほかのドワーフたちはオリハルコンをさがすためにずっと鉱山にこもってんだよ」
「ふむ……貴族にもくそなやつはいるからな。仕方ないさ」
「ああ、本当だよ。あの野郎は俺たちの作品の価値もわからないくせに金で買いあさりやがって!! しかもそれを転売していやがるんだ。むかつくぜ!!」
よほど腹に据えかねていたのか文句が出てくる出てくる。よほどクソの貴族だったのだろう。そして、ここでドワーフに貸しをつくれば善行になるのではないかとアーサーは考えた。
「ふむ……その貴族は誰だ? 抗議しておいてやろう」
「シーヨクとかいうやつと、その親玉のアーサー皇子めぜったいゆるさねえ!! 俺たちの愛しのプリム様の命を天秤にかけやがって!!」
「ん? アーサー? 俺か? あ、やべ!!」
ここで50%がでてしまった。あ、これ正体がばれたらまずいやつだなと、さすがのアーサーも悟ってあわてて口を紡ぐ。もちろん怪訝な顔をするドワーフのゲイル。
そして、いつもならばそこをフォローするのがケイなのだが……
「リチャード様、ここは僕らが話を通しておきますから屋敷にもどっておいてください」
「いや、だが……」
「大丈夫ですからね、ね」
と子供に気を遣われるアーサーだった。
屋敷に戻ったアーサーはシーヨクの行動について考える……がもちろんさっぱりわからない。
いや、もう、プリムとかいう女を癒しちゃえばよくない? 善行ノートには『とある貴族の少女に治癒能力を使ってはいけない』書いてあったが、なにか裏道はないだろうか……
そんなことを思っていると、どこか張りつめた様子のマリアンヌと出会う。
「なあ、もういっそのこと……」
「アーサー様……わかっていますわ。あなた様がここに来た本当の理由も……そして、今回は治癒をしないと私に言った理由も……」
「え……?」
さっそく出鼻をくじかれる。何かを決意していた瞳のマリアンヌには悪いがさっぱりわからないアーサーだった。
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