第36話 旅を終えて
森の主を倒したアーサーとエレイン、ついでにトリスタンがコカトリスの死体をもって帰ると、村長にすごく驚かれた後、村人に再び感謝されまくった。
また、宴会が始まりそうになったのだが、森の主は珍しい魔物だったらしく、エレインが教会に報告をしに戻らなければいけないということと、アーサーも、そろそろブリテンに帰らなければいけないので、お土産をもらって帰還することにしたのだ。
「まさか森の主があんな味だったなんてな……」
「噂はあくまで噂でしたね……ですが、極ウマ鳥の干し肉をお土産としていただきましたしブリテンに帰ってからも楽しみです」
アーサーとケイはげんなりとした顔でため息をついた。村人に頼んでこっそりコカトリスの肉を食べさせてもらったが、ゴムのような触感と無味無臭で何とも言えない味だったのだ。
まあ、冷静に考えたらあんな毒だらけの魔物がうまいわけないよな……。
「それにしても、アーサー様達が森の主を倒した時はみんな喜んでましたね。みなさんはアーサー様とエレイン様を英雄だーって讃えてて、聞いている私も嬉しくなっちゃいました」
「ああ、大した強さじゃなかったが、森にあれだけ毒をまき散らしていたからな……村人からしたら、いい迷惑だっただろうよ」
相性がよかったこともあり、苦戦していないためかコカトリスの恐ろしさをいまいちわかっていないアーサーだった。
「そうだ、エレインと一緒に森の浄化もしておいたんだ。これからも極ウマ鳥は食べられるぞ。よかったな」
「はい、さすがです、アーサー様。お優しくて、私も専属メイド(姉)として鼻が高いです」
「ふふ、ケイは本当に極ウマ鳥が好きだなぁ……」
喜んでいるケイに苦笑するアーサーだが、なぜかケイは首を横にふった。
「違いますよアーサー様、そりゃあ、極ウマ鳥がまた食べられるというのは嬉しいですけど、私が喜んでいるのは他の国の方もアーサー様のことを素晴らしい方だとわかってくれたからです。それが本当に嬉しいんです」
「ケイ……本当にお前は……」
自分のことのように喜んでくれている彼女を見て、思わず目頭が熱くなるのを感じる。そして、アーサーも、村人たちにお礼を言われて、まんざらでもない気持ちになっているのを自覚していた。
貴族たちを癒していた時には感じなかった胸の暖かさ……これは俺もうれしいってことなのか?
かつてモルガンに言われた「他人の言いなりになっているだけでなく、自分で考えて行動をしなさい」といった意味がわかってくる。そりゃあ、ケイに美味しいものを食べさせたいという気持ちがほとんどだった。だけど、心の片隅では村人たちを心配していた思いも本当にちょびっとだがあったのだ。
「私の気持ちが伝わってよかったです。あと、もう一つだけ注意させてください」
「ん、なんだ?」
先ほどまでの笑みを消してケイが真剣な顔でこちらをみつめてくる。その様子にアーサーは思わず冷や汗をかく。
何かやってしまったのだろうか?
「アーサー様がすぐれた治癒能力を持っていて誰にでも優しい人だというのはわかっています」
「あ、ああ……」
別に俺は優しくなんかないぞと言おうとしたが、いつにない真面目な様子のケイに思わずうなずくアーサー。最近ちょっとだけだが空気を読めるようになってきたのである。
「ですが、ご自分の身のことをもお考え下さい。それと、どこかに行くときは私にも一言お声をかけてください。私は確かに戦うことはできません。そこは護衛の騎士さんに任せます。でも、どこかに出発するあなたの世話をして帰りを待つのも私の仕事なんです。朝起きたときにアーサー様がいらっしゃらなくてすごく心配したんですよ……」
「ケイ……ごめん……俺はお前を喜ばそうと……うおお」
彼は最後まで言う事は出来なかった。なぜなら彼女にその頭を胸に押し付けられたからだ。
「あなたが私や村人のために頑張ったっていう事はわかってます。でも、私があなたを心配しているってことも知っていただけると嬉しいです」
「ああ、わかった。今度からはお前に黙ってはいかないよ」
「ありがとうございます。アーサー様はいい子ですね」
アーサーの言葉に嬉しそうにほほ笑んで彼の頭をなでながら抱きしめる。アーサーももう慣れたもので彼女にされるがままにしていた。
エレインが見たら発狂しそうな光景だったが幸い誰もつっこみをいれる人間はいない。
今回の遠征ではいろいろな経験をしたものだ。実力もわからせてやったし、しばらくは味覚がいかれた聖女ともしばらくは会うことはないだろう……アーサーはそんなことを思いながら、ケイの胸元で休むのだった。
この後ブリテンに帰還したアーサーを満面の笑みで出迎えたモルガンによって、教会との関係性をより深めるために、年に一度の交流会が月に一度に変わったと伝えられ、毎回激辛料理を持ってくるエレインに頭を抱えることになることをアーサーはまだ知らないのだった。
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