第41話 鉱山都市ドルフ

今回アーサー君は偽名を使ってます。









「アーサー様、街に着いたようですわ!!」



 マリアンヌが開けた扉の外にはまるで異国のような光景が広がっていた。山に連なるように作られたレンガの住居や精錬所が立ち並んでおり、歩いている人間やドワーフも屈強な男が多い。

 息を吸うと鉱物の香りが感じられる。目的地の領主の屋敷へ行く前に街で降りたのはアーサーのリクエストだ。彼は来れなかったケイのためにもお土産話のネタをさがしているのある。



 エルサレムとも違う雰囲気だな……世界はこんなに広いのか……



 前の人生ではほとんど王城で過ごしていたアーサーは改めて世界の多様性に驚いていた。そして、世界の広さに改めて面白さを覚える。


「こほん……それではこれ以降はリチャード様とよばせていただきますわね」

「ああ、地方貴族のリチャードとして扱ってくれ」



 リチャードというのが今回のアーサーの偽名である。設定的にはモルガンの部下であるリチャードが子供たちにドワーフの技術を教えるためにドルフに来たということになっているのである。

 モルガンの部下というのが若干イラっとしたが、納得した。そう、アーサーは器が大きいのである。大きいか……?



「リチャード様、ここは王都と違いあまり治安が良くないのです。気を付けてくださいまし」



 マリアンヌは馬車から降りようとするアーサーを心配そうに見つめて、転ばないように支える。

 そこまでしなくてもいいのにな……と思いつつ過保護なお姉さんメイドであるケイに慣れているからか、特に抵抗なく受け入れる。



「ああ、ありがと……」

「リチャード様……わが妹が美しく、魅力的なのはわかりますがちょっと近いのではないでしょうか?」



 マリアンヌに感謝の言葉を伝えようとした時だった。護衛の騎士たちが乗る馬車から一人の甲冑を身にまとう金髪の青年が飛び出すようにやってきた。

 そして、アーサーとマリアンヌの間に割って入ると笑みを浮かべる。



「このたび護衛を任されているガウェインです。よろしくお願いします。わが妹と一緒の馬車での旅は最高だったでしょう? ああ、同じ空気を吸えてうらやましい!!」

「あ、ああ……」

「ガウェインお兄様恥ずかしいからやめてくださいまし!! それにリチャード様に失礼ですわよ!!」



 突如やってきたガウェインをマリアンヌが押しのけようとするが、彼はまるで根が張っているかのように微動だにしない。



 こういう風に意見を求められたときはとりあえず同意をするのがいいとケイが言っていたな……



 今回の旅で同行できないケイからアーサーは様々なことを教わっていたのである。特にコミュニケーションについて……

 ただ、ケイが教えたのは一般常識であり、常識がない人間が指示通りにやるとどうなるのか……そこまでは彼女は想像できなかったのである。

 


「ああ、マリアンヌは美しく気が利くからな。彼女との馬車の時間はとても素敵なものだったよ」

「な……」

「リチャード様ってばほめすぎですわ……」



 無自覚なアーサーに煽られガウェインの表情が固まり、マリアンヌは顔を真っ赤にする。二人の様子に怪訝な顔をするアーサーだったが、とりあえずマリアンヌが喜んでいるのでよいかと思うことにした。



「あー、またマリアンヌねーちゃんがリチャード様の前だからってデレデレしてるー」

「イースそんなこと言っちゃダメでしょ!!」

「こら、二人とも、馬車の中で待ってないとだめではありませんこと!!」



 アーサーたちの方にやってきたのは彼に治療をしてもらった少年ベディビエールとその親友のイースである。彼らが今回同行する子供たちなのだ。



「ねーねー、マリアンヌねーちゃん。そこの屋台に美味しそうなお肉が売ってるんだよ。食べようよー!」

「あなたたち……私たちはお忍びとはいえ貴族の従者としてきているんですのよ。そんなはしたない真似できませんわ」



 おねだりするイースの言葉に一瞬だが、アーサーを見て注意をする。マリアンヌの言葉は間違いではない。普通の貴族は露店の商品なんて、何が入っているかわかったものではないと決して口にはしないのである。

 それが王族となればなおさらだ。



 まあ、アーサーが普通の王族だというのならだが……



「仕方ないな。俺がおごってやろう。露店にいくぞ」

「わーい!! お兄ちゃん話がわかる!!」

「ちょっと、リチャード様!?」

「いいじゃないか? 子供たちはこういうのがはじめてなのだろう?」



 マリアンヌにそう答えるアーサーだが、もちろん完全な善意ではない。一つは子供たちが嬉しがることをして、善行ポイントを稼ぐこと、あとは単純に彼も食べたかったのである。



 鉱山都市の燻製肉だと……? いったいどういう味がするというのだ?



 馬車の中でマリアンヌから聞いた燻製肉に心惹かれていたアーサーはにっこにこで子供たちを連れていくのだった。

 そして、その様子を見ていたガウェインの目が見開かれる。



「なるほど……さすがだな、リチャード様は」

「どういうことですの、ガウェインお兄様?」

「考えてもみろ、私たちは今回身分を隠してここにきているんだ。王族が露店で飯を食べるなんてだれが思う?」

「な……確かに私たちはまだまだでしたわね……」



 そうしてなんか知らんけどアーサーの評価がどんどんあがっていくのだった。








 しかし、順調と思っていた旅は意外な出来事に襲われることになる。



「そんな……あの子が……プリムが重病って本当ですの?」



 そう、訪ねるはずのマリアンヌの友人は病床にいたのである。

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