第37話 これからの話
城について馬車から降りたアーサーを待っていたのは不気味な笑みを浮かべているモルガンだった。
「アーサー皇子お疲れさま。ずいぶんと派手に治療をしたようね」
「ああ、俺の治癒能力をわからせてやったぞ」
これは怒っているのか……? と少し緊張しながらアーサーは返事をする。やはり他国の民を勝手に治療したのはまずかったか? どう言い訳をする?
彼の脳裏をよぎるのは前の人生でのお説教タイムである。『おなかが痛いからトイレに行く』と言って逃げるか……と考え駆け出そうとした時だった。
「さっそくお礼の手紙が来ていたわ。聖女様はあなたのことを褒めていたわよ。さすがね。アーサー皇子。これで教会はあなたの味方をしてくれるでしょう。あなたの計画通りね」
「あ、ああ……」
どうやら怒っているわけではないらしいとほっと胸をなでおろす。
こいつ怒ってる時も褒める時も笑ってるからよくわからないんだよな……てか、俺の計画って何だろう?
聞いたらなんかめんどくさくなりそうだからと適当に頷くことにするアーサー。
そして、褒められていると知ったアーサーはもちろん調子に乗る。前の人生のこともありモルガンにはマウントを取れる時には常に取るようにしているのである。
「ああ、そいつらを助けただけじゃない。村の近くにコカトリスとかいう魔物もいたからな。ついでに倒してやったぞ。なんか変な毒をもっていたが俺の相手じゃ……」
「はぁぁぁぁーーー? コカトリスですって!! 五大害獣の一匹じゃない!! そんな化け物と戦ったっていうの!?」
「うおおおおおお!?」
いきなり大声をあげたモルガンにびびるアーサー。この女情緒不安定すぎないか? と若干引いていると助け船がやってきた。
「落ち着いてください。モルガン様。アーサー様は単身でコカトリスの様子を見に行った聖女さまを助けに行ったのです。危機に陥っていた聖女様を助けるその姿はまさに英雄のようでした」
ぽろろんー♪ とまるで英雄譚を歌う詩人のように竪琴を鳴らしながら歩いてきたのはトリスタンである。
あの武器は楽器としても使えるようだ。無駄にすごい。
「なるほど……聖女に貸しをつくるために戦ったってことなのね……でも、アーサー皇子あまり無理はしないで。あなたの肩にはこの国の未来がかかっているのよ」
納得したとばかりに頷いた後にモルガンはへらへらとしているトリスタンを睨みつける。
「アーサー皇子の身に危険が降りかからないように護衛としてあなたをつけたのに、なんで彼が戦っているのよ」
「これはこれはお厳しい。ですが、私にはコカトリスの相手は重すぎました……それにアーサー様はコカトリスごとき敵ではないとわかっていたから戦いに行ったのです。そうでしょう?」
「ああ、もちろんだ」
これ幸いと頷くアーサー。もちろん魔物の正体なんてしらないし、たんに美味しいと聞いていたので倒しにいっただけなのだが、とりあえず空気を読む。そんなことよりももっと大事なことがあった。
こいつモルガンの部下だったのかよぉぉぉぉぉぉ!?
屋台で買い食いとかいろいろとやらかした気がする。余計なことを言うなよ、とにらみつけるとトリスタンはわかったとばかりに頷いた。
「ご安心をアーサー様。あなたが聖女様の豊満な胸に顔を押し付けられデレデレしていたことは誰にも言いませんよ」
「……は?」
「いや、デレデレなんてしてないが……」
こいつは何を言っているんだと冷めた表情で返すアーサー。なぜかモルガンがすっとんきょう(素っ頓狂)な声を上げていたが気にしない。
まあ、これ以上ここにいても面倒なことになるだけだと思いさっさと自室へ戻ることにしたアーサーだったが、最後に一つだけ言うべきことを思い出す。
「なあ、モルガン……」
「なにかしら……?」
なぜか不機嫌そうになっているモルガンに一瞬びびるが気にせず続ける。
「お前がいつか言った『他人の言いなりになっているだけでなく、自分で考えて行動をしなさい』って言葉の意味がやっとわかってきたよ。ありがとう」
「え……?」
前の人生ではわからなかった。いや、わかろうともしなかった言葉だ。だけど、彼女はずっとアーサーに訴え続けていたのだ。
そして、この言葉のおかげでアーサーは少し変われた気がするのだ。だから悔しいけど……本当に悔しいけど……たまには彼女の正しさを認め、感謝の言葉を伝えてもいいかなと思ったのである。
「そう……私の言葉があなたの原動力になっていたならよかったわ」
そういうとモルガンは微笑んだ。その笑顔はいつもよりも不思議と優しく見えた。
「素晴らしい方ですね、アーサー様は……」
「ええ、そうね……」
なぜか逃げるように去っていく彼を見ながらモルガンはトリスタンの言葉に頷く。彼は不思議な人間だった。前までは何を言っても変わらないどうしようもない馬鹿皇子という印象だった。
だが、ここ最近の動きでそれが演技だったということがわかり、それを見抜くこともできずにモルガンは彼にぐちぐちと言っていた自分を恥じていたのだった。
「だけど、私の言葉には意味があったのね……」
それはもしかしたら気にしている自分を思っての優しい嘘だったのかもしれない。だけど、本当に彼の心を自分の言葉が動かしたというのならばうれしく思う。
「例の話……正式に受けてみようかしら」
「おや、アーサー様との婚約のお話ですか?」
「ええ……私じゃまだまだかもしれないけど、覇道を征く彼を支えたいと思うの」
「良いと思いますよ」
モルガンの言葉にトリスタンは微笑みながら頷く。彼の人を見る目は確かだ。そんな彼が否定しないということはアーサーは眼鏡にかなったのだろう。
ならば自分もブリテンを変えるためにそろそろ本気で彼の力になるために覚悟をする必要があるかもしれない。
中立だったアヴァロンがアーサーを支持する。これは大きな変化を生み出すだろう。
だが、その前に一つだけ確認すべきことがある。
「ねえ、アーサー皇子と聖女はどんな感じだったのかしら?」
「え……?」
めんどうなことになりそうだとトリスタンが逃げ出そうとしたがもう遅かった。彼のマントはモルガンによってしっかりと握りしめられている。
彼はくだらないことを言ってアーサーとモルガンの反応を楽しもうとしたことを後悔するのだった。
自室に帰ったアーサーは少し休憩をして、机の奥底にしまってある『善行ノート』を手に取った。今回もノートに書かれたことに従って、善行ポイントを稼いだはずだ。
まあ、エレインとの勝敗はあいまいだった気がするが最後は彼女も感謝していたようだし、無事わからせることに成功しただろう。
そう考えながらノートを開く。
『エレインと友好を育み彼女のモチベーションを上げることに成功。そのことによって、エルサレムの力があがったことにより救われた人が増えて善行ポイントが20アップ』
『村を救い、騒動の原因となったコカトリスをたおしたため善行ポイントが10アップ』
『合計30ポイント得たおかげで人生が変動いたしました。また大量にポイントを稼いだことによりルートが二つ発生いたしました』
「よっしゃーーーーー!! 三十ポイントゲットォォォ!! エレインとの友好とかいうのはよくわからんがまあいい。俺の未来はどうなった?」
興奮しながら彼はノートに書かれている未来を見つめる。最後の方のページを見ると革命がおきて捕らわれることは変わっていない。
だけど、エルサレムの聖女を筆頭に少なくない人々が反対をしたおかげで、終身刑になったとかいてある。
「少しはましになったかな……あと一歩だろうか?」
そう思って最後の一ページを見ると、信じられない言葉が追加されていた。
『牢獄にて毒殺される』
「は……? なんだよ、これ……」
アーサーは思わず間の抜けた声をあげてしまった。だって、ギロチンならば市民の意見という事で理解をできる。
だけど、毒って……これは暗殺じゃないか……
つまり誰かの意志でアーサーは殺されたという事になるのだ。その事実に冷や汗を垂らしている時だった。
コンコンとノックの音が不気味にひびくのだった。
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