第38話 予想外の訪問者
「お久しぶりですね、アーサー兄さん」
「は? モードレット!? なんで……?」
突如やってきた来客にアーサーは情けない声を上げる。目の前の金髪の少年……モードレットは無邪気な笑みを浮かべながらすすめられてもいないのにアーサーの正面に座る。
ケイーー!! このさいモルガンでもいい!! 誰か来てくれーーーー!!
むっちゃ動揺するアーサー。それも無理はないだろう。なぜならば彼が処刑される革命の首謀者は目の前のモードレットなのだ。
時々アドバイスをくれる(アーサー視点)ロッドとは違い、元々大して仲良くなかったうえに何を考えているかわからないし、関わりたくないというのが本音である。
「ああ、人は呼ばないでおいてほしいな……せっかく兄弟水入らずで仲良く会話をしたいだけなんだからさ」
呼び鈴を鳴らそうとしたアーサーを、笑顔を浮かべながらモードレットが止める。余裕たっぷりのモードレットに対してアーサーは……
ふっざけんなよぉぉぉぉぉ!! 俺は別に話したくなんかねーよ!!
とむっちゃ焦っていた。そもそも今のアーサーは善行ノートによって明かされる誰かに毒殺されるという事実に動揺を……とそこまで考えて、一つの事実に思い当たる。
あれ、俺が死ぬのはまだ先だな……今は大丈夫では……? だったらむしろこいつから何らかの情報を得ればいいんじゃないか?
「それもそうだな……久しぶりだ。二人で近況報告でもしようじゃないか?」
自分の身が大丈夫だとわかりいきなり冷静になるアーサー。実に現金である。
「ふふ、それはよかった。最近の兄さんは変わったね。平民を専属メイドにしたり、孤児院を訪問したりしたんだって? モルガン義姉さんになんか言われたのかな?」
「おい、待て!! モルガン義姉さんってなんだよ。薄気味悪いことをいうんじゃねえよ」
何かを見透かそうとする目で見つめるモードレットの視線に一切気づかず、アーサーは素っ頓狂な声をあげた。
「あれ、父様から聞いてない? モルガン義姉さんの方から打診があったから、近いうちに正式に発表するって言ってたけど……」
「うへぇ……」
思わず情けない声を上げるとモードレットはクスリと笑う。なぜ当事者であるアーサーよりも、彼の方が先に情報を得ているのか……?
それを考えるとモードレットの情報網が恐ろしいのだが、もちろんアーサーはそんなことに気づいていない。ただ、前の人生と同様に決まっていく目の前の現実に絶望しているだけである。
「だけど、その様子だとモルガン義姉さんと仲良くなったってわけじゃないんだね? じゃあ、なんで平民を癒したり、面倒見始めたんだい?」
「ああ……それはだな……ブリテンの問題点を考えればお前だってわかるだろ?」
「問題点か……兄さんは一体何だと思っているんだい?」
何が何だかわからないという風にすっとぼけるモードレットにアーサーは以前の人生を思い出して決め顔で言った。
お前が問題だと思って革命をおこした原因を知っているのだぜと、それはもう本当に得意げな様子で。
「最も大きなものは民衆と貴族との格差の問題だな。だから、俺は彼らを重用し、格差をなくす努力をしようと思っている。それには、まず彼らに接して平民たちの人の心を知らねばならない。そう思って、孤児院を訪れたんだ。治療もその一環だな」
我ながら完ぺきではないだろうか? もちろん即席ではない。本来はモルガンに平民を治療した時に叱られたとき用の言い訳として考えていたのだが、ここで発揮された。
その言葉に肝心のモードレットはというと……
「ふぅん、兄さんは平民のことを知ろうとちゃんと考えているんだね……このクッキーも平民の気持ちを知るためかな?」
「あ、ああ……」
テーブルの上に置いてあったつまみ食い用のクッキーを手に取りなぜか興味深そうに見つめる。
いや、単純に美味しいからだが? とはいわないアーサー。彼は空気を読めるようになったのである。味わうようにクッキーをかんだモードレットは、先ほどまでの無邪気な表情を隠し真面目な顔になりぼそりとつぶやく。
「今の兄さんになら頼めるかな……」
「ん? なんだって?」
アーサーはぶつぶつとつぶやいたモードレットに聞き返すが、それを華麗にスルーして、彼はまた無邪気な笑みを浮かべる。
「お願いがあるんだ……ドワーフたちがいる鉱山の視察をしてくれないか?」
「は……? ドワーフの鉱山だと……?」
「うん、そこで平民と貴族の間でちょっと問題がおきてるって話を聞いてね……本当は僕がいきたいんだけど、僕の派閥の貴族はロッド兄さんやアーサー兄さんに比べて少ないから、色々と自由が効かないんだ」
いや、めんどくさいな……最近勝手に勘違いされているが、基本的には善人ではない。自分の命や知り合いのためならば頑張るが、知らんドワーフのために頑張る気はない。
「まさか、めんどくさいから断ろうなんておもってないよね? 兄さんはさっき平民のことを考えているって言っていたもんね」
「う……」
こいつ心でも読めるのか? と動揺していたアーサーの目に入ったのは、机の上にあった善行ノートが光りかがやく姿だった。
フラグたっちゃったのかよーーー!!
数日後、ドワーフの鉱山へと向かう、なぜか変装しているアーサーとその一行の姿が目撃されるのだった。
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